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タロと今夜も眠らない番組  作者: シュリンケル
第二章
48/123

48.タロ17才-冬4

 都営住宅の一室に僕たちが入ると、真田さんの奥さんが出迎えてくれた。


よく来たわね、疲れたでしょ。と奥さんは言う。そして僕を抱き寄せる。

言葉にできない気持ちが僕に伝わる。

一人息子を失ってもなお、僕を気遣っている。

僕は彼女の背中をとんとんとなでる。


 最初に泣いたのは奥さんだった。僕たちを真田さんが抱きしめる。とても強く。

やがて真田さんと僕も泣いてしまう。


小さな玄関の一角で、僕たちは泣き続けた。



 おそらく、息子を失う悲しみは僕の悲しみよりも深かったはずだ。

眠れない夜が続いたはずだ。

しかし、奇跡は起こるのだ。



 大声を上げて泣き続けていた真田さんと奥さんは、泣き続ける僕に気がつく。

そしてお互いに顔を見合わせる。

「声が出せてるじゃない!」


再び声を上げて泣き始めた僕らは、ただの不幸な人間ではなかったと思う。


あれほど病院で出せなかった僕の声は、あっけなく取り戻せたのだ。

(真田さんたちは言う、私たちの喪失感はこの時に癒されたのだと)



 真田家の真新しい仏壇に向かい、僕は手を合わせた。

-始めまして。僕も真田です。縁あってこちらにお邪魔させていただきました。

そう心の中で祈りつつ合わせた両手がほんわりと熱くなる。

仏壇から笑顔を感じたのは気のせいだろうか。


 それから僕らは互いに照れくさくなりながら晩御飯を食べたのだ。


---


 その夜、僕は夢を見た。


 僕は夢の中で、父さんと母さんにお礼を言った。

そして遺影で見たばかりの息子さんにもお礼を言った。

なぜなら僕は生きているからだ。


 夢の中ではみんな笑っていた。

最初は悲しげに見えていても、僕が見つめると笑顔になってくれる。夢だからね。


僕は夢だと気づいた上で決心する。

この先の未来を受け入れよう。

できるだけ笑顔で受け止めよう。

生き残った僕にとって、未来の全てはボーナスなのだ。


遠くでチェロの音色が聞こえた気がした。


挿絵(By みてみん)


タロ17才(1988年)の逸話でした。

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