第百五十一話 ロッテの気持ち
今回は章の終わり恒例の第三者視点です。
アリスの部屋から廊下に出ると、不満そうな顔で腕を組み、左手の指で自らの二の腕の辺りをトントンと叩いているとロッテと目があった。こりゃ、怒ってるな~なんて思いながら、それでも放置して行くともっと怒ることになるのは経験から知っている私は、黙ってロッテの側に歩みを進める。
「待った?」
「待った? ではありません。全く、貴方は……なんですか、『デレた』とは」
「ん? 『デレ』っていうのは……」
「その説明は求めていません! そういう意味ではなく……」
「ごめんって」
パチン、と両手を合わせて頭を下げる。そんな私の仕草をじとーっとした目で見つめた後、ロッテは小さくため息を吐いた。
「……もういいですわ」
「さっすがロッテ。心が広いね~」
「……なんだか許したくなくなりましたわね?」
再びのジト目にあははと笑って誤魔化す。そんな私に再び大きなため息を吐いた後、ロッテは廊下を歩きだす。その隣に並んだ私はロッテに声を掛けた。
「……良かったね、ロッテ。アリスが許してくれて」
「……ええ」
「まあ、アリスの性格からしたら謝ったロッテを許さないとは思ってはいなかったけど……友達になりたい、みたいな事を聞いてはいたけど、それを謝罪代わりにするとは思わなかったけどね~」
「……馬鹿な子ですわ、アリスは。もう少し、有効な使い方でもあったでしょうに。仮にもゲーリング侯爵家の娘であるわたくしが、出来る事はなんでもすると言っているのに……友達になりたい、だなんて……」
「と、言いながらも実は結構嬉しかったり?」
「……別に」
ツンっとそっぽを向くロッテ。そっぽを向いたせいで顔色は分からないけど……まあ、耳が真っ赤な所を見ると、どうせ顔も真っ赤なんだろうなと思う。
「あれあれ? 顔、真っ赤ですけどー?」
「……今すぐそのニヤニヤ笑いをしまいなさいな、パティ? 貴方からわたくしの顔は見えないでしょう? 減らず口ばかり叩いていると、口を縫い付けますわよ?」
耳まで真っ赤にしてる癖にこっちを睨み、そんな事を言ってくるロッテに肩を竦めて見せる。素直じゃないね~、ウチのお嬢様は。
「ま、ロッテが素直じゃないのは今に始まった事じゃないし」
「……針と糸を用意しましょうか?」
「怖い事言わないでよ。でも……良かったの?」
「……何がですか?」
「派閥の合併って」
私の言葉に、先ほどまでの怒りの表情から一転、真剣な表情を浮かべるロッテ。
「……パティはどう思いますか? 軽率だったと思いますか?」
「……うーん」
……うーん……難しい判断だね~。確かにアリス派と仲良くするメリットは大きいし……そもそも私、アリス派の面々と違って武闘派じゃないから、仮に精神的だとしても敵対関係は結構キツい。そういう面で考えると、まあ、喧嘩しないに越したことはないけど……
「……最初に言ってたじゃん? アリス派ばっかりだと国の運営に支障を来すことがあるかもって」
「……ええ」
スモル王国はスモル王家を頂点にする君主国家ではあるが、王権自体はさして強いわけではない。各地の貴族の領地の事には基本的に干渉することは無いし……『王家から爵位を賜っている』ハズの私達寄子に至っては、どっちかって言うと王家よりも寄親に対する忠誠心の方が強かったりする。いや、一応敬いはするのだが……まあ、ゲーリング侯爵家と王家の間で争いがあれば間違いなく侯爵家に味方する程度には。
「ロッテの考え、あながち間違いじゃないと思ってたんだよね。一枚岩じゃないこの国で片方をアリスが監視して、片方をロッテが監視する。そうすれば、バランスの取れた国になるんじゃないかな? とは思ってたんだよ」
「……」
「あとは……まあ、王家を頂く国で言う事じゃないけど、独裁国家ほど過ごしにくい国は無いしね。そういう意味でもロッテのアイデアは良いと思ってたんだ」
考え方が一つしか認められない国なんて息苦しくて仕方ないからね。そんな私の言葉に、ロッテは小さく息を吐く。
「……パティの仰る通りですわ」
「でしょ? だから……まあ、監視の方はともかく、勢力が一つになるのはどうかな? とは思うんだよね~。それと……まあ、ロッテが初志貫徹せずに考え曲げるのも珍しいなって」
こう見えて……というか、みたまんまではあるがロッテ、結構頑固だし。そんなロッテが簡単にアリス派との合併を認めたのが、ちょっと意外と言えば意外ではあるのだ。
「……まあ、わたくしにも考えはあります。聞きますか?」
「拝聴しましょうか」
「まず監視に関してですが……これは、二つの勢力が協力して当たった方が効率は良いです。お互いにお互いを監視し合う、と言うのも抑止力としてはアリですが……」
「それは……まあ、そうだね」
確かに一人で見るより二人で見た方が良いし……もっと言えば、お互いに相談とかできた方が効率は良いしね。
「それと……考え方が一つしかなくなると危険、というのですが……」
少しだけ言い難そうに。
「……わたくし自身、見誤っていたのは認めますが……『あの』アリス・サルバートであれば、それほど窮屈な事にはならないのではないか、と思いまして……」
「……へぇ。珍しいね」
ロッテは決して人を認めない様な狭量な人間ではない。人間ではないが、他人に厳しく、自分にはもっと厳しいロッテは、自分と同等程度の人間以外を認めることはしない。そういう潔癖な所はロッテの欠点ではあるのだが……まあ、認めていないからと言って別に馬鹿にしたりする訳でも無いし、どちらかと言えば『庇護者』として振舞おうとするので、問題は無いと言えば問題は無いが……ともかく、そういう意味では、ロッテが人を『庇護』しなくても良い、つまりロッテが『甘えられる』人間となると、これは相当少ないのだ。
「アリスの事は『認めた』んだ?」
「……そうですね。あれほど、皆に慕われる才能を持っているのです。認めるしか無いでしょう」
「まあね~。アリス派の面々、軒並みアリス大好きだもん」
ほとんど宗教チックだけどね、あれ。それじゃまあ、過ごしやすく――
「あ、あとは……」
言い辛そうに、ロッテがこちらをチラチラと見てくる。なに?
「どったの?」
「あ、あとは……そ、その……」
口をパクパクと開閉させて、やがて意を決した様にぎゅっと手を握りしめて。
「――そ、その……わ、わたくしも……アリスと、仲良くしたいな~、と……その、お、思ってしまったので」
「……ツンデレ乙」
「つ、ツンデレ!? そ、そういう訳では!!」
「はいはい。それじゃ、もう寝るね~」
そう言って、私は肩を竦めてロッテに背を向けて。
……や、やばかった!! なんだ、あのロッテ! めちゃくちゃ可愛かったんですけど!! なんか別の意味でアリス派に入るの不安になったんだけど!! ヤダよ、私。アリスにロッテ取られるの。
「……ま、その辺は私がしっかりしますか」
なんだか明日から大変そうだな~とため息を吐きつつ……それでも、その未来はなかなかに面白そうだと笑って、私は寮内に与えられた自室のドアを開けた。
これにて『入学編』完! 次回からは学園祭編が始まります! 楽しんで頂ければ幸いです。
……べ、別にブクマとかポイントとか入れてくれてもいいんだからねっ!(雑




