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「お嬢様、本日の紅茶はアールグレイにございます」
「……ふん。相変わらずの手際の良さね、アルフレッド」
王立魔法学院の贅沢なサロンで、公爵令嬢エレノア・フォン・ローゼンベルクは優雅にカップを傾けた。縦ロールの金髪を揺らし、いかにも「高額な学費を払っています」というオーラを全身から漂わせている。
その背後に控える執事——私、アルフレッドは、心の中で冷や汗をダラダラと流していた。
(あぶねぇ……! 今日の紅茶の温度、もしコンマ5度ずれてたら『主人の機嫌』が落ちて俺の筋力が10%下がるところだった……!)
何を隠そう、私はこの世界が前世で流行っていた乙女ゲーム『聖女のアルカディア』であること、そして目の前のお嬢様が「どのルートを通っても最終的に処刑か追放される悪役令嬢」であることを知っている。
そして、私の異世界スキルは——【主人の信頼=我が力(主従の絆)】。
エレノアお嬢様が私に対して抱く「信頼」「満足度」「好感度」の数値がそのまま私のステータスに直結するのだ。
逆を言えば、彼女が破滅して私がクビになれば、私はただの筋力ゼロの凡人に戻り、巻き込まれて死ぬ。
ゆえに、私のミッションは一つ。お嬢様の破滅フラグを裏で粉砕しつつ、極上の執事サービスでお嬢様の機嫌を取り続け、神の如き強さを維持すること!
「アルフレッド。あちらの平民上がりの『聖女』……ヒロインとかいう噂の娘、調子に乗っているようですわね。少し『お仕置き』をして差し上げなさい」
「かしこまりました。お任せくださいませ」
エレノアは「ふふん、これで私の威光を見せつけられますわ!」と悪い顔で微笑んでいる。
だが、当然私はそんな嫌がらせなどしない。
私はサロンを出ると、すぐさま「お仕置きの準備」と称して裏庭へ回った。
そこでは、ヒロインの少女が学校の裏山から迷い込んだ凶悪な魔獣『影狼』に襲われかけていた。ゲーム通りの「ヒロインピンチイベント」だ。
「きゃあああっ!」
「グルルル……!」
影狼がヒロインへ飛びかかった瞬間——
ガシッ!!
私は素手で影狼の顎を掴み、そのまま地面へ叩きつけた。
ズドォォン!!
地響きとともにクレーターができる。影狼は一瞬で泡を吹いて気絶した。
お嬢様からの日頃の信頼度(現在:MAX)によって、私の筋力値はすでに「魔王を一撃で屠るレベル」に達しているのだ。
「大丈夫ですか、聖女様。怪我はありませんか?」
「ひ、ヒエッ……! あ、ありがとうございます……! あなたは……エレノア様の執事さん!?」
私は微笑みながら、胸ポケットから一通の手紙を取り出した。
「実は、我が主エレノア様は大変ツンデレなお方でして……。『裏山に危険な魔獣が出たらしいから、あの平民に怪我がないよう裏で助けてやりなさい。あと、ついでにこの高級傷薬を渡しておきなさい』と、私にお言いつけになられたのです」
「えっ……!? エレノア様が……私を心配して……!?」
「ええ。人前では素直になれないお方なのです。どうか今日のことは内緒に」
完璧な口八丁。これでヒロインからのエレノアへの好感度は爆上がり、ドロドロのいじめイベントは「不器用な友情」へと上書きされた。
その日の夕方。
学院の廊下で、ヒロインとお嬢様が鉢合わせた。
エレノアは扇子で口元を隠し、高飛車に胸を張る。
「ふん! 昨日はアルフレッドにしっかりお仕置きをさせましたわ! 思い知りましたかしら、聖女様!」
(※訳:アルフレッドに指示を出した満足感でいっぱい)
しかし、ヒロインは目を潤ませながらエレノアの手を両手で固く握りしめた。
「エレノア様……! 私、知っています! 本当はとってもお優しくて、陰で私を守ってくださっていたのですね……! ありがとうございます!」
「は……? はぁ!? な、何を言っていらっしゃいますの!? 私はあなたを苛め抜く悪役……」
「もう隠さなくても大丈夫です! 私、エレノア様のこと、大好きになりました!」
「な、ななな……!?」
真っ赤になって狼狽するエレノア。
ふと、お嬢様は後ろに控える私を振り返り、縋るような視線を向けてきた。
「あ、アルフレッド! これはいったいどういうことですの!? 私はお仕置きを……」
「お嬢様のお心遣いが、無事に聖女様へ伝わったようで何よりにございます」
「言っていない!! 私はそんなこと一言も言っていませんわーーーっ!?」
顔を真っ赤にしてパニックになるお嬢様。
その瞬間、私の頭の中にシステム音が響いた。
『ピンポンパンポーン♪【エレノアからの絶対的信頼】および【パニックによる依存度】が上昇しました。アルフレッドの基本ステータスがさらに1.5倍に強化されます』
(よしっ! これで次の『学園襲撃イベント』のボスもデコピン一発で沈められる……!)
「アルフレッド! あなた、何かたくらんでいますわね!? 立ちなさい、説明しなさい!」
「はい、お嬢様。お屋敷に戻りましたら、お詫びに特製の苺ミルフィーユをお焼きいたします」
「……ぐぬぬ。ミルフィーユ……。ふん、そこまで言うなら許してあげなくもありませんわ!」
高飛車なセリフとは裏腹に、分かりやすく機嫌を直すエレノアお嬢様。
破滅フラグを叩き割り、世界を裏から支配する最強執事の戦いは、まだまだ続くのだった。




