14
「選ぶって……何を?」
声が震えているのが自分でも分かった。
目の前の“私”は、まるでそれが当たり前のことのように静かに微笑んでいる。
「君は、忘れているんだよ。」
「何を?」
「“ここ”に来た理由を。」
——理由?
私は自分の手を見下ろした。
寒さに震えている。けれど、それだけじゃない。
何かが欠けているような感覚が、胸の奥に引っかかっていた。
「私……ここに、来たかったの?」
「ううん。連れてこられたんだよ。でも、それを決めたのは君自身。」
意味が分からない。
だけど、鏡の中の自分が苦しんでいる姿を見ていると、何かを思い出しそうで——
「この場所はね、君の心の奥底にある世界。君がこれまで見てきたもの、感じてきたこと、そして、決して思い出したくないことが眠っている。」
“私”の言葉に、心臓が大きく跳ねた。
「……私は、何を忘れているの?」
問いかけると、鏡の中の映像がまた変わった。
今度は、暖かな光に包まれた場所——
どこかの家のリビングのようだった。
そこには、小さな私と、優しそうな人の姿があった。
「……この人……」
懐かしい気がする。
けれど、なぜか顔がはっきりと思い出せない。
「君が大切にしていた人。でも、君はそれを閉じ込めた。」
「閉じ込めた……?」
「忘れた、というより、忘れようとしたんだよ。」
その言葉が、私の胸に鋭く突き刺さる。
「……なんで……?」
「それを知るために、君はここに来たんだよ。」
鏡の中の光景が揺らぐ。
私は無意識に鏡へと手を伸ばした。
すると——
ザァァァァッ——!
突然、鏡の中から黒い手が伸びてきた。
「っ!」
反射的に後ずさる。
だが、その手は私の手首をがっちりと掴んだ。
「やっと……見つけた。」
低く、聞き覚えのない声が響く。
鏡の奥——闇の中から、何かがこちらを覗いていた。
「君は、まだ、思い出していない……!」
——次の瞬間、視界が真っ黒に染まった。