ファイル10 太田莉奈:後編
「こんにちは、初めまして。」
畠中先生が莉奈の目線になって、笑いかけた。
「こんにちは。」声は小さかったが、莉奈はしっかりと挨拶した。
「太田さんは、こちらでお待ちくださいね。じゃあ莉奈ちゃんあっち行こうか。」畠中先生はそう言うと、莉奈と手をつなぎ、応接室奥のセラピールームへと向かった。
応接室のソファーに座り、スマホのメールを見ると、先崎君から「グッド」の絵文字が送られてきた。
「どうぞ、お待ちの間良かったら。」
啓介先生が、緑茶の入った湯のみと、チョコレートクッキーを置いた。
「あ、すみません、ありがとうございます。」
スマホをバッグにしまい、座り直した。
「そんなに時間はかからないと思いますけど、緊張しますよね。」
「そうですね。娘のカウンセリングをお願いすることになるとは、思っていなかったので。」
家に帰った後、最初に啓介さんに電話をかけたが、繋がらなかった。
次に畠中先生にかけると、「はい!」とすぐ元気な声が聞こえたので、「先日お世話になった、田島ですが。」と、これまでの経緯を話した。
畠中先生からは「はい!ぜひ莉奈ちゃん連れてきてください。」と、快諾してもらった。
次の日の放課後。
学校が終わるとすぐ着替えさせ、新宿のオフィスまで連れてきた。
父達も莉奈の事を心配していたので、カウンセリングを受けることについては前向きだった。
だが、「カウンセリング」のイメージが心の病を彷彿させるため、聞いたときは二人とも心配そうな顔をしていた。
啓介先生が出してくれたお茶を飲んでいると、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「畠中先生は、元看護師なんです。小児科の病棟に長くおられて。お子さんも二人いらっしゃるんです。」
畠中先生は、小柄でハツラツとしている一方、どこか頼もしいと感じていた。「そうなんですね。」と、相槌を打つと、さらに啓介先生は、続けた。
「たまたま、11月まで東京にいらしたんです。いつもは北海道でご主人と活動されてるんですよ」
「え!そうだったんですね。」
驚いた時、またドアの向こうから莉奈の嬉しそうに笑う声が聞こえた。
莉奈の笑い声、しばらく聞いていなかった。
「太田さん。太田さん自身も大変だったんですから、ご自分を責めないでくださいね。」
察したのか啓介先生が、優しく言った。
「たまピカセラピーを受けたからと言って、すぐに超人みたいに人生が開けるかと言うと、そうじゃないんです。
魂をピカピカにしても、この他の層「心」「体」「マインド」を磨き続けなければ、バランスを崩してしまうんです。」
そう言うと、またセラピーで使ったあの絵を見せてくれた。魂を囲うように3つの層が連なっている。
「太田さんは、短い時間の間に、環境が大きく変わっています。魂が望んだ方向へ大きく軌道修正をしましたが、同時に心と体に負担がかかっているのも事実です。なので、ご自身をゆっくりと労わり、休ませることも必要です。」
「そうですね。わかってはいるんですが…どうすればいいか、わからなくて。」
私がそう言うと、
「御守護の神様に相談されましたか?」と、啓介先生は聞いた。
「えっ、いいえ。あの、どうやって?」
そう聞き返すと、
「簡単ですよ。ただ目を閉じて、神様のお姿を思い浮かべてください。お顔が浮かんでから、質問をすると、お答えになっていただけます。」と言った。
それじゃぁと、ソファーに座ったまま頭の中に以前に見た御守護の神様の姿を思い浮かべた。
すると、金の衣をまとった女神様が見えたが、何か不服そうな顔をし腕を組んでいる。
「あの、何か怒っているようなんですけど、なぜでしょうか?」
「それでは、理由を聞いてみてください。」と啓介先生に言われたので、そのままの言葉を心の中で呟いた。
すると「あなた、せっかく繋がったのに、全然私に質問してこないじゃない!」と言う声が聞こえた。
「えっ」
驚いて目を開け、啓介先生に今聞いた言葉を伝えると、
「それなら、(これから沢山質問しますので、よろしくお願いします。)と、お伝えください。
神様も太田さんに沢山メッセージを伝えたいのに、全然頼ってくれないから、つまらなかったのかもしれませんね。」
「あ、そうかもしれません。」
もう一度目を閉じて、今言われた通りに伝えると、
「よろしい。」と聞こえ、神様が笑顔になったのがわかった。
それでは、「体と心を休めるために、自分はどうしたらいいでしょう?」と質問した。
神様:好子は何をしたら、一番休めると思うの?
好子:えっ、そうですね。実家にいても正直疲れるんです。ずっと気を使っていて。
神様:じゃぁ実家を出ればいい。
好子:でも、行く当てもないし、仕事もまだ見つかっていなくて。
神様:今の状況で、仕事がしたいの?
好子:いいえ、でもお金を稼がないと、生きていけないし。
神様:違う、違う。そうじゃない。もう一度最初から。今の質問は、「心と体を休めるにはどうすればいいか。」それをするために、好子はどうしたい?
目を開いて、啓介先生の方をみる。
ワクワクした表情で啓介先生は、「なんと言われましたか?」と聞いた。
「あの、すごく論理的な方で、」そう言うと、ふんふんと頷き、「自分で気がつくように指導される方ですね。」と、笑った。
「神様には肉体がありません。
ましてやお金という概念もありません。
仮に神様に「疲れた。」と言うとしましょう。でも神様にとっては、「だからどうなりたいの?」という状況で、何もできないのです。ここで、「疲れたから、温泉に行って体を休めさせたい。」と願えば、具体的にどこの温泉?いつ?誰と?と細かい設定ができます。それを伝えると、神様にはっきりこちらの意図が伝わり、願いが叶いやすくなるんです。」
啓介先生は、願望実現でよく「手帳に書くと良い」というのは、ある種の神様へのオーダーだと言った。
「心と体を休めるために、一番したいことは何か?なんでもいいですよ。思いつくことはあります?
」
「うーん、そうですね。莉奈と二人で旅行にも行ったことがなくて。少しだけでも莉奈と一緒に、自然のあるところで、のんびりしたいです。」
「そうです、そうです。それを神様に伝えてください。」
もう一度、息を整え、目を閉じる。神様が脳裏に映った時、
「莉奈と一緒に旅行に行きたい。」と伝えた。
すると、神様はにやっと笑い、こう聞き返した。
神様:いつ行きたい?
好子:莉奈の冬休みが始まったら
神様:どこに行きたい?
好子:どこでも。自然があるところ、できるだけ東京から離れたい。あ、南は嫌です。北が良いです。
神様:ふふふ。
衣で、口元を覆うと、神様は、まぁ少し待ちなさいと。笑った。
「あの、少し待てと。」今、言われたことを伝えると、啓介さんは「お、いいですね。きっとすぐお知らせがありますよ。」と言い、今お茶のお代わり入れますね。と急須を取りに、オフィスを出た。
啓介さんが出たのと入れ違いに、奥のドアが開き、莉奈がピョン、ピョンと飛び跳ねながら出てきた。
「お母さーん!」
「どうしたの?」
嬉しそうな莉奈をソファーに座らせると、畠中先生が出てきた。
「お待たせしました。莉奈ちゃん、とても優しい子ですね。」
「ありがとうございます。」
来た時とは打って変わって、元気になった莉奈の姿を見て心底驚いた。
「莉奈ちゃん、お母さんと二人でお話しするから、ここで待っててもらえるかな?」
「はい。」
急須を持って来た啓介さんに、莉奈を見てもらうように頼み、奥のセラピールームに入った。
「あの、莉奈は大丈夫だったんでしょうか?」
「はい。特に、心配するところはありませんが、お父様の激しい感情や、環境の変化がストレスになっています。」
「そうですか…」
「ご自宅で、ピアノ教室をされている手前、静かにしないとお婆ちゃんが怒る。と言ってました。本人にそのつもりはなくても、日常的に気を使っているようです。ですが、何かの病気や精神的な病ではありません。少し心を休む環境があれば、回復していきます。」
そう言うと、手に持っていたA4サイズのチラシを取り出した。
「そこで、これは私からの提案なんですが、お二人で参加してみませんか?」
畠中先生からチラシを受け取り見ると、親子の旅行プログラムだった。
【伊達市こどもの家主催 クリスマスキャンプツアー】
期間:2014年12月23日〜12月25日
みんなで一緒にクリスマスを祝いましょう。
(日程)
1日目:札幌宿泊(札幌ファクトリーで巨大クリスマスツリーを見よう)
2日目:洞爺湖温泉宿泊(クリスマスパーティー 歌やゲームでみんなで遊ぼう
3日目:洞爺湖教会 (クリスマスのミサに参加しよう)
※どなたでもご参加いただけます。
※12歳未満の方は保護者の付き添いが必要です
参加費:35,000円(6歳未満は半額)
「えっ。これどうして?」
「実は、私北海道の人間なんです。東京にはセラピーの仕事でたまたま2ヶ月だけ滞在してたんです。明後日、北海道に帰るんですが、その前にお会いできてよかった。」
畠中先生はそう言うと、「夫が牧師なんです。私も主催に関わっているので、ツアーに同行するんですが、まだ募集してて。うちの子供達も参加するんです。よかったら一緒に行きませんか?」
「参加して良いんですか?」
「もちろんです。それに3日だけとは言わず、冬休みなんだから、2週間くらい家に滞在してください。北海道は3日じゃもの足りませんから。」
「いいえ、そんなご迷惑になります。」
「ぅうん。遠慮しないで。元々農家だった家に住んでるから広いのよ。あと5人くらいは一緒に住めるから。それにね、これは神様のお導きです。」
畠中先生はそう言うと、「誰かに頼ってみるのも良いもんですよ。」と笑った。
不思議と、畠中先生と話していると、心が落ち着く。本当に頼っても良いかもしれない。
「そうですね…一応両親に話してからお返事しても?」
「もちろんです!楽しみにしてますね。」
チラシを受け取り、応接室へ戻ると、莉奈は啓介先生と折り紙をしていた。
「お母さん!」顔をあげた莉奈は、嬉しそうに笑っていた。




