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21話 福音は3人目のホクロの君?「私もタイムリープしたんです」衝撃の告白をされた件


「久路刻には申し訳ないことをしたな、と思ったんだ。ファミレス割引券を渡したのは俺だから」


 湊が正直に答えると、福音は「それだけですか?」と食い下がってきた。


「どうした福音。急にそんなこと聞いたりして」

「急にじゃないです。前から確かめたいと思ってたことなんです。ここなら……誰にも聞かれませんから」


 確かに配信ブースは防音仕様になっていて、声が外に漏れにくい。


「確かめたいこと?」

「どうして湊君は、暦深さんや鋭理さんとは自然体でいられるんですか?」

「……んん?」

「こう言ったらアレですけど、湊君って他のクラスメイトや女の子たちには相変わらずドン引きするほど積極的じゃないですか。なのにフラれてるし」

「すまん福音。これもしかしてまだ配信続いてる?」


 半分『夜空姫ネオン』に切り替わっているかのような容赦ないコメントに、湊は狼狽えた。

 だが、福音は追及の手を緩めない。


「特に鋭理さんです! いつの間に親友になって、しかも名前呼びになったんですか。鋭理さんのことは幼稚園から知ってますけど、こんなの、航平君以外には初めてです。いえ、航平君でもなかった笑顔でした、アレは! いったいどういう経緯でふたりはああなったのですか!?」


 いつの間にか顔が近い。福音は椅子に乗り上げてまで湊に迫っている。これは完全に周りが見えていないなと湊は思った。


「……山登りだよ。ほら、この前ショッピングモールで遊んだとき、鋭理が誘ってきただろう?」

「付き合ってって言ったときですね! あのときは気を失うかと思うほどびっくりしました!」

「福音、圧が凄い、圧が。それで、だ。休日にふたりで郊外の岩山に登ったのさ。鋭理が、まだ未踏のルートがあるから手伝って欲しいってな」

「吊り橋効果ですね! そんなに危険だったんですか!? そこんとこkwsk(くわしく)!!」


 湊は無言で福音を抱え上げ、椅子に座らせた。あらかじめ買っていたペットボトルの緑茶を開け、まるで介護するように「ゆっくりな」と飲ませる。

 福音は食事中のリスのように大人しくなった。


「確かに危険だったよ。実際、滑落しかけたしな。けど、おかげで俺は鋭理と大事な感覚を共有できた。ザイルパートナーとして、『命を預け合う感覚』だ」


 岩山の頂上から見下ろした景色や、鋭理と交わした言葉を思い出す。


「俺は誰でも親友にしたいわけじゃない。自分の中で基準を作ってる。命を預け合える関係は、その中でもとびきり大きな要素だった。だから俺は鋭理に言ったんだ。『俺と親友になってくれ』って。そして、鋭理も俺のことを認めてくれた」

「そう、だったんですか。……でも」


 福音はペットボトルを両手でぎゅっと握った。


「私には、暦深さんや鋭理さんに対する態度が、他の人とそもそも違うように見えます。特別感……というか」

「それはホクロの――」

「ホクロ?」


 口を覆う。しかし、福音はじっと湊を見つめていた。

 ここで誤魔化すのは不誠実だと思った湊は、正直に話すことにした。


「俺には、親友になりたい子がいるんだ。けど、顔も名前もよく思い出せなくて。唯一、胸元にホクロがあったことだけは鮮明に覚えてる」

「胸……ホクロ……鮮明に」

「俺は彼女のことを『ホクロの君』って呼んでる。いつか彼女と再会して、本当の友としてやり直したい。そう思っていたら、どうやらホクロの君は瑞穂学園に通っているかもしれないとわかったんだ。そして――」

「暦深さんと鋭理さんの胸に、ホクロがあるのを見た」


 福音の言葉に、目を丸くしながらうなずく。


「よくわかったな」

「3人でお風呂に入ったことがありますから……。温泉とか」

「なるほど。確かに幼馴染ならありうる」


 納得した湊だったが、福音が俯いたままであることに気付いて首を傾げた。

 福音は大きく2回、深呼吸をした。それからブースの扉を振り返る。


「……今なら、大丈夫かな」

「福音?」

「湊君。見てほしいものがあるんです」


 そう言うなり、福音はブラウスの胸元に手をかけた。ボタンをひとつ、ふたつと外し、ゆっくりと左右にはだける。

 福音らしいシンプルなデザインの下着に半分隠れるようにして、小さなホクロがぽつんとあった。


「福音……それは!」

「み、見ました? 見ましたよね? じゃあ終わりです、はい終わり!」


 バッとブラウスをとじ合わせる福音。真っ赤になりながらいそいそとボタンをはめ直す彼女を、湊はただ呆然と見つめていた。


(まさか、久路刻と鋭理だけでなく……福音まで!?)


 立ち尽くす。

 湊にとって、ホクロの君は親友作りのきっかけとなった大事な少女であり、将来の悲劇から何としても救いたい相手でもある。

 その重要な証拠であるホクロが、暦深、鋭理、福音の3人全員にあるなんて。


(あのとき出会ったホクロの君は、いったい誰なんだ……!?)


「これで私も、暦深さんたちと同じになれますか?」

「あ、いや、うん。すまない、いきなりのことで、少々混乱している」

「……よかった。私でも、ちゃんと湊君に意識してもらえるんですね」


 福音の小さな呟きは、動揺している湊の耳に届かなかった。

 額を押さえ、緊張と混乱の汗を顔に浮かべる湊に、福音はペットボトルのお茶を差し出した。自分が口をつけたものだ。


「ど、どうぞ」

「あ、ああ。もらう」

「どうか一気にいっちゃってください。じっくり飲まれると、その……さすがに恥ずかしいので」

「……? ああ、なるほど間接キスか」

「ノ、ノーデリカシー!」


 親友なら気にする必要ないのにと思いつつ、湊はペットボトルに口をつけた。まだ冷たさの残るお茶が喉を通っていく。同時に気持ちも少し落ち着いてきた。


「まさか、3人が3人とも同じ場所にホクロがあるなんてな……完全に予想外だった」

「あの、湊君。どうして、そこまで必死になってホクロの君さんを見つけようとしているんですか? それに――」


 言いにくそうに福音は続ける。


「私には、湊君とそういう出会いをした記憶がないんです。暦深さんや鋭理さんからも、一緒にいて湊君みたいな子と会ったって話を聞いたことがないのですが……」

「……福音。これから話すこと、笑わないで聞いてくれるか?」


 湊は話すことにした。自分が1年先の未来からタイムリープした人間であることを。ネットに理想を求める彼女であれば、信じて話を聞いてくれると思ったのだ。


 過去を打ち明け、共有できる友。

 それもまた、湊が親友にしたい相手の条件だった。

 ところが。


 意を決して事情を打ち明けた湊に、福音は予想の斜め上の返事をしてきたのだ。


「……同じです」

「は?」

「私も同じです! タイムリープしたことあるんです! 一緒! 湊君と一緒です!!」

「はあああっ!?」


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