青き狼、胎動...3
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<毎週土曜日掲載>
さて、明かりになる物は無いが、外から差し込む明かりを頼りに、薄暗い洞窟の中へ入っていく。
昨晩は盗賊達が火を焚いていたので、暗い中でも奥まで見ることが出来たが・・・
それ程深い洞窟ではないので少し歩くと、直ぐに広い空間の手前まで来られた。
そのまま奥の空間に入ろうとすると、足元に俺の衣服と装備一式が脱ぎ捨てられていた。 と言うよりか、無造作にその場に落ちていた。
誰かに奪われた訳ではなかった事に、ほっとしつつも手早く回収し入り口まで戻る。
「あれ? 早かったね」
「ああ、奥の空間の手前に、脱ぎ捨てていた。 何故かは分からないが・・・」
「そ、そうね。 でも、良かったじゃない。 盗られたんじゃなくて」
「ま、まあ、そうだな」
明るいところで回収した物を広げ、ほんとうに無くなった物が無いか確認するが、特に無くなった物は無いようだ。 確認を終えると、衣服と装備を身に付けていく。
「ふぅ~、よしっ!」
「おおっ、こうして見ると、冒険者みたいね?」
「? なにを言ってる。 俺は、冒険者だぞ?」
「え? ・・・えええっ!? ぼっ、ぼっ、冒険者ぁ~~~っ!!」
「そうだ。 何故、驚く?」
「だ、だって、冒険者って、あの冒険者よ?」
「だから、なんだ?」
「えっ・・・だって冒険者って、魔物を討伐するじゃない?」
「そうだ」
「そうだって、あなたも魔物よね?」
「そうだ・・・な」
「そうよね。 それって、おかしくない?」
「いや、おかしくないか如何かと聞かれたら、そりゃあ、おかしい、か?」
「でしょ? だったら、何で・・・」
「それは・・・って、なんで会ったばかりの奴に、説明しなくちゃ・・・」
「あっ! うん・・・ごめん。 そう、だよね」
「はぁ~、もういいか? 改めて、中を確認してくるから、此処で騒がずに、静かに待ってろよ?」
「うん・・・」
ヴィは入り口の傍から、心配そうに此方を見ている。
俺は改めて洞窟に入る前に、先ほどの毛布を適当に裂き、近くに転がっていた棒の先に巻き付ける。
一から火を熾してる時間は無いので、今回は魔術で火を点けることにする。 ヘマはしませんよ! ええ!
火の循環を感じ取り、起こしたい事を想像していく。
マッチ棒のように棒の先へ、火を灯す想像を流す。
すると、棒に巻きつけた毛布が燃え、明かりを灯し出してくれた。
「えっ! 魔術?!」
何かヴィが言った気がしたが、気のせいかな? まあ、今はどうでもいいし。
よぉ~っし! 今回(?)は成功だ。 よかったぁ~~~。 洞窟全部燃えたら、どうしようかと思ったよ。
明かりを手に、奥の空間を目指す。 手前までは空気の澱みは感じられなかったが・・・何だ? この生臭さと、汚物の様な匂いは。
奥の空間に入った瞬間から、吐き気を覚えるような異臭が、辺り一面に濃密に満たされていた。
手元の明かりだけでは一部しか見えないが、足元には水溜り(?)と何かの塊り、それに白い破片が所狭し
と、散らばっているようだった。
屈んで確認してみると・・・っ!!
急ぎその場を離れ、入り口を目指す! 転げるように外に飛び出し、胸一杯に空気を吸い込む。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」
「ちょっ、どうしたのよ?! そんな、慌てて・・・」
ヴィが近くに駆け寄ってきて・・・
「おい! おまっ、ヴィ!」
「な、何よ」
「昨日、何があった! あの空間で、いったい何があった! 言えっ! 教えるんだっ!!」
「ちょっ、いた、痛いって」
ヴィの両腕を掴み、押し倒す形で迫った。
「な、中で、何があったのよ? 昨日の、事なんて、知らないわよ。 気を失ってて、気付いたら、あそこに居て・・・」
「・・・っすまない。 どんな事でもいい、何か覚えてることは無いか? どんな事でも」
「え、あっ、うん・・・ほんとに、何も知らないのよ。 気がついて、あなたを見つけて、それから外に出て・・・それぐらいよ」
「そう、か・・・・・・」
「ねえ、何があったのよ? 少しくらい、教えてよ」
「・・・いや、知らない方がいい」
「ちょっ、何で・・・」
「知らない方がいいっ!!」
「っ! な、なによぉ~。 別に、怒んなくても・・・いぃ~~だっ!」
あれは、何だ?! アレは、水溜りじゃなく血溜り。 アレは、引き千切れ潰れた肉の塊り。 アレは、折れ砕かれた骨。 あの場所でいったい、昨日何があったんだ? アレは、昨日の盗賊のなのか?
ま、まさか・・・俺は気を失っていた。 そしてあの惨状、あの森の時のように、権能が暴走したのか? いや、まさか・・・な。 この装身具を身に付けて以降、意思に反して動いてはいないし・・・うん? 装身具周辺に痣がある? 何だコレ?
いや、今はいくら考えても、答えは出てこない。 それよりも一刻も早く、この場から立ち去ろう。
ここの調査も・・・止めよう。 中にお宝が在るかも知れないが、他人から奪ったものを手に入れても・・・それに、あの空間に行きたくは無い。
「・・・ヴィ」
「ん? なに?」
「此処を離れて、街へ行こう。 今直ぐに」
「えっ、うん。 それは、いいけど・・・」
「よしっ! ほら、行くぞ」
「あっ、先に行かないでよ! ちょっ、待って、待ってよぉ~~~。 待ってってばぁ~~・・・」
『くくくくくっ、あぁ~~あっ。 お楽しみは、また今度かぁ~。 あ~~はっはっはっ・・・・・・』
◆◇
森の中を、街道へとひた歩く。
歩き慣れてないヴィとでは、その速度が速いわけも無く。 街道に出る頃には、既に夕方になっていた。
俺ひとりなら街まで走れば良いが、ヴィと一緒ではそういう訳にいかない。
街へ向かうのは明日にして、街道に出た俺達は野営場所を探すことにした。
少し北寄りに森を抜けたらしく、南に向かって少し歩き進むと、何かの残骸が先に見えてきた。
近づくとそれは、ヴィ達の荷馬車だった。
あれから人通りは無かったらしく、一晩経っているが襲われたままの姿でそこに在った。
近づくと男の死体も、そのまま打ち捨てられていた。
「っ! おとう、さん。 うっ、うぅ・・・・・・」
その男は、ヴィの父親のようだ。 ヴィは後ろで、嗚咽を漏らしている。
俺は街道の脇で剣を抜き、地面に穴を掘っていく。 この世界の埋葬がどういったものか知らないが、このまま死者を放置することは忍びなかったし、ヴィの為にもそうするのが良いと思った。
穴を掘り終わり、ヴィの父親を横たえ、上から土を被せ、簡単なお墓を作る。
持ち上げた時に思ったが、小人の体は男でも小柄だな。
近くにマトリカリアが咲いていたので、数本を摘んでその上へと供えた。 いつか此処も、花で溢れるように・・・
「俺がもっと早く・・・いや、これは失礼だな。 己の力を過信するのは良くない。 このぐらいしか出来ず、本当にすまない・・・」
「ぐすっ、そんなこと無いよ。 ジーク・・・ありがとう」
その後は荷馬車の残骸を脇へ寄せ、その場を後にして野営場所を探す。
荷物になるが残骸の一部を、薪に使うため少しだけ持っていく。
少し歩くと森の手前の所で、街道からも森からも死角の、窪地になった場所を見つけられた。
辺りもだいぶ暗くなってきたので、俺はヴィをその場に残して薪と、食糧になる物を探すことにした。
携帯食もあるが、2人で食べるには少ない。 それに、水筒の水も少ない。
獣や魔物に遭遇し易くなり危険だけど、急ぎ森へ分け入って水場を探し回るが、浅い場所にそう都合よく水場は無く、途中で見つけた木の実を抱えて野営地へ戻る。
薪は近くで集められる分だけ集め、木を薄く削って積重ねた所へ、火打石で火種を作って火を熾していく。
魔術を使わないって? 失敗したら大変だろ? 手で熾した方が安全、安全ってね。
ぱちっ、ぱきっ・・・・・・ぱちぱちっ・・・
順調に火種も大きくなって、火の勢いも安定してきた。
携帯して硬くなったパニスと、カーセウスの欠片を炙って、木の実と一緒にヴィに分ける。 水も少ないけど、お互いに分け飲む。
「あ、ありがとう。 温かい・・・」
お互い火を見つめながら、食事を口にしていく。
木が燃え爆ぜる音を聞きながら、無言の時が流れ・・・
「ねぇ、ジーク。 あのね」
「うん? なんだ、急に・・・」
「うん。 わたしね。 お父さんと2人でこの先の、北の山間の小さな集落に住んでたの」
「あ、ああ・・・」
ん? 急に身の上話か?
「でね。 偶に、村の特産品や作物を持って、サロの街に売りに来ていたの」
「そう、なのか・・・」
「そう。 村のみんなとも仲良くて、昨日もそんなみんなに見送られて・・・うっ、うぅぅ、ぅわぁぁぁ、おとうさぁ----ん。 ああぁぁぁ・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
夜の闇の中、ヴィの泣き声が響いた。
暫らくして・・・
「ぐすっ、ぐすっ・・・ごべんね。 ごべんね」
「ああ、気にするな。 泣くことで、すっきりする事もある。 親しい人を送る為にも、今は泣けるだけ泣くといい」
「うん。 うん。 うぅぅ・・・・・・」
夜も更ける頃、泣きつかれたのか、ヴィは寝息を立てていた。
焚き火に照らし出さたその横顔を見ながら、俺は薪を火にくべながら夜が明けるのを待った。
焚き火も落ち着き、白い灰と火種を僅かに残す頃、空が僅かに白みだした。 夜が明ける・・・
まだ薄暗いが、焚き火に土を掛けて、残った火種を消していく。
身支度を整え、ヴィを起こす。
「おい、ヴィ。 起きろ、朝だぞ」
「うぅ~ん・・・もう、朝なのぉ~~・・・むにゃむにゃ」
「おい、起きろ」
「もう少しだけ、もう少し・・・」
「・・・おい、いい加減にしろよ?」
早く出発した方が良いのに、この寛ぎっぷりわなんだ? 大物なのか、こいつは?
取りあえず、ゲンコツをっ!
ゴンッ!!
「いった~~いっ! 誰よ、もうっ!」
「はっ! いやぁぁあああああああっ! 寝坊したわっ!! お父さんに、怒られるぅ~~~っ!!」
・・・な、何なんだ?
「あれ? ここは~~?? あっ・・・」
ヴィと、目が合った。
「あぁ、えぇっと、そのぉ~、うん。 乙女の寝顔を見るなんて、で、でで、デリカシーが無いの!!」
目が泳いでるんだが・・・
「はぁ~、乙女と言うなら、ヨダレ拭いた方がいいぞぉ~」
「えっ!? そんなっ! って、付いてないじゃない!!」
「ぷっ! はははっ、覚えがあるから、騙されるんじゃないのか? くくくっ」
「ああっ、ひっどぉ~~いっ!」
「あはははははっ・・・・・・・・・」
くだらないやり取りをしてると、朝日が顔を出し世界を照らしていく。
そんな光を背に受けて、ヴィに追われながら、街に向けて駆け出すのだった。
To be continued...
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