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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
自由時間:日常の風景
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ドッグショー

そんなこんなで、ドッグショー当日。リズはいつも以上に早い時間に店に行く。それでも、服装はそれなりに動きやすい格好。会場には一般の人でも、犬を連れていることもあるし。


「あれ?オーナーが外にいるなんて珍しい」


さすがに、自分から言い出したからなのか、遙が店の前にいた。いつもなら、絶対に遙は起きてないだろうという時間なのに。


「おはようございます、オーナー」

「ああ、おはよう」


いつもはそれなりに人通りがあるが、朝が早いせいか、ほとんど誰もいないのでとても静か。リズが来たのを確認すると、遙は歩き出す。


「じゃあ、行くか」

「あ、はい」


遙がさっさと行ってしまうので、リズもそのあとをついていった。あ、ちゃんと行き方は調べておいたので、問題はないと思う。


「オーナー、やっぱり歩くの早くないですか?」

「そうか?気のせいだと思うが」


ちなみに、ドッグショーというのは『犬の品評会』である。犬種によって、理想とする姿というか形(これをスタンダード(犬種標準)というのだが)があり、それがより理想とする形に近い犬を見せ合って評価しようというもの。かなりざっくり説明すると、こういうこと。それで、その年のドッグショーで一番優良とされる犬の子供ともなれば、ペットショップで売られる仔犬の値段は格段にはねあがる訳だが。


余談ではあるがドッグショーに出す犬の中には、ハンドリングの訓練などをするのに、飼い主が一ヶ月は会えなかったりするらしい。リズ達には、ほとんど関係ないが。


そして今回、リズ達の目的はそれを見に行く訳ではないので、いいとして。ぶっちゃけた話、それを見て何が面白いのかと言われると、関係者じゃない人間にとっては、全くもってつまらないのである。ブリーダーとか真剣にやっている人達には悪いけど。敢えて言うなら、珍しい犬が見られることがあるって事だろうか?


「今回の俺達が見に行く目的は、あくまでも『その他』の方だからな」

「あー、そうですよね」


今回は『ハサミ』に用がある訳で。ドッグショーはどこか大きな会場を借りている場合が多い。なので出展ブースでペット用品を売っていたりする。それこそ業者とか、手作りの服を出してる人とか、まあ色々。


「ハサミも卸の人が出してることがあるし、これなら他のところと比べたり出来るだろ」

「なるほどー、そういう事なんですね」


遙の言葉にリズは納得する。出してるところによっては、ハサミも試し切りが出来る(させてもらえる)こともあるらしい。



  ○o。. ○o。.



バスで揺られること、しばらく。その間、遙は寝ていた。それも、隣にいるリズに寄りかかって。普通は逆じゃないか?リズ自身も眠いのだが、乗り過ごしたら大変なのと、遙が寄りかかって寝てるので、気が気でない。


「全く、なんでこの人はこんな状態でも、平気で寝ていられるのよ」


そんなリズの心中は、遙には全く伝わっていないようで。小さな寝息を立てて、遙は目的地までぐっすりと寝ていた。リズ達の降りるバス停がアナウンスされたので、リズは停車ボタンを押し、遙を起こす。


「起きてください、もうすぐ着きますよ」


結構、激しく揺すってみるも、なかなか起きない。こうなったら奥の手、ではないがリズは遙が確実に起きそうなことを耳元で言ってみる。


「先輩、実習の授業始まりますよー、起きてくださーい」

「・・・ん」

「起きてください、置いていきますよー?」


リズに寄りかかったままだったが、遙が目を覚ます。少しの間、ボーッとしていたが、今の自分の状況が飲み込めたらしい。慌ててリズから離れた。


「あ、えっと・・・悪い、リズ」

「もうすぐ着きますよ」

「そうか」


リズの言葉通り、すぐに目的地に近いバス停に着いたので、二人はバスを降りた。


「おおぅ、なんか久しぶりにテディベア以外のトイプードルを見た気がします」


ちょうど、リズ達が行った時にトイプードルのグループがやっていたので、チラッとだけ。どうでもいい話だが、よくトイプードルの中でも小さいモノを『ティーカッププードル』と言ってる人がいるが、スタンダードにそんなサイズは存在しない。


「リズ、こっち」

「え?あ、はい」


遙に連れられ、色々とハサミを見ていく。手にとってみたりしているけど、それがさらにリズを悩ませることに。


「うぅー、どうしようかなー」

「どうした?気にいったモノでもあったのか」

「え、あ、まあ」

「少し待ってろ」


色々と見たからか、リズはハサミを買おうか迷っているようです。それを見かねた遙は何か相談している。


「じゃあ・・・で・・・」


端から見ると相談じゃなくて交渉のような。それが落ち着くと、遙はリズのところに戻ってくる。


「リズ、一つ提案」

「何でしょうか?」

「とりあえず買うならだが、今、俺が立て替えておいて給料から少しずつ引いていくのは?」

「え、そんな事いいんですか?」

「リズがそれでもいいって言うならな」


何だかんだで、とりあえず。リズはハサミを購入しました。仕上げだけでもよかったのに、スキバサミとボブシザーを含めた三本。


「あ、えと、ありがとうございます」

「その分、働いてもらうけどな」

「それは・・・もちろんですよ」


色々あったが、リズは満足そうだった。



  ○o。. ○o。.



帰りもやはり二人はバスに揺られて。さすがにリズも疲れたらしい。ハサミの入ったケースを抱えて寝ていた。


「・・・ん?」


バスの振動で、偶然にもリズが遙に寄りかかる形になってしまう。遙は特に気にしてない様子。朝の自分は、ずっとこんな状態だったのかと思い出し、少し恥ずかしくなる。それだけならいいが、時々、揺れた時にバスの窓に頭を打ち付けているのに起きないのはどうなのか。


「・・・痛くないのか?」


遙は少しだけリズが心配になった。



  ○o。. ○o。.



いつもの町に、リズと遙は戻ってきた。日は傾きかかっている。バスを降りて、リズは大きく伸びをする。


「んーっ、やっと着きましたねー」

「そうだな」


そして現在、二人は遙の店の向かいの喫茶店にいる。相変わらず、マスターの(ゆたか)は穏やかに笑っている。


「ふーん、それで遙はなんか嬉しそうなんだね」

「優、勝手なことを言わないでくれるか?」

「え、事実じゃないのかい?」


優の言葉で遙は頭が痛くなる。全く、何を言っているのかと。


「あたしから見ても、いつも通りに見えるんですけどね?」

「結構、遙はそういうのを隠すタイプだからねぇ」

「おい、やめろ」

「つまり、オーナーは照れ屋さんなんですね」

「それはそれでちょっと違うぞ」


遙は益々、頭が痛くなる。リズにしろ優にしろ、その言葉に悪意がないから余計に質が悪い。それにリズは他人の言葉を斜め上で受けとることがあるから、よく収拾がつかなくなっている。


「あんまり、あることないことをリズに吹き込むなよ、優」

「えー?そんなつもりで僕は言ってないんだけどな」

「ならもう少し考えて、喋ってくれないか」

「それ、僕にはちょっと難しいかな」


遙の言葉は笑顔で優に拒否される。なんと言うか、この二人は一緒にしてはいけないような気がする。


「ごちそうさま」

「遙、もう帰るのかい?」

「ああ、家でやることがある」

「それなら、あたしもそろそろ帰ります」

「じゃあね、リズちゃんは帰り、気を付けてね」

「はーい」


二人は会計を済まして店を出る。


「それじゃあ、オーナー、また明日」

「ああ、また明日」


笑顔で歩道を走っていくリズを見送って、遙は家に帰った。

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