20
扉の向こうから、冷たい風が吹き込んできた。
まるで私を招き入れるかのように。
けれど、足が動かない。
目の前に立つ「私」が、じっとこちらを見つめていた。
「怖い?」
その問いに、私はゆっくり首を振った。
「……違う。」
「じゃあ、何に迷っているの?」
何に——?
分からない。
でも、確かに胸の奥に引っかかる何かがある。
「“選択”って、どういう意味?」
私の問いに、彼は微笑む。
「君がここまで来た理由は、分かっているはずだよ。」
「私は……」
言葉が詰まる。
脳裏に、これまでの出来事がよぎる。
気がつけば見知らぬ世界にいて、“もう一人の自分”と向き合い——
そして今、この扉の前に立っている。
「君が、“本当の自分”になれるかどうか。」
「本当の……?」
「そう。」
彼は静かに手を伸ばした。
「この扉を開けば、君は”真実”を知ることができる。」
「でも、その代わり——」
「君は”今の自分”ではいられなくなるかもしれない。」
「……どういうこと?」
「君が”何者”なのか、本当に知りたい?」
私は息をのんだ。
知りたい。
けれど——
「選ぶのは君だよ。」
彼の瞳が、まっすぐこちらを見据えている。
まるで私自身が、私に問いかけているように。
私は、唇をかすかに噛んだ。
この扉の向こうに、“私”の答えがあるのなら——
私は——
——扉に、手をかけた。