48.女神様とエイプリルフール
春休みになり、桜が見頃だと言うことで、みんなで花見に行くことにした。
浩介と守と玲が場所取りに行ってくれて、穂香と菜摘で弁当を作ってくれることになっている。俺は大量の弁当の荷物持ちだ。
そのため、朝から菜摘がやって来たのだが。
「あっ、ご主人様、おはようございますにゃん。今日もよろしくお願いしますにゃん」
菜摘がミニスカートをひらひらさせながら入ってくるなり、とんでもないことを言い出した。
表情はいつも通りで、照れたり恥ずかしがることもなく言ってのける菜摘は大したものだと思うが、これはいただけない。
「は? おい、菜摘」
「ちょっと、なっちゃん、どうしたの?」
「ご主人様にこう言えって言われましたにゃん」
そう言いながら、菜摘が俺を指差した。
おい、菜摘、これは何の冗談だ? 状況が全く理解できん。
そして、その語尾の「にゃん」は何だ? 何かの罰ゲームか?
「え!? ユウ君、どういうことかしら?」
背後に立った穂香の手が俺の肩に置かれる。力が入っていて、ちょっと痛い。
振り返るのが怖いから後ろは見ないが、語気がちょっと怒っている時のものだ。
この菜摘の奇行に関しては俺は何も関係ない。
「い、いや、俺は何も言ってないぞ?」
「じゃあ、なんでなっちゃんがこうなっているの?」
更に力が込められて、マジで痛い。ってか菜摘、穂香が怒ってるから冗談はそれくらいにしてくれと言おうとしたが、菜摘の追撃の方が早かった。
「ご主人様、先日は濃いミルクをたくさんありがとうございましたにゃん。全部飲み干すの大変でしたが嬉しかったですにゃん。いつでもいいので、またくださいにゃん」
「え?……え!?……濃いミルクって……も、もしかして……」
菜摘が俺の下半身をチラチラ見ながら言ったこともあって、穂香が盛大に勘違いしだした。
穂香が俺の正面に周り、二の腕をガシッと掴んで迫ってくる。いや、穂香がめちゃ恐いんだが……。
「ユウ君、どういうことか詳しく説明してもらえるよね? 本当になっちゃんと?」
「まぁ、待て、穂香。冷静になってくれ。お前は菜摘の作戦に嵌められてるぞ」
ここら辺で止めておかないと菜摘の思うつぼだ。
どうせ後で恥ずかしい思いをするのは穂香なのだが、もう遅いだろう。
「え?」
「ぷっ……んふふ……」
とうとうこらえきれなくなったのか、菜摘が笑い出した。
「なっちゃん?」
「おい、菜摘。そろそろちゃんと説明してくれ」
「はい、わかりました……穂香さん、今日は何月何日ですか?」
「今日?今日は4月1日……あ! エイプリルフール!」
「そうです。なので、ちょっと遊んでみました」
菜摘はペロッと舌を出してニコニコしている。
「それはいいが、あの語尾は何だ?」
「あれはネットで見つけて面白そうだったのでやってみました。特に意味はありませんよ?」
「そうなの?あのなっちゃんは可愛かったけどなぁ」
「ただ、ミルクの話は本当ですよ」
それを聞いた穂香の表情が、ほわほわした感じから一瞬でキッと鋭い目付きに変化した。
「待て! 思い出した。それはミルクじゃなくていちごオレの話だろう?」
「む?そうとも言いますね……」
「いや、そうとしか言わねえからな」
「あ、あの話なのね……」
バレンタインデーのお返しにホワイトデーにいちごオレを1ケースあげたのだ。単価が安いからケースくらいじゃないと釣り合わないからな。
重量はまあまああったが、浩介が菜摘の家まで持って行くことになったから何の問題もなかった。
ちなみに穂香もよく知っている話だ。
「あまり細かいこと気にしすぎると禿げますよ?」
「俺は大丈夫だ」
「まあ、優希さんが禿げることなどはどうでもいいのですよ。それよりも穂香さん?」
「な、何かしら……」
おそらく、穂香は自分がした勘違いについて考えていたのだろう。顔が赤い。
「先ほどの会話からそんなことを想像していたんですね……穂香さんがこんなに成長してくれて、私は嬉しいです」
「え? 何の話かな?」
穂香は何も知らない振りをしようとしているが、顔も赤いし目は泳いでるし、わざとらしすぎて余計に怪しくなっている。
「心配しなくても、穂香さんが何を想像したのかなんてわかってますから大丈夫です。ただ、一つだけわからないことがあるんですが、穂香さんの想像の中で、その時の私はどんな表情をしてましたか?それが気になるんです」
「ええっ!? それは……その……あの……」
「さぁ、穂香さん。あっちでゆっくり話しましょうね」
「ちょっと、なっちゃん」
穂香は菜摘に手を引かれて別室へ入っていった。
後に残された俺は、呆然とするしかない状況だ。
ちなみに、花見には一応間に合ったとだけ言っておこう。




