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35話 立ち上がる湊、従うヒロインたち。モブ男は取り残された上にマウント返しをされる件


 ――その日の放課後。


「えーりん、大丈夫かな」


 心配そうに暦深が呟く。隣で福音も「心配です」と頷いた。

 彼女たちの前で、湊は自分の席で俯き加減に考え込んでいた。見かねた暦深がフォローする。


「みーくん。そんな落ち込まないで。えーりんだって、本心からみーくんを拒絶したわけじゃないって」

「さっき暦深が言ったとおりかもしれない。俺はもっと言葉を選ぶべきだった」

「みーくん……」


 鋭理にかけた言葉は、湊の本心だ。

 彼女を本当の親友だと思ったからこそ、心を鬼にして問いかけた。それは湊なりの誠実さだったが、結果的に鋭理とのすれ違いを生んでしまった。


 湊は深呼吸した。4秒かけて吸って、4秒かけて吐く。そして「リスタート」と呟いた。


「こういうときこそ、しっかり話し合わなければ。鋭理の家に行ってくる」

「それじゃあ、あたしたちも――って、みーくん、えーりんの家を知ってるの? いつの間に?」

「この前、詩織さんを助けたときに招待された」

「へ、へぇ……。えーりんのお姉さんとも、もう知り合いなんだ。ふぅん」

「しれっと人助けしてるんですね。さすがというか、天然というか」


 複雑な表情を浮かべる暦深と福音をよそに、湊は勢いよく立ち上がる。

 ちょうどそのとき、湊のスマホにメッセージが届いた。詩織からである。


:こんにちは、湊君。ちょっといいかしら。

:今、鋭理と一緒にいる?

:あの子に買い物を頼もうと思って連絡したんだけど、返事がなくて。

:一緒にいるなら、とりあえず家に戻るように伝えてくれないかしら。

:お願いね。


「鋭理のやつ、家に帰っていないのか?」


 届いたメッセージを暦深たちにも見せる。ふたりの少女は困惑して顔を見合わせていた。

 とりあえず、湊は詩織を心配させないようメッセージを返した。鞄を手に取る。


「鋭理を迎えにいってくる」

「迎えにって、どこに!?」

「心当たりがある。ふたりは先に帰っていてくれ。危険かもしれないから」

「危険!? ちょっと、みーくん!?」


 暦深を振り切って、湊は教室を出ていった。

 廊下を小走りに移動しながら、湊は呟く。


「早まるなよ、鋭理……!」



◆◆◆



 教室に残された暦深と福音は、湊の走り去っていった方を呆然と見つめていた。


「みーくん、あんなに真剣な顔で行っちゃった」

「暦深さん、もしかしたら湊君と鋭理さんはここに行ったのかもしれません」


 福音がSNSの書き込みを見せる。そこには、高校生カップルが未踏のルートをクライミングで攻略したことが書かれていた。

 場所は、郊外にある空蝉の爪痕という岩壁だ。


 そういえば、鋭理が嬉しそうに話していたことを、暦深は思い出した。胸がざわついた。


「ねねっち、検索が早いね」

「そ、それは」

「お、今日はお前たちだけか」


 そのとき、航平が話しかけてきた。湊と鋭理がいないことを見て、安心しているようだった。


「ちょうどよかったぜ。これからファミレス行こう。新メニューが出たんだってよ。ちょっと試してみようぜ」

「こーへーくん……ごめん、それどころじゃないっぽい。みーくんとえーりんが――」

「そんなにあいつらのことが気になるかよ。幼馴染の俺よりもさ」


 途端に不機嫌になる航平。明らかに拗ねていた。


「放っておけばいいだろ。あいつらだって子どもじゃないんだし。普段、あんだけ自信満々なんだ。何が起こっても自分で何とかできそうじゃん」

「そんな言い方ないでしょ」


 暦深は反発した。隣で福音も眉をひそめながら頷いている。

 鋭理のときのような失態は繰り返すまいと思っているのか、航平は強気に出た。


「いいから行こうぜ。ほら、暦深! 福音!」


 ふたりの手を取って、無理やり連れ出そうとする。

 暦深と福音は、その手を振り払った。航平が眉をひそめる。


「は? 何すんだよ、ふたりとも」

「ごめん、こーへーくんとは一緒に行けない。あたしはみーくんとえーりんの役に立ちたいの」

「私たち、湊君と鋭理さんの方が心配なので」

「ちょ、待てよ。マジ? お前らも!?」


 慌てて航平が呼び止めるものの、彼女らはそのまま鞄を手に教室を飛び出していった。

 差し出した航平の手が、虚しく(くう)をつかむ。


 この期に及んで、航平は自らが置かれた立場を理解できないでいた。


「何だよ。学校サボったくらいで、誰も彼も目の色変えやがって。今までだったら、何だかんだ俺に付き合ってたじゃないか。何で今日は行っちまうんだよ」

「そういうところなんじゃねーの?」


 呆れたように声をかけてきたのは田島だった。


「何事かと思って様子見てたけどさ。相沢、お前、早めに謝った方がいいよ。久路刻さんたちにさ」

「俺が? 何でだよ?」

「さすがに自分のことしか考えてなさすぎ」


 ずばりと言われても、航平はピンとこない。

 だから、せっかくの助言にも見当違いな返しをしてしまう。


「何だよ、田島。もしかして羨ましいのか? 美少女とお近づきになりたいって、いつも言ってたもんな」

「確かに言ったが、それは今は昔の話なのだよ。相沢君」

「うざ……。何だよ、その余裕」

「ふふん。聞いて驚け。ついにオレにも一緒に帰る女の子ができたのだ!」

「な、何だって!?」

「つっても、まだお友達から、だけどな。大事にしたい女の子ができたってわけ。これも天宮ししょーのおかげだな。んふふ」


 デレデレしていた田島が、ふいに真面目な顔になった。


「つーことだからよ。相沢みたいに、距離が近いからって相手を軽く扱うのは、見てられねーんだわ。やめてくんね?」

「う……」

「このままじゃお前、近いうちに全員から愛想尽かされるぜ? もうその兆候、出ちゃってんじゃないの?」


 航平は言い返せなかった。

 あのチャラ男で女子に飢えていた田島が、あろうことか女性関係で自分にマウントを取ってくるとは予想していなかったからだ。


 田島は肩をすくめると、「彼女を待たせてるから」と言って帰っていった。


 ひとり残された航平は、言葉にできない不安と孤独感に苛まれた。暦深、鋭理、福音の席を順に見渡す。

 スマホを取り出し、グループチャットを開く。田島に言われたように謝ろうとして――結局、やめた。


「俺は、幼馴染だぞ。何年も一緒だったんだ。今更、変わらない。変わるもんかよ。きっと、あいつらだってほとぼりが冷めれば戻ってくる」


 その根拠なき自信が、幼馴染の少女たちとの関係をさらにスカスカにしていくことを、このときの航平は理解できずにいた。


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