12
目の前の景色がぐにゃりと歪む。
次の瞬間、私は強い風に包まれていた。足元の感覚が消え、まるで空中に投げ出されたような感覚が襲う。
「——っ!」
思わず叫びそうになったが、すぐに腕を引かれた。
「大丈夫、落ちたりしないよ。」
“私”が手を握ったまま、冷静にそう告げる。
気がつくと、私たちは黒い霧の中を進んでいた。足元に地面の感覚はない。それなのに、落ちることもなく、ただ前へと進んでいく。不思議と恐怖はなかった。ただ、身体が宙に浮いている違和感だけが、現実感を薄れさせていく。
「もうすぐ着くよ。」
“私”が前方を指さした。
霧の向こうに、巨大な城の輪郭が浮かび上がる。
まるで古の神殿のように荘厳な姿をしたその建物は、黒い石で作られていた。塔がいくつもそびえ立ち、窓はどれも暗闇に包まれている。
しかし、城の中央——巨大な扉の部分だけが、不気味な赤い光を放っていた。
「……何なの、ここ?」
「“境界の城”だよ。」
“私”は静かに答えた。
「ここは、世界の狭間。君がいるべき場所じゃない。でも、君が知るべきことがある。」
「知るべきこと……?」
「そう。」
“私”は足を止め、私の手をゆっくりと離した。そして、扉の方へと向かっていく。
私は、その背中を見つめながら、不安を拭いきれずにいた。
——この城の中に、何があるんだろう?
そこに待っている気がしてならなかった。私の運命を決めるような何かが。