第二十七話 二人ぼっちのお茶会
エカテリーナ様からのお茶会の招待――という名の呼び出しが来たのはラインハルトが私の家に来だして一か月ほど経った頃の事だった。いやね? びっくりしたよ? エカテリーナ様直筆の手紙で『暇だから、お茶会、来て』という超短文の手紙が美しく封蝋された封筒に入って届いた時は。っていうかエカテリーナ様。暇だから来いって。
「……本日はお招きいただきまして、ありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は良い。座って」
こういう貴族のお茶会って準備期間が結構ある認識なのに、エカテリーナ様の呼び出しはなんの事はない、呼ばれた次の日に開催された。私とエカテリーナ様、二人っきりのお茶会だ。っていうか、これって。
「エカテリーナ様?」
「なに?」
「これって……王妃教育、なのでしょうか?」
『今後、王妃教育を受けて貰う』とかなんとか言ってたし、エカテリーナ様。そんな私の疑問に、エカテリーナ様は首を左右に振った。
「違う。純粋に、アリスとお話したかっただけ」
「……」
これは……どう言えば良いんだろ? 『有り難き幸せ』、とか?
「そう言って頂けると……有り難き幸せに御座います」
「ん。でも、本当にそんなに畏まらないで? 楽しくお話出来たらいい」
「……はい」
一つ頷き、私は眼前の紅茶に手を伸ばす。公爵家でもそこそこ良い茶葉を使っているハズだが、流石王家というべきか、我が家の紅茶より味が深い……気がする。分かんないんだけどね、紅茶の味なんて。
「……ラインハルトが訪ねてきているでしょう? どう? 順調?」
「そうですね……順調、というのが何を指すかですが……まあ、仲良くはやっていると思いますよ?」
最近のラインハルトは三日と空けずに我が家に訪ねてきている。ジークと一緒に勉強したり、リリーに鍛えて貰ったり……
「……こないだはメアリに裁縫を教えて貰っていました。ジークと二人で」
「……なにやってるの? 仮にも第一王子と近衛騎士団長の息子が」
「しかも意外に巧いんです」
「……」
マジで。このアリス・サルバートの体が悪いのか、私自身の生来の不器用が災いしたのか……ともかく、私にそっち方面の才能全然無いのに、ジークとラインハルト、特にラインハルトが抜群に巧いでやんの。こないだなんて龍の刺繍が入ったオリジナル勉強バック作ってたし。まあ、こういう訳の分からない裏設定がある所が『わく学』らしいと言えばらしいが。
「……ともかく、仲良くやってくれているんなら良い。ジークも楽しそう」
「僭越ながら、お伺いしても?」
「ん」
「その……ジークは、家で楽しそうにしていますか?」
私の問いかけに、エカテリーナ様は頷いて。
「毎日、私に報告してくれる。『今日はこれを学んだ』『今日はあれをした』と。裁縫の事は聞いて無いけど」
「……流石に恥ずかしかったんじゃ無いんですかね?」
「多分、そうだと思う。そういう所、男の子っぽい。凄く可愛い」
そう言って綺麗に微笑むエカテリーナ様。無表情がデフォなこの人だからか、微笑んだ時の破壊力がパないの。
「……まさか、ジークとそういう話が出来るとは思わなかった。これもアリスの――」
「ストップ」
王妃様の言葉を、途中で遮るなんて不敬。そう思いながら、私はにっこりと微笑む。
「……何度もお礼を言われると来にくくなっちゃいますよ、エカテリーナ様」
「――……本当に、アリスはいい子。じゃあ、これが最後。ありがとう、アリス」
「いえいえ~」
そんなに感謝をして貰う程の事じゃない。つうか、来る度に一々感謝されるのも若干『もにょ』っとするし。
「……でも、本当にアリスのお陰。ジークは変わったし、ラインハルトも変わった。ラウルも言ってた」
「ラウル……ああ、ラウル・バッテル様? 近衛騎士団長の?」
「ラインハルトはいい子で優秀だけど、少しばかり視野が狭い子だった。それが最近では色々なモノに目を向ける様になったって」
「……刺繍にも目を向けていますもんね、ラインハルト」
……どうしよう。何時か近衛騎士団の制服にアップリケとか付く様になったら。普通ならまずありえないが、わく学の世界観なら有り得る気がして怖い。おそろいのクマさんのアップリケで揃えた騎士団とか、流石に威厳が無さすぎる。
「……目を向ける方が多岐に渡るのは良い事」
「……微妙に目を逸らしてませんか、エカテリーナ様?」
主に、現実から。リアルでもちょっとそっぽ向いてるし。
「……まあ刺繍はともかく、ラウルは喜んでた。良い変化と、本当にそう思ってる」
「……なら良かったです」
「うん。それで……」
そう言って、言い難そうに口をもごもごさせるエカテリーナ様。どした? 可愛いじゃないか、それ。
「……ごめん、ちょっと嘘を吐いた」
「嘘、ですか?」
「うん。アリスとお話したかったのは本当。ジークとラインハルトの話も聞きたかったし」
「はぁ……」
「でも、本題は別にあって……」
一息。
「……今日はちょっとお願いがあってアリスを呼んだの」
「お願い、に御座いますか?」
「うん。お願い。ああ、ちなみにこれは『お願い』で『命令』じゃない。だから、別に断ってくれても問題ない」
「……不敬を承知で申し上げても?」
「どうぞ」
「王妃様からのお願い、断れなくないです?」
「そんな気遣いは無用。これは……そう、将来の『お義母さん』からのお願い」
「……」
それ、もっと断れないヤツ。三十手前で浮いた話も無い中で前世で生きて来たが、嫁姑の骨肉の争いは散々見て来た。ネットの世界の知識だけど。
「これは本当に大丈夫。私自身、別にどちらでも良いと思ってるし……もしかしたら、貴方達の関係性を変えるかも知れないから、そこまでお勧めも出来ない」
「貴方達、というと……ジークやラインハルトも関わる話ですか?」
「そう。あまり引っ張っても仕方ないから、単刀直入に言う。貴方達のしている勉強会に」
――もう一人、『仲間』を増やしてあげてくれない? と。
「……お願い出来ない、アリス?」
そう言ってエカテリーナ様はこくん、と首を傾げて見せた。
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