第百五十二話 アリス派、シャルロッテ派合同女子会のお知らせ
新章突入です。オトメゲーと言えば……学園祭だよねっ!!
「ジュース、お注ぎしましたよ、アリス様、シャルロッテ様、パトリシア様」
「ん、ありがとー、リリアーナ様」
「ありがとうございます、リリアーナ様」
「ありがと、リリー」
女子寮内の一階、入り口に一番近い位置に『談話室』はある。予約制の談話室は人気が高い――とは言い切れず、一応予約制となってはいるも基本的に誰も予約をしようとはしない。まあ、仲の良い貴族令嬢同士なら普通に自室で喋るからね。
「今日のお菓子は……あれ? ロッテが作ってくれたの?」
「ええ、アリス。久しぶりに腕を振るいましたよ。腕が落ちて無ければ良いのですが……」
「だいじょーぶ! 相変わらず美味しかったから、ロッテ!」
「そうで――ちょっと待って下さい、パティ? なぜ貴方は私のクッキーの味を知っているのですか? まさか……つまみ食いですか?」
「ちっちっち。つまみ食いじゃないよ。味見だよ、あ・じ・み! 折角アリスに作って上げるんだから、あんまり変なの出せないでしょ?」
「……自分でするので結構です」
「えー!」
パティの言葉に額に手を置いてやれやれと首を振るロッテ、という――ここ二か月ですっかり見慣れた仕草に少しだけ、頬が緩む。
「……良かったですね、アリス様」
「……うん」
アリス派とシャルロッテ派の突然の合併、というニュースは学園中を駆け巡った。正に電撃合併、一体どちらが主導権を握るのかと戦々恐々見守る周りに対し当の私たちは『アリス』『ロッテ』と呼び捨て、愛称で呼び合う仲だ。あの時の皆の――特にジーク、ラインハルト、エディの目が点になった姿は中々傑作だった。まあ……『……遂にシャルロッテ嬢まで毒牙に掛けたか……』って言ってやがったが。なんだよ、毒牙って。普通に仲良しだよっ!
「と、皆の元にコップ、行き渡った?」
「はい」
「ええ」
「うん」
頷く全員を見まわし、一つ頷いて。
「……それじゃまあ、試験お疲れ様会って事で」
コップに入ったジュースを掲げて見せると、三者三様、同じようにコップを掲げて見せる。
「……かんぱーい」
「「「乾杯」」」
チン、と鳴ったコップを口元に運ぶ。冷たいリンゴジュースの喉越しがたまらん。そう、今日は昨日まで三日間行われていた、学園の中間考査の打ち上げだ。
「……くぅー! この一杯の為に生きてるぅ!」
「……アリス、おっさん臭いよ? 花の女子学園生、しかもアリス派の筆頭がそんなんじゃ幻滅されるんじゃない?」
パティのジト目がこっちを見てくる。うぐぅ……ま、まあ確かに今のはちょっとおっさん臭かったかも知れんが……
「……この程度で幻滅される程度の信愛ならはなっから要らないわよ」
「そうですよ、パトリシア様。どんなアリス様だろうと、お可愛いですから」
「ねえ、リリー! すきー!」
「私も好きですよ、アリス様!! むしろ愛してますっ!!」
「……他所でやれ、あんたら」
こりゃ駄目だと言わんばかりに首を振るパティ。そんなパティを見つめ、苦笑しながらロッテが口を開いた。
「……まあまあ。それにしてもアリス、いつにも増してテンションが高いですわね?」
「そりゃそうだよ、ロッテ! やっと……やっと苦しいテストから開放されたんだから! テンションも上がるってもんだよっ!!」
「そ、そうですか……」
鼻息荒くそう言う私に、若干ロッテが引いて見せる。
「どうどう。落ち着きなって、アリス。ロッテが怯えてるから。にしても……今回、滅茶苦茶頑張ってたんじゃない? なに? 一番でも取るつもりなの?」
「まさか。エディがいる時点で一番は厳しいよ。でもまあ……十番以内には入らないと不味いからね」
「不味い?」
首を捻るパティ。そんなパティから目を逸らし、私は窓の外に見える景色に視線を飛ばし。
「……メアリから、『サルバート家の御令嬢ともあろうお方が、十番以内に入らないのは恥です』って」
「……」
「……十番以内じゃなかったら、夏休み無しで一日中勉強させるって……補習だって!!」
「……ご愁傷様」
「……あれ、絶対職権乱用だと思うんだけど……」
目がキラキラしてたもん、メアリ。『アリス様と久しぶりの二人っきりのお時間……うふふ……』って。
「か、可哀想に……にしても、十番以内か~……結構厳しいんじゃない、それ?」
「……そうなのよね~」
ちなみに今回のテストが学園に入ってから初めての定期テストであるため、現在の学力状況の詳細は不明ではある。不明ではあるが……
「……パティ、成績良いよね? 入試の時、何番だったの?」
「私? 二番かな? エディ様の次」
「……だよね~」
同じクラスで授業を受けていれば、成績開示が無くても頭の良さくらいは大体分かる。
「リリーは言わずもがなだし……ロッテもだよね?」
「わたくしはパティ程では無いですよ? 確か、十五番とかその程度だった気がしますが……」
「……それでもとんでもないよ」
基本、この学園の上位陣は『家柄』で入った貴族ではなく『優秀』な平民が占めるからな。その中で二十番以内に入るって物凄いよ。あ、ちなみに一学年二百人ちょっとね? 私? 私はほら、あれだ。その、あの……七十二番です、ハイ。おい、低いって思っただろう!! 違うぞ!? ラインハルトよりは良いからなっ!!
「……六十番以上順位を上げるのは結構無理ゲーだよね……でもまあ、取り敢えず夏休みの事は一旦忘れて!! 今日は開放された喜びに浸るよ……」
そう言ってロッテのクッキーを一つ、口の中に運ぶ。うん、おいひい。
「……そう言えば今日はエリサさんとエリーゼ様、アメリアさんはどうされたのですか? お呼びしていないので?」
「ん? 声、掛けたよ? アメリアはクラスの友達と遊びに行くって。後の二人は、『ちょっと用事がある』らしいわ。遅れても参加して~って言ったから、そろそろ来るんじゃない?」
「用事?」
「うん。ほら、試験が終わったら学園祭じゃん? 最近、あの二人仲良くなんかしてたから……多分、出店かなんかするんじゃない? ほら、こないだロッテも見たでしょ? あの二人のイラスト集」
その言葉に、ロッテの顔がポンっと真っ赤に染まる。ああ、これ、思い出して照れてるな?
「……え、ええ。そ、その、お二人とも素晴らしい才能だとは思いますが……で、ですが……だ、大丈夫なのですか? 『あれ』を学園祭で出して。そ、その……公序良俗的に……」
恥ずかしそうに、居心地悪そうにお尻をもぞもぞさせるロッテ。ロッテが何を見たかは……まあ、うん。ご想像にお任せするよ。
「……流石にもうちょっと『健全』なのにすると思うよ? あの二人、その辺りのリテラシーある方だし」
仲間内でははっちゃけるけど、流石に他の生徒の前では大丈夫……なはず! じゃないと、スモル学園の学園祭がお盆と年末の有明になってしまう。それだけは避けなければっ……!!
「遅くなりました~」
「すみません、遅れてしまいまして」
そう言って室内に入って来るエリサとエリーゼのEEコンビ。空いてる席に適当に座る二人に、リリーがコップとジュースを差し出した。
「お待ちしておりました、エリサ様、エリーゼ様」
「あ、リリーさん。ありがとーございます」
「すみません、リリアーナ様。ありがとうございます」
リリーからコップを受け取った二人はそのままコップを傾け喉を潤す。なんだか心持疲れた顔をしている様だが……
「……いらっしゃい、二人とも。なんか疲れた顔してるけど、大丈夫?」
私の言葉に苦笑を浮かべて見せるエリサとエリーゼ。
「……ええ、流石に二徹はきつかったですからね~」
「……そうですね。あれがエリサ様の仰っていた『修羅場』というやつなのですね?」
「ええ。ですが、まだましな方です。もっと追い込まれた、『デスマーチ』という状態がありますから……それに比べれば」
「……なんの話してるのよ、なんの」
修羅場とかデスマーチとかって。
「……なに? そんなに成績、やばそうなの?」
まあ、私も人の事は言えんが……良いか、エリサ? まず、勉強はしっかりと――
「――いいえ」
――……うん?
「……え? テスト前だから、必死に勉強してたんじゃないの?」
「まさか。別にそこまでいい成績を取りたいとも思ってませんし」
「エリサ様に同じですね。私も留年しなければ良いと思ってます」
「……」
……んじゃ、なんで? なにがそんなに修羅場でデスマーチな――
「……まさかエリサ、アンタ……『薄い本』を……」
「何言ってるんですか、アリスさん。常識で考えて下さいよ」
「……あ、はい」
や、やりかねないと思ったんだもんっ!!
「……じゃあ、何してたのよ?」
「いや、折角の学園祭じゃないですか? だったら、思い出に残る事、したいな~って話をしててですね? んで、折角なので!」
そう言ってエリサは私達を順々に見渡して。
「――演劇しません? 『サルバート印』の衣装提供、エリーゼ&エリサの脚本で……あっまあまな恋愛劇、しましょうよっ!!」
いい笑顔でサムズアップして見せた。




