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最終話 公爵君のラブコメ爆誕。上書きされた未来と、終わらない親友のアプローチの件


 ――航平の不法侵入事件から1ヶ月後。

 今日から夏休みが始まる。


 湊は、とあるホテルの一室で、ビデオ通話をしていた。

 相手は田島である。


『いよいよだなー、天宮。応援にいけなくて、ほんとゴメンな』

「気にしないでくれ。彼女とは上手くいってるんだろ?」

『へへへ。これも天宮が背中を押してくれたおかげだぜ。ほんと、サンキューな。お前みたいなすげぇ奴が友達で、俺も鼻が高いぜ!』


 友人の幸せそうな顔を見て、湊も頬を緩める。

 これからデートだという田島との通話を終え、湊はひとりスマホを眺めた。

 待ち受け画面に表示されているのは、自宅で撮った結との写真だ。そこには、暦深、鋭理、福音の姿も写っている。


「結が元気になって、本当によかった。これも皆のおかげだな」


 湊はここ1ヶ月を振り返る。


 気丈に振る舞っていたものの、航平に乱暴された結のショックは大きかった。しばらく自分の部屋に入れなかったほどだ。

 湊は彼女をケアするため、数日学校を休んだ。自宅ではトイレ以外、ほとんど一緒に過ごした。結も湊から離れようとしなかった。時々風呂にも一緒に入ってこようとした。寝るときも湊の部屋で、同じベッドで眠った。


 事件から4日目、結のクラスメイトの伊月旗がお見舞いに来た。


『元気そうで安心しましたわ。さあ結さん、学校へ行きましょうね。溜まった課題を、この週末で片付けてしまいましょう』

『やぁーだぁーっ!』


 泣いてぐずる結を、伊月旗は上品な微笑みを浮かべたままずるずると引きずっていった。

 このパワー……できる。

 どうやら、結が自宅でベタベタしていたのが、伊月旗には筒抜けだったらしい。

 この諜報力……できる。

 伊月旗は、結の通う学校でも屈指のお嬢様らしい。上流階級はアグレッシブで戦闘力が高いんだなと湊は思った。公爵として少し見習いたい。


 この話を聞きつけた暦深たち3女神は、次の日から湊の自宅に入り浸るようになった。


『ゆいちーの思い通りにはさせないんだよ』

『ラスボスに第2形態はお約束です』

『勇者・伊月旗に感謝だな』


 笑っているのにただならぬ圧。湊は、自宅がなぜか巨大な檻のように感じられた。


 ――檻といえば。


 先日、航平は少年院へ送られたらしい。

 住居侵入罪、結への監禁罪、銃刀法違反。それに、これまでのストーカー行動や、福音への誹謗中傷による名誉毀損罪も併せて問われることになった。


 彼は今、完全に外の世界と隔離されている。


 当然、学校は退学処分となった。


 さらに湊は、結や福音とともに、航平とその保護者に損害賠償や慰謝料を請求していた。

 福音の両親、そして伊月旗が、弁護士選びに一役買ってくれた。

『一切、譲歩しない人を選んだよ』と、彼らは語っていた。


 航平の噂は、瞬く間にご近所へと広まった。仮に彼が檻から戻ってこられたとしても、もはや以前と同じ暮らしは送れないだろう。


 反省の手紙らしきものが航平から届いたが、湊も結も、中身を見ずに弁護士に突き返した。性根が腐りきった男の懇願など、聞くつもりはない。


 暦深、鋭理、福音も、湊の判断を支持した。


 相沢航平は、もはやモブを通り越して、空気同然の存在となったのである。

 今後、湊も親友たちも、航平のことを思い出すことはないだろう。


「さて、そろそろ出るか」


 身支度を済ませ、湊はホテルの部屋を出た。

 明るく華やかな内装の廊下を歩く。

 学生がひとりで宿泊するには、少し高級感が過ぎるホテルだ。


 それだけ、『主催者』から湊が期待されている証である。


「それにしても、結だけじゃなく暦深たちまで、当日、何のメッセージもくれないなんて。少し寂しいじゃないか」


 エレベーターの中でぼやく湊。

 首に提げたお守りを引っ張り出した。結からプレゼントされたものだ。暦深たちと一緒に選んだと言っていた。


 航平の事件をきっかけに、結と湊は完全に和解した。むしろ前よりも仲良くなったと感じるほどだ。

 それだけでなく、結は暦深、鋭理、福音とも親しくなっていた。自分を助けるのに協力してくれた彼女たちを、結は『湊の親友』として認めたのだ。


 ささいな小競り合いはありつつ、円満な関係を築けていた。

 少なくとも、湊はそう思っていたのに。


 エレベーターが1階に到着する。

 湊は気を引き締めるため、深呼吸した。


「あ、降りてきた。お兄ちゃん!」

「結!?」

「やっほー、みーくん。おっはよう」

「暦深!? それに、鋭理、福音も!」


 ホテルのエントランスに出るなり、妹と親友たちが声をかけてきたのだ。

 結の背後には、伊月旗の姿もある。


 このホテルには、湊ひとりで宿泊していた。地元からここまでは、新幹線でも2時間はかかる。

 だから皆、自宅に残って『応援』してくれるという話だったのに。


「びっくりした? サプライズ成功だね」

「まさか、来てくれるなんて」

「当然だよ。だって今日は、みーくんの晴れ舞台――プロ復帰戦じゃん」


 そう。

 今日はeスポーツの世界大会が開催される日。

 湊はプロとして、再び表舞台に立つのだ。


(まさか脱落した自分を、もう一度拾い上げてくれるスポンサーがいるとは。感謝しかない)


 湊はしみじみと思った。

 やはり、夜空姫ネオンとの6時間耐久コラボチャンネルで、野良プレイヤー相手に77連勝を叩き出したのが大きかったようだ。

 あのときの切り抜き動画は、今でも取り上げられて話題になっている。


「皆で相談して、驚かせようと思ったんだ」


 結は語り、暦深たちとうなずき合った。


 そして、トートバッグから特製の横断幕を取り出して広げた。

『ガンバレ! 公爵くん!』とカラフルな色合いで書かれている。


「じゃーん。これ、皆で作ったんだよ。すごいでしょ、お兄ちゃん」

「おお……! ありがとう!」

「やっぱパートナーなら、現地で応援しなきゃね!」


 結が満面の笑みで言うと、隣の暦深が肘でつついた。


「ゆいちー? パートナーってどういうこと?」

「え? 妹だと味気ないじゃん」

「結さん……私たちにラスボス周回を何回やらせれば気が済むんですか。さすがのネオンちゃんもクソゲーすぎて匙投げるレベルですよ、Bitte」

「こうなったらユイ、第8ラウンドだ。新幹線での借りを、ここで返させてもらおう。我が血潮はミナトとともにある」

「へっへーん。何回でもかかってらっしゃい! 私、大富豪は得意なんだよねー!」


 せっかくの横断幕が皺になるのも構わず、わちゃわちゃと小競り合いを始める結と暦深たち。


 湊は、受付嬢のようにニコニコ笑いながら距離を取っている伊月旗に声をかけた。


「伊月旗さんも、来てくれてありがとう」

「いえ。湊さん、今日はぜひ勝ってくださいましね。そうでないと、可愛い可愛い結さんが新幹線の中で暴動を起こしかけたのを止めた甲斐がありませんもの。ここは勝ってくださらないと。ええ」

「はい必ず」


 この1ヶ月、妹の友人が持つ絶大な力を目の当たりにしてきた湊は、即座にうなずいた。


 宿泊客の視線が集まってきた。そろそろ出発しないと遅れてしまう。

 湊は言い合いを続ける妹と親友たちに、力強く宣言した。


「皆、安心してくれ。皆がいれば、新生『公爵』は誰にも負けない」

「その意気だよ、お兄ちゃん」

「やっちゃえ、みーくん!」

「ミナト、お前ならできる」

「また伝説を作って、箔をつけましょう!」


 大事な人たちのエールを受け、湊は堂々と出陣した。



◆◆◆



『おおっと!? ここで公爵が攻める攻める! あっという間に形勢をひっくり返したぁ!』


 ワアアアァァァッ!!


 大会の会場は、熱気と興奮に包まれていた。

 カムバックした『公爵』が、さらに凄みを増したプレイングで対戦者を圧倒していたのだ。


『そして流れるように決着ゥッ!! この瞬間、勝者決定! 魅せる王者がここに再誕したぁーっ!!』


 ウオオオオォォォッ!!!


 鼓膜が破れそうなほどの歓声を受けながら、湊は対戦相手と握手をかわす。

 復帰戦の大会で、見事優勝を果たしたのだ。


(勝った……! 俺は、過去のトラウマを乗り越えたんだ。未来を、変えられたんだ……!)


 握り拳を作り、天井を仰ぐ湊。

 割れんばかりの歓声は、湊の耳に祝福として響いた。


 挫折して表舞台から姿を消したかつての神童が、さらに強くなって復活した――そんなストーリーに、観客たちは魅了された。


 だが、湊への注目はこれだけでは終わらなかった。


 優勝インタビューで、司会者が観客席の一角を指差しながら湊に尋ねた。


「あそこで横断幕を掲げている熱心な公爵ファンがいますね。しかも、全員超可愛い! とんでもなく羨ましいぞ、このこの!」

「彼女らは、俺の親友であり、家族です」

「え? 全員?」

「はい。全員」

「実はチームメイトとか、学校の友達とか、そういうわけでもなく?」

「親友です」


 大真面目なコメントに、観客席がどよめいた。

 スポットライトを浴び、マイクを向けられた結と暦深たちが、それぞれの反応を示した。


「私が妹です。つまり、唯一無二の存在です。妹しか勝たん。親友には負けん」

「やっほー、みーくん! カッコよかったぞー! 惚れ直したー!」

「ミナト。座ってばかりで鈍っているだろう。このあと私と存分に運動しよう」

「公爵は私が育てた! ……あ、ごめんなさい言い過ぎましたあんま見ないでください……」

「皆さん大胆でお可愛いことですわ。あ、私は付き添いですので、どうぞよしなに」


 司会者が湊に向き直る。


「……本当に、あれで親友?」

「なぜ疑われるのだろう……。どこからどう見ても、固い絆で結ばれた親友だろうに……」

「これが真の王者だっ! 羨ましすぎる公爵に、皆さん大きな拍手をーっ!」


 うおおおおおおおっっ!!!


 強引に場を締めた司会者のアナウンスに、会場内は異様な盛り上がりを見せるのであった。



◆◆◆



 ――翌日。

 ホテルの部屋を出た湊は、詩織からのメッセージに気づいた。


『優勝おめでとう、湊君! とてもすごいわ』


 ありがとうございます、と返信した直後、さらにメッセージが届く。


『そちらは今日、大変だと思うけど、お姉さんは湊君の味方だからね。何でも相談して』

「……? どういう意味だろう」


 エレベーター内で首を傾げる。

 その後、チェックアウトを終えてホテルを出た湊を、暦深たち4人の少女が出迎えた。伊月旗は先に帰ったらしい。


「湊君、これ見てください」


 福音が、今回の大会に関するまとめサイトを見せた。

 タイトルにはでかでかと『公爵(デューク)・ラブコメ 爆誕!!!』と書かれていた。


「新しいニックネームですって」

「何だろう、あんまり嬉しくない……」

「そうですよね。アルゼンチンヒメアルマジロの方が可愛いです」

「福音、そのネタもそろそろ店じまいにしないか?」


 福音は聞いていなかった。

 それどころか、集まった少女たち全員がソワソワしている。


「ねえみーくん。今日は1日お休みなんだよね?」

「ああ。祝勝会は昨日やったし」

「じゃあさ!」


 勢い込んだ親友たちが、いっせいに口を開いた。


「せっかく遠出したんだし、カフェでお茶しようよ。めっちゃ映えるって有名な店があるんだ。ふたりっきりで行こ!」

「新しく屋内アスレチック場ができたらしいんだ。これを攻略するのは、私とミナトのふたりが相応しいと思うのだが」

「大会会場の近くに、プロゲーマーの集まるゲームセンターがあるそうです。これは夜空姫ネオンとアルゼンチンヒメアルマジロ公爵の出番ですね!」

「お兄ちゃん。こんな騒がしい連中と一緒にいても疲れるだけだよ。さっさと帰って、家でふたりだけのお祝いしよ?」


『誰と一緒に過ごすの?』と迫られ、湊は困惑した。

 詩織が言っていたのはこのことだったのだ。


「皆と一緒じゃ駄目なのか?」

『駄目!』

「むぅ……。なら俺は――」


 ――タイムリープを経て、未来は変わった。

 悲劇を回避した公爵君のラブコメは、まだまだ続きそうである。




 


(了)




※※※ これにて完結です!! 読んで頂いてありがとうございます!! ※※※


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なにとぞ、よろしくお願い致します!!!


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