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「選ぶって……何を?」


声が震えているのが自分でも分かった。


目の前の“私”は、まるでそれが当たり前のことのように静かに微笑んでいる。


「君は、忘れているんだよ。」


「何を?」


「“ここ”に来た理由を。」


——理由?


私は自分の手を見下ろした。


寒さに震えている。けれど、それだけじゃない。


何かが欠けているような感覚が、胸の奥に引っかかっていた。


「私……ここに、来たかったの?」


「ううん。連れてこられたんだよ。でも、それを決めたのは君自身。」


意味が分からない。


だけど、鏡の中の自分が苦しんでいる姿を見ていると、何かを思い出しそうで——


「この場所はね、君の心の奥底にある世界。君がこれまで見てきたもの、感じてきたこと、そして、決して思い出したくないことが眠っている。」


“私”の言葉に、心臓が大きく跳ねた。


「……私は、何を忘れているの?」


問いかけると、鏡の中の映像がまた変わった。


今度は、暖かな光に包まれた場所——


どこかの家のリビングのようだった。


そこには、小さな私と、優しそうな人の姿があった。


「……この人……」


懐かしい気がする。


けれど、なぜか顔がはっきりと思い出せない。


「君が大切にしていた人。でも、君はそれを閉じ込めた。」


「閉じ込めた……?」


「忘れた、というより、忘れようとしたんだよ。」


その言葉が、私の胸に鋭く突き刺さる。


「……なんで……?」


「それを知るために、君はここに来たんだよ。」


鏡の中の光景が揺らぐ。


私は無意識に鏡へと手を伸ばした。


すると——


ザァァァァッ——!


突然、鏡の中から黒い手が伸びてきた。


「っ!」


反射的に後ずさる。


だが、その手は私の手首をがっちりと掴んだ。


「やっと……見つけた。」


低く、聞き覚えのない声が響く。


鏡の奥——闇の中から、何かがこちらを覗いていた。


「君は、まだ、思い出していない……!」


——次の瞬間、視界が真っ黒に染まった。

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