第二十九話 はーい、明日から転校生来るよ~っていう先生の気持ち。
エカテリーナ様からのお願い――まあ、未来の義母からのお願い、幾ら公爵令嬢とはいえおいそれと断る訳には行かない。それとなーくお父様に意見を頂戴しても『お前の始めた勉強会だろ? 好きな様にしなさい』というなんとも有り難いんだが有り難く無いんだが分からないお言葉を頂いた。っていうかお父様? もしかしてあんまり私に興味ない感じ?
「……はーい。集合~」
呼び出しの翌日。今日は全員集合で勉強会だったので、休憩時間に集合を掛ける。ちなみに『アリスちゃん女教師バージョン』は私の頑強な抵抗によりお蔵入りとなった。ジークとラインハルトが少しだけ残念そうな顔をしており、ママ的には『何考えてんだ、このマセガキ』という気持ちで一杯だ。七歳児だろうが、お前ら。
「……どうした、アリス?」
「なんか用かよ?」
二人で談笑していたジークとラインハルトが連れ立ってやって来る。その後ろからリリーと、お茶の用意をしてくれていたメアリも続く。
「……はーい。それじゃ皆に報告があります。ええ~、明日から、皆さんと共に学ぶ新しい仲間が出来ます。はい、拍手~」
私の言葉にリリーとメアリが拍手をしてくれる……も、ジークとラインハルトは訝し気な表情だ。なんだよ? 喜べよ!!
「……なに、ジーク、ラインハルト。なんか文句ある?」
「いや、別に文句という訳ではないが……」
「ああ。別に文句はねーけど……っていうか、なんでそんなに喧嘩腰なんだよ、お前」
別に喧嘩腰でも無いけどね。なんとなく、やさぐれ気分なだけで。
「……まあ、色々あるのよ。ともかく! 明日からエヴァンス侯爵令息であるエディ・エヴァンス君が一緒に学ぶ事になりました! みなさん、仲良くしましょー!」
気分はまるで転校生を紹介する先生。そんな私の言葉に、ジークとラインハルトが渋い顔をした。なんだ?
「……エディか」
「……よりにもよってアイツかよ」
「……なに? 二人とも知り合い?」
首を捻りながらそう尋ねる私に、ジークとラインハルトが顔を見合わせた後、小さくため息を吐く。
「……まあ、王太子では無いとは言え、俺は第一王子だ。エディの父であるエヴァンス侯爵は王国宰相だろう?」
「俺ん所も似た様な感じだな。近衛騎士団長の息子だし。近衛と宰相って言えば『武』と『智』、王国の両輪だろ? 小さい時から会う機会もあったんだが……」
「……なに? なんで溜めるのよ?」
「いや……エディの父であるエヴァンス侯は……その……なんというか……」
「イカれた人だな」
「ラインハルト!! 口が過ぎるぞ!!」
「事実だろう?」
「まあ……ある意味、突き抜けた人ではあるが」
「……大丈夫なの、宰相がそんな人で?」
「アリスも知っているだろうが、エヴァンス侯は能力は凄いからな。内政、外交、軍政……軍令では無いぞ? ともかく、およそ『国家』を運営するという点では秀でた人だ」
「……化け物みたいな人って認識で良い?」
「間違えねーな。ただ……なんだろう? 結構、ぶっ飛んだ人なんだよ。まあ、そういう意味では『化け物』みたいな人で認識は間違ってねーよ」
「……具体的には?」
「王立学園の体育館、あるだろ? あそこを『れっつ、実験!』って言って使って……」
一息。
「……屋根が吹き飛んだらしい」
「それ、ま?」
「怪しい薬品を幾つか混ぜたらしくてな。父上がまだ王子の時だから、今から三十年ほど前の話にはなるが……まあ、ともかく、似た様な逸話に事欠かない人ではある」
「でも、優秀は優秀だぞ? 王宮に出仕したての頃に汚職事件している役人見つけ出して牢に入れたのもエヴァンス侯爵だし」
「内政改革案を幾つも出しているし、実行されている政策も多い」
「……優秀じゃん」
「だから言っただろう? 優秀は優秀なんだよ、エヴァンス侯は」
「そうそう。能力は間違いなくたけーよ。ただ」
「ああ、ただ」
「「……やり方が残念だ」」
「……」
「罪人相手なのでそれで良いと言えば良いんだが……」
「ツめ方がえげつないよな? 逃げ道探して逃げた先で、頭の上に石がどーん! って感じで落ちて来るって云うか……希望の光の先に絶望があるというか……そんなカンジ」
「真綿で首を絞める様にいたぶるのが好きな人だからな、あの人は」
……七歳児二人に『やり方が残念』って言われるって、どんな人なんだよ、エヴァンス侯爵。
「……ヤバすぎんでしょ、その人」
「……ここ数年は大人しい。宰相になってからは、流石に無茶な事はしていないと思うが……なんというか、才能が極端な人だから……」
「……」
……なるほど。そりゃ、『優秀な子供競わせて、生き残ったヤツを跡取りに!』みたいな発想になるわな。マッドサイエンティストだよ、考え方。
「……それじゃ、エディもそうなの?」
「エディは……」
言い淀むジーク。そんなジークにため息を吐き、ラインハルトが口を開いた。
「まあ、一言で言ったら根暗なヤツ、かな?」
「……明るい人間ではないな」
「いっつも本ばっかり読んでるし、話しかけたら『煩い!!』って怒ってるイメージしかねーよ」
「……私もだな。社交性が高い人間、という訳では無いと思うし……なにより、エヴァンス侯爵の御子息だ。頭は良い人間だし、誰かと共に勉強に励むより、一人で本を読んでいた方が身になるタイプだと思うんだが……」
……なるほど。陰キャでコミュ障って事か。
「……んじゃ仲良くするの、結構大変?」
私の言葉にジークとラインハルトは目を合わせて。
「「――きっと、大変」」
……息、ぴったりじゃねーか。
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