46.タロ17才-冬2
見上げた空は真っ白だった。
まぶしいほどに真っ白な空に手をかざす。
どこかでチェロが聞こえている。
-感傷的なワルツ(チャイコフスキー)-
真っ白に見えのは雪だ。
数え切れないほどの雪が空を舞っているのだ。
それは音もなく、密やかに辺りを包み込んでいるようだった。
雪はやがて無数のチリのように変化し、黄色く輝いた。
しかし頬に降り積もる雪は冷たさもなく、まぶたに触れる感覚もない。
それはただの光の粒子であることに、やがて僕は気がつく。
自分が目をつむり、何か暖かいものに包まれている事を知る。
そして緩やかに僕は目が覚めてゆく。
現実の世界へと目を開ける。
目の前には巨大なライトが輝いていて、思わず僕は叫ぶ。
誰かが暴れる僕を抑え付ける。誰かが僕の名前を呼び続ける。
トラックのライトだと思ったそれは、病院の手術用ライトだったらしい。
混乱からうまく抜け出せない僕に、医者がゆっくりと話しかける。
-大丈夫ですよ。 わかりますか? もう、大丈夫ですよ。
僕はわかったと頷いた。
僕が落ち着いた事を確認すると、医者は説明を始めた。
僕は事故に合ったのだと。
大型トラックと僕たちの車は、見通しの悪いカーブの途中で事故を起こしたらしい。
お互いの車は同時にハンドルを切り、運悪く同じ方向にぶつかったのだった。
トラック運転手と僕の両親は即死だった。
僕だけが奇跡的に助かったらしい。
トラックの無線機でちょうど交信していた会社から警察に連絡が入ったとの事だ。
運が良かったとは医者も言わなかった。
察してくれたのだろう。
-今から麻酔をします。全身を手術しますから。
返事をする間もなく麻酔が打たれる。
やがて闇が僕を包み込む。
チェロの音色と共に。