旅立ち...4
はじめまして、ifと申します。
人生初めての連載投稿です。
ある思いで書き始めた話ですが、面白いと思っていただければ幸いです。
仕事しながらなので、毎週土曜日に掲載します。
よろしくお願いします。
「うぅん・・・あぁぁ、んんっ」
微睡みの底から、意識が覚醒してくる。
薄っすらと目を開け、辺りを見回してみる。
窓からは朝日が徐々に差し込みつつあり、丁度夜が明ける時間に目が覚めたようだ。
ちょっと、寝過ごしてしまった。
「もう少し早く起きて、準備するつもりだったけど・・・昨晩の事で思ったよりも、疲れてしまってたようだな」
「・・・さて、ぼーっとしてても仕方ないから、急いで準備して出発することにしよう」
身支度といっても服はそのままで寝たので、買った物を身に付けていくだけだ。
長い外套を羽織り後ろに流しておき(日中暑そうだし)、つば広の帽子を被り、手には杖を持ち、靴も堅い靴に履き替えた。
一通り準備を終えると1階に下りて行くと、既に女将も起きて準備を始めていた。
「おや? お早いお発ちだね」
「ええ、次の隣村までは今位に発つと、日が暮れる前には着くんですよね?」
「ああ、まあその位だろうね。 朝食は、取っていかないのかい?」
「そうですね。 出発が遅れるのもなんなんで・・・じゃあ、包んで貰う事って、お願い出来ますか?」
「あいよっ、お代はまけて、銅貨5枚で良いさね。 ちょっと待ってな」
「はい、ありがとうございます。 あっ、水筒に水も入れてもらえませんか?」
「さっきのと一緒に渡すから、そこに出しといとくれな」
携帯食料もあるけど、作ってもらった物の方が、美味しいので頼んでしまった。
徐々に辺りが明るくなってきて、村落内の建物の輪郭もハッキリしてきた。
結局1泊しただけで発つので、領主と関わりになる事も無かったな。
まあ、情報収集の際に何処かで、関わりを持つことになる事もあるだろう。
「ほいっ、待たせたね」
「いえ、大丈夫ですよ」
油紙(?)かな、水を弾きそうな紙に包まれて、頼んだものと水の入った水筒を手渡された。
「また近くに来た際には、是非うちに寄っとくれよ?」
「ええ、近くに来た際には、来させていただきますので、その際はよろしくお願いします」
「ああ、ああ、道中は気を付けてね」
「はい。 色々と、ありがとうございました」
軽く挨拶を済ませ、村の入り口へ向かって行く。
欠伸を噛み殺しながら、眠そうな顔で守衛が立っていた。
来た時に居たニルは、朝番ではないので居なかった。
村から出るだけなので特に何か確認される事も無く、挨拶だけしてそのまま目の前に続く道を真っ直ぐに進む・・・
・・・・・・・・・・・・
日は昇り今は、中天に差し掛かったぐらいだ。
特に何かが起こる訳もなく、振り返れば村落はもう見えなくなった。
回りに視線を向けると、とっくに畑は消え失せ回りは、低木や茂みが疎らに生える草原、地平線まで見渡せる平原ではなく、起伏に富んだものに切り替わっていた。
「少し疲れたし、包んでもらった物を食べるか」
少し進んだ先に樹が一本生えた、回りより高い見晴らしの良い場所で、休息がてら食事をとることにする。
「ぅん~~っ! はぁ~、ちょっと疲れたな」
どっかと根元に腰を下ろし、荷物を開き食事の包みを広げる。
ガサガサッ、ゴソゴソ・・・カサカサッ
中身は固く焼いたパニスに、薄くスライスしたカーセウス・ペルナ(?)を挟んだだけの、汁気の無いものだった。
「はぁむっ、むぐもぐ。 はぁぐっ」
仄かな塩気と、噛みごたえもあって、腹もちも良さそうだ。
更にひと口噛み含みながら、水筒の水を飲んで流し込む。
「はぐっ、ごっくごっく。 っはぁ~~」
「ああっ、いい天気だな~~」
空を眺めると青く澄んだ中に、雲がゆっくりと流れていた。
「こういう所は、地球もこっちも、変わらないんだな~」
木陰に居ても日差しによる暑さはあるが、気持ちいい風が吹き抜けてくれ、草がなびく様はその暑さを一時でも紛らせてくれた。
ぼーっと遠くを見ても、特に何かがいる様子も見えなかった。
「・・・・・・」
暫くの間黄昏てたが、荷物をまとめ歩きだす。
◆◇
休息した時に日は中天ぐらいだったのが、歩き続けて今は大分傾いてきていた。
その頃には遠くに田畑らしき景色が、薄ぼんやりと見えてき始めていた。
どうやら順調に進んでいるようで、日暮れ前ギリギリには次の集落にはたどり着けそうだ。
更に歩みを進め、田畑の様子がハッキリと見え始めた時に、畑からそう離れていない、道からは少し外れた所で、茂みがガサガサと音が聞こえそうなくらい揺れ動いていた。
明らかに不自然な動きだったので、一旦歩みを止めて何なのか確認することにした。
距離はまだ離れてるので、今いる位置からではよく分からない・・・一応警戒しながら、少しずつ近づいて行った。
田畑が近いので連れてきた子どもが、冒険ごっこでもして遊んでいるのだろうか?
などと思っていると・・・緑色の肌の子ども、なんているのか?
などと考えながら、更に近づいて行くと・・・その姿が、ハッキリと視認できた。
ああっ! ・・・ゴブリンだ。
はいっ! 転生後にテンプレ、いただきました~。
転生前、子どもの頃に遊んだRPGよろしく、自分の種族同様に雑魚扱い、メジャーな魔物とこんな所で遭遇です。
って、姿形が、まんまですやん!
と、何でか似非関西ツッコミを心の中でしつつも、此方に気付いていない様子なので更に近づいてみた。
数は3とそこそこで、背丈は自分より若干低いくらいかな?
身なりはバラバラで、全員(?)腰に毛皮や布を巻いただけに、其々が手に得物を持っていた。
う~ん。 どれも同じに見えるんだけど・・・
ゴブリン : 折れて錆びた長剣と、壊れかけの小盾を持つ奴
ゴブリン : 錆びたナイフを持つ奴
ゴブリン : 棍棒を持つ奴
って、これも、まんまですやん!!
どうしよう・・・気付かれてないし、別に急いでもいないし、どっか行くのを待つか?
なんて考えていると、ばっちり目が合いました。
お約束ですね! はい、見つかりましたっ!
「ギィギィ、ギャギャギャッ」
「ギャッニゲ、ウマウギィ」
「ギャギャギャッ、ハヤギィクウ」
何かを煩く喋りながら、此方に近づいてくるゴブリン達・・・襲って食べられること、決定みたいだね。
・・・手持ちは杖と、ナイフしかないんだよなぁ。
どうしよう・・・・・・そう思った時、声が響き装身具が淡く光る。
『我らが主よ。 我に求めよ・我に命じろ・我はそれに応えん・我はそれに答えん』
昨晩も聞いた重なった声々が聴こえ、その中でも『色欲』が主張してきた。
『色欲』を意識すると、嗜虐的な笑みを浮かべ迫りつつあったゴブリン達の、表情(?)と言っていいのかどうか、先程とは打って変わって恐怖した顔をしていた。
何をしたのか『色欲』に、意識を向け問いかけてみる。
『色欲、今なにをしたんだ?』
『彼奴等の心の内の、恐怖心を呼び出した』
『彼奴等が恐れるものに、主が見えている事だろう』
恐れるものって・・・
『さあ主よ。 彼奴等は無防備ぞ? 手を伸ばし意識を、その指先に集中するのだ』
『指先を・・・こう、かな?』
手を真っ直ぐ伸ばし、ゴブリン達の眉間に向けて、指先が伸びるイメージをしてみた。
すると、森の中での出来事と同じように、鋭く伸びた3本の指先が狙いを外さず、曲線・直線の軌道を描きつつ、正確にゴブリンの眉間を貫いていた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・なんじゃこりゃ!」
「武器有りに、武器無しで止め刺しちゃうって・・・」
やっぱり権能って”ヤバイヤツ”やん・・・・・・似非関西弁になりつつもこの力は、人前では決して使ってはいけないなとそう思うのだった。
意識を戻すとまだ指は眉間に刺さったままなので、再度意識し直すと伸びた指は元通りの長さ形に戻った。
それと同時に・・・
ドサドサッ・・・・・・
当然ゴブリン達はその場で倒れ伏し、少量だが地面に血が流れ出していった。
これ・・・どうしよう?
小説とかでは冒険者は、耳を討伐部位として回収してた・・・よな?
これ・・・切るのか?
それこそ、この死体もどうしたものか・・・放置、したら駄目だよな~。
『我に求めよ・我に命じろ』
また声が響き、装身具が淡く光る。
『暴食か・・・』
その声を聞きつつ、意識をゴブリン達の死体に向けると・・・
『彼奴等の在る場所を意識し、その腕を軽く撫で振るうがよい』
何が起こるのか遠い目をしつつも、ゴブリン達の倒れてる辺りに向かって、軽く腕を右から左に振るってみる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・なんじゃこりゃ!(2回目)」
「地面ごと、消えて無くなっちゃうって・・・」
ゴブリン3体が倒れた地面ごと、齧りとられたかの様に削り取られ、一瞬にして何も残っていなかった。
やっぱり権能って”ヤバイヤツ”やん(2回目)・・・・・・
「あはっ、あはははっ、ははっ、はははぁ・・・」
まっ、まあこれで、現場には何も残っていないので、完全犯罪・・・って違う違う。
乾いた笑いを溢しつつも、権能の使い方は今後、ちゃんと考えようと心に決めるのだった。
さて、とんでも能力が発現したけど、これってこの先も続けていると、何も手元に残らんのと違うだろうか?
なんて考えていると・・・はい、来ますよね~。
『強欲』
声が響くと足元にはご丁寧に耳が片方だけと、緑色に光る宝石(?)が3個揃って落ちていた。
「・・・なんじゃこりゃ!(3回目)」
『我は、欲するものを得る力を与えん』
あっ、はい。 すみません・・・そうでした。
今後、旅を続けていく中でこういった遭遇は当然するし、都度戦ったりする事もあるんだろうなぁ~っと、で旅の路銀になるような物は残って欲しいな~って、ちょっと、ほんのちょ~っと思いましたよ。
「はぁ~、ちょっとづつ使って、慣れていくしかないんだよな」
「出来る幅も、融通も分ってないし、旅の中で色々試していくしかないか・・・」
まあ、ゴブリンに関しては自分たちにとっても危険な魔物ではあったし、誰にも迷惑は掛けていないのでこのまま何も無かった事にして先を急ごうと、落ちていた(?)ものを拾い集めて弁当の包み紙に入れつつ、若干現実逃避しながら夕暮れ時の日が落ちきる前に、次の村にたどり着くため歩いて行くのだった。
To be continued...