第二十八話 赤ちゃんはコウノトリさんが運んできます!
「仲間……と、言われますと? 勉強会の?」
不意なエカテリーナ様の申し出にきょとんとしてしまう。仲間? 勉強仲間って事?
「そう。勉強会のメンバーにもう一人、増やして欲しい」
「……はぁ」
いや……別に私主催……なのか、あれ。まあ、私主催の勉強会ではあるが、参加者の意見も聞かなくちゃいけない気がするし、そもそも。
「ええっと……『誰』と『何故』をお聴きしても良いですか?」
私の言葉にエカテリーナ様はこくんと可愛らしく首を縦に振って口を開く。
「勉強会の仲間に加えて欲しいのはエディ。エディ・エヴァンス。エヴァンス侯爵家の一人息子」
「エディ・エヴァンス……」
エディ・エヴァンスって……ああ!
「宰相閣下の!」
「そう。デイヴィット・エヴァンスの所の跡取り息子で、次期エヴァンス侯爵……候補」
「なるほど! 次期エヴァンス侯爵――」
……ん?
「……候補?」
「そう。エヴァンス侯爵の所はまだ跡取りが定まってない」
「……ええっと……」
どういえば良いか……
「忌憚のない意見で良い」
「……エディ様はポンコツなのですか?」
……まあ、あの『わく学』を見ていれば大体分からんでも無いが。そんな私の言葉に、エカテリーナ様は可笑しそうにクスクスと笑って見せた。
「やっぱりアリスは面白い。エディの事を『ポンコツ』なんて言う貴族令嬢はきっと、アリスぐらい」
「……」
……かもね。でも、全国で……何人いるか知らんが、数少ない『わく学』プレイヤーはきっとみんな言うぞ? あのポンコツ侯爵令息かって。
「そんな事は無い。無いけど……エヴァンス侯爵家は結構、複雑」
「複雑、ですか?」
いや、まあ……そら、貴族階級の家は大なり小なり複雑なんじゃないの? ウチはまあそうでも無いだろうけど、ラインハルトだってジークだってそこそこ複雑な家庭環境だと思うけど。そんな事を思いながら、紅茶に口を付けて。
「デイヴィット・エヴァンスには子種が無い」
「ぶふぅ!?」
紅茶、噴き出しました。え、エカテリーナ様!? あんた、なんば言いよっと!?
「……アリス、汚い」
「も、申し訳――ではなく!!」
何てこと言うんだ、この王妃様。どれだけ私の中身が三十路一歩手前とは言え、現状では七歳の幼女だぞ? そんな幼女に子種って。
「え、エカテリーナ様? こ、子種って……」
少しだけ頬を染めてそう問う私に、エカテリーナ様が何かに気付いた様に『はっ!』という顔をして見せた。エカテリーナ様らしからぬ、そんな表情そのままに口を開いて。
「……間違えた。コウノトリさんが赤ちゃんを運んで来なかった」
「……いや、コウノトリさんって」
誤魔化し方が雑過ぎやしませんか、エカテリーナ様。
「赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくるの。アリス、知らないの?」
少しだけ冷や汗を流しながらそういうエカテリーナ様。はぁ……まあいいや。
「……ええっと……コウノトリさんですね?」
「……そう。コウノトリさんが赤ちゃんを運んで来てくれなかったから、分家とか他所の家から養子を沢山取った。その中で、一番優秀な子を跡継ぎにしようとした。競争して、その中で一番優秀な子を……エヴァンス侯爵家の跡取りとして」
「……それはまた」
なんか『蟲毒』を思い出すな、それ。流石に感じが悪いっていうか……胸糞悪いっていうか。
「……忌憚のない意見」
「地獄に落ちやがれ、侯爵」
「……ふふふ。まあ、アリスの気持ちも分かる。それで、エディはすっかり……その……拗れちゃった」
「……ですよね~」
……なるほど。そういう事情があればあの超絶俺様キャラも少しだけ納得できる。弱みを見せる事が出来ない中で生きていくなら、弱点なんて見せれないよな。
「エディは頭が良い子。ジークも賢いけど、ジークよりも賢い」
「……とんでもないですね、それ」
五歳で史学の本を読んで暗記したジークより賢いって。そりゃ凄い俊英だと思う。まあ、確かにわく学でもエディは賢かったしな。リリーに負けたけど。
「ジークは確かに賢い。でも、ジークが賢すぎる必要もない」
「……まあ」
それは確かに。
「王より賢い人間が居ない国なんて、亡びますよね、きっと」
「そう。王が全てを決定するとしても、王が全てを考える必要はない。武力もそう。使い処を考える必要はあるけど、別に王が槍働きをする必要もない」
「常に最前線に立つ王なんて怖すぎますもんね」
「そういう事。勿論、自身を守る程度の武は必要。でも、それ以上の武は無くても良い」
「あっても困らないとはお考えでは?」
「ジークに限っては心配してない。でも、普通はそこまでの武は要らない。下手に武があれば、過信して突っ込む可能性もあるから。その辺りのバランス感覚はジークは立派にあると思う」
「……」
「……話が逸れた。どう? エディを仲間に加えてくれる?」
「……僭越ながら、もう一つの理由も尋ねてもよろしいですか?」
「もう一つ?」
「『誰』はお応え頂きました。『何故』の方です」
「……」
「ラインハルトに『武』を任せ、エディに『智』を任せる。ジークの……次期国王陛下の『ご学友』としては満点だと、そう思われていますか?」
……なんだかな~って感じではあるんだ、それだと。だってそれって、なんとなく『利用』しているカンジがするし。まあ、そういうもんと言えばそういうもんなんでしょうけど……微妙に『もにょ』とするんだよね、それ。そんな私の問いかけに、エカテリーナ様は首を振った。
「違う」
横に。
「……勿論、その気持ちがゼロかと言われると、そうじゃない。でも、それ以上に……エディが可哀想」
「……」
「あの子は優秀。でも、ずっと『壁』を作ってる。なんだか、昔のジークを見ているみたい」
「それは……」
「ジークも、ラインハルトも、アリスに出逢って変わった。だから……アリスならきっと、エディも変えてくれる」
そう言ってこちらにコテン、と首を傾げて見せるエカテリーナ様。
「だめ?」
……期待が重いんですが、それは。過大評価しすぎじゃないか、おい。
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