12話 風に乗せて
「くしゅんっ!」
「風邪か?」
「誰かが噂をしてるんだと思います。くしゅんっ!」
「……異世界を救ってきました。」
師匠の目が細くなった。少年の顔を、じっと見つめている。その瞳に宿るのは、もはや教師が生徒に向ける類のものではなかった。
「…そうか。」
ぽつりと、独り言のように零れた言葉だった。冗談でも誇張でもない。異世界を渡り歩き、未知の法則に適応し、たった一人で道を切り拓いて帰還した弟子。それはもう、教えを乞う側の人間の顔ではなかった。
師匠はしばらく黙っていた。カップを置く音だけが、静かな書斎に響いた。
大樹は名残惜しそうに扉を振り返る。
開いた扉には自分と師匠がうつっている。
信じられない光景に目を疑った。
「え…鏡……?どうして……?」
師匠は重たい口を開いた。
「空想の扉に鍵をかけたのは俺だ。」
大樹は頭を抱え混乱する。
「なんで……なんで……?」
「全知全能、素晴らしい力だ。ただ、一つだけ知ってはいけない事があったから。それがこの扉だからだよ。」
空想世界とは未知のウィルスによるゾンビパニック、宇宙からの侵略者による崩壊世界。
遥か未来の超高度な文明。
魔王や魔族が勇者や冒険者と戦う異世界ファンタジー。
先入観で扉の本質が見えていなかった。
「何故鍵をかけたんですか…」
「事実を知ったら落ち込むだろうと思った。俺がそうだった。生きる意味を失った。何のための努力だったのかと。」
「……。」
「さぁ、過去に戻って自分に修行をつけよう。それがシナリオだ。タイムループというジャンルだ。」
「断ります。」
「断る……?」
「俺はこの力を限りなく希釈して全世界の人類に分配します。風に乗せて。
…分配するこの力は『言霊』と名付けます。」
「……言霊、か。」
その言葉を噛みしめるように、師匠は繰り返した。名前をつけるということは、概念を確定させ、体系化するということだ。「力」という曖昧な呼び名を捨て、一つの技術として世界に定義する。それが意味することを、理解できないはずがなかった。
「終わらすんだな。」
「はい。」
「それはハッピーエンドなのか?」
「決めるのはどこかの"誰か"です。」
窓は閉まっているがそよ風がする。
風が笑っている気がする。
遠くのどこかで誰かがくしゃみをした気がした。
ある作品は異世界で最強ではないが無双する
ある作品は異世界で最弱だけど魔王を倒す
ある作品は殺しを正当化し世界を支配する
ある作品は歪んだ願いで時間をループする
ある作品は落ちこぼれが努力をして強敵を倒す
創作者にとって○○っぽいは褒め言葉のようで
オリジナリティを完全に否定する残酷な言葉です。
私の物語は現世では最強だが無双はしません。
異世界では最弱でも魔王は倒しません。
世界を支配する力を持っても誰も殺しません。
時間はループしますがそれを断ち切ります。
努力をしてもライバルに敵討ちをしません。
どの作品も力を手にすると正義の皮を被って
誇示
支配
復讐など
暴力にしか使われてきません。
ヒーローも勇者も所詮暴力を正当化してるだけです。
私の物語は努力により
『どんな能力者にも勝てる力』と
『全知全能の知恵』をつけた結果、
『理解』と『共存』と『分配』という形を選びました。
正直、異世界編は蛇足です。
無くても良かったんですが流行だからぶち込みました。




