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22話 2人目の親友はタイムリーパー。過去を共有する唯一無二の理解者になった件


 思わずペットボトルを落とす湊。

 床に零れたお茶を、湊と福音は慌てて拭き取る。その際、ごちんと額をぶつけてしまった。


「あ痛たた……ご、ごめんなさい」

「いや、こちらこそすまん。おかげで少し頭が冷えた」


 福音の隣で、湊はパソコンテーブルに寄りかかった。


「それで、福音。さっきの話、詳しく聞かせてくれないか。お前もその、タイムリーパーだったって件」

「は、はい! えへ」

「嬉しそうだな」

「あ、あはは。こんな話、リアルでもネットでも打ち明けられなくて。湊君も一緒だと知って、何だか嬉しくなっちゃって。えへへ」


 前髪をいじった福音は、居住まいを正した。


「私のタイムリープは去年……中学生の頃でした。あのとき、私は両親からアバター作成の依頼先を、2人、提示されたんです」

「VTuberのアバター作成……」

「湊君が話してくれたタイムリープとは、たぶん別物、別の次元のものです。けど……『人生をやり直した』という意味では、私も同じです」


 そう語る福音の表情は、強ばっていた。


「クリエイターさんのひとりは、母が推薦してきました。母が参加しているNPO団体の関係者で、人権問題にすごく熱心に取り組まれている男性でした。母の言うことは、社会的にいつも『正しい』……。だから私は、母の推薦通り、その男性をクリエイターに選びました」

「そういえば、相沢が福音に話しかけるとき、よく『正しい』って言葉を使ってるな」

「航平君は、私が両親の『正しさ』に逆らえないことをよく知ってるんです」


 力なく福音が笑う。


「男性クリエイターさんは、国際的な人権啓発イベントでイラストを表彰されたこともある方だったので、スキルはあったのですが……その、リアル寄りであまり可愛くなくて。それでも母の手前、嫌とは言えませんでした。VTuberの活動は、両親に支えられていたからです」

「なるほど」


 頷きながら、湊は腕を組んだ。

 福音は『人生をやり直した』と言った。母に逆らえなかったとはいえ、アバターが不満というだけでタイムリープを願ったとは思えない。


「しばらくして――私は炎上しました。盛大に」

「炎上?」

「クリエイターの男性が、スキャンダルを起こしたんです。女性問題で……。その際、マスコミに流れた彼のプロフィールに、私のアバターが使われたんです。彼の考え方を象徴する著作物として。『犯罪者とグルになっている』と、私は叩かれました。世間の『正しさ』によって潰されたんです」


 言葉を失う湊。

 一気に生気を失った福音の横顔を見れば、そのときのバッシングがいかに理不尽で激しかったものか想像がつく。


「『正しさ』が拠り所だった両親は、ひどく動揺しました。そしてすごく荒れました。学校にも通えなくなった私は、両親の怒鳴り声を間近で聞き続けるしかなくて……リアルにもネットにも逃げ場がない状況に追い込まれたんです。ここまで、わずか1ヶ月ちょっとのことでした。ああ、これは人生詰んだなって」

「福音……」

「そんなときです。見慣れないアカウントから『タイムリープに興味はないか?』と誘いがあったのは。追い詰められていた私は、その話に乗り……記憶を保持したまま1ヶ月前にタイムリープしました」

「見慣れないアカウント?」

「はい。ただ正直、そのアカウントのことはもう思い出したくありません」


(どういうことだ。俺のケースと違う)


 内心で湊は眉をひそめる。

 湊がホクロの君と出会うのは今から1年後。一方の福音は、半年以上前にすでにタイムリープを経験している。しかも、戻った時間は1ヶ月ほどだ。

 ホクロの君とは時間軸が合わないはずだ。


 やはり福音は、ホクロの君と別人なのか。


(いや。そうとは限らない。福音がこの先、もう一度タイムリープを経験するかもしれないんだ。再び両親の『正しさ』が脅かされるような事態になれば……今度こそ福音はボロボロになってもおかしくない)


「1ヶ月前に戻った私は、母に懇願してもうひとりの候補だったクリエイターにアバター作成を依頼しました。そうして出来上がったのが『夜空姫ネオン』です。母はビジュアルに納得していないようでしたが、そこは父が取りなしてくれました。母に比べ、まだ配信活動に理解がある人なので……」


 椅子に座ったまま、膝を抱える福音。


「タイムリープによって、私は人生をやり直すことができました。けれどその代償として、私はますます両親から離れられなくなってしまいました。両親の考える『正しさ』を否定したとき、どんなことが起こるかを知ってしまったからです。だからせめて、ネットの世界では、自分だけの理想の正しさを求めたい……そのために、私は夜空姫ネオンになるんです。ネットで理想世界を求めて彷徨う。まさに『迷子吸血鬼』って感じですよね」


 湊君、と福音は顔を上げた。


「私、もうあんな思いはしたくないです。同時に、湊君にも苦しい思いをして欲しくない。人生をやり直したいほど辛いことなんて、経験しなくていいんです」

「福音……」

「私が、湊君の探しているホクロの君かどうかは……わかりません。けれど、同じタイムリープを経験した者同士、ともに歩むことはできませんか? その、まずは――『親友』として」


 揺れる瞳が湊の心を打つ。


 過去を打ち明け、共有できる友。

 親友の条件に、福音はこれ以上ないほど適していた。


「こちらからお願いしたい。俺と親友になってくれ、福音」

「……」

「……。福音、そこで黙られると非常に気まずい」

「やっぱり親友って日和るんじゃなかった……!」

「福音さん?」

「何でもありません! とにかく、私と湊君は秘密を共有した唯一無二の間柄ですからね! そこのところ、よろしくお願いします!」

「お、おう」

「ともにグッドエンディングを目指しましょう! bette!」

「落ち着け福音。ネオンが混じってる」


 真っ赤になった福音の圧力に押され、頷く湊。


 タイムリープを持ちかけたというアカウントのことも気になったが、『時間でぇす』とメイド受付嬢から連絡が入り、その日はお開きになった。



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