47.タロ17才-冬3
手術は無事に終わり、一週間の安静期間が過ぎた。
僕が口を閉ざしたまま、毎日をじっと過ごしている事に対して、
医者も看護士たちもみな理解を示してくれていた。
いつもの診察が終わったある日、医者は僕に告げた。
-ご親族の方に連絡を取りたいのです。
僕は何も言えなかった。僕には両親しかいなかったのだ。
僕は首を振る。
-それでは困るのです。
僕は再び首を振る。
-あのですね。誰かに請求しなくちゃならないんですよね。手術代とか診察代とか入院費なんかをね。
仕方なく僕は言おうとした。仕方ないのだと。本当に誰もいないのだと。
しかし声は出てこなかった。
僕はしゃべることができなくなっていた。
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僕の親族が誰もいない事は病院が問い合わせた警察によって説明された。
僕の両親は二人とも郷里が広島だった。
第二次世界大戦の原爆投下により、ほとんどの親族は亡くなっていた。
残ったわずかな親族も被爆の影響から既に死に絶えていたのだ。
それを知った病院は一応の謝罪をしてくれたが、病院への支払い責任は僕にもあり、対応は冷たいものだった。
その翌日。病院側の態度は急変した。
事故で亡くなったトラックドライバーの会社から費用を全額支払うと連絡が入ったからだ。
バツが悪そうに謝罪し、僕の不憫な境遇に哀れみの言葉を並べる院長たちに僕は怒る気力すら失ってしまった。
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退院の日、僕を迎えに来たのは一台のトラックだった。
「真田幸一君ですね。私は帝国運輸の真田陸です」
トラックから降りた男は熊のように大柄だった。僕も人のことは言えないけれど。
「そう、同じ苗字なんだ」低い声でそう言うと、僕を助手席に乗せる。
驚いたことに彼は帝国運輸の社長であった。
病院を出た後、でかいトラックから眺める風景に僕は目が離せなかった。
そんな僕に真田さんは何も言わず、ただ運転していた。
辺りが夕焼けにつつまれる頃、都営住宅の駐車場にトラックは停車した。
ぶるるん、と最後のエンジン音が鳴り止む。
真田さんはゆっくりと話し始める。
「幸一君。わたしは話すことが得意じゃない。だから気を悪くしないで聞いてほしい」
僕は頷く。
「今回の事故には本当に申し訳なく思っている」ハンドルを強く握り締めたまま、彼は続ける。
「事故のせいで君はご両親を失ってしまった。
君に一人も身寄りがなくなった事を、わたしは先週知ったんだ。
あの時のトラックは私の息子が運転していたんだ。本当にすまない」
ハンドルに頭をこすり付けて謝る真田さんを、僕は押しとどめた。
夕陽が全てを赤く染めていた。




