吹奏楽部入部
高校生活が始まり、一週間が経過した。
理純は吹奏楽部に入部し、本格的に活動開始である。
現在の三年生や二年生に比べ、理純達一年生の入部人数はかなり多かった。
二、三年生の合計人数が今年の新入部員の数だそうだ。
中学時代から吹奏楽部だった新入部員は、入学式の演奏や部活紹介の五重奏などで実力なども総合的に悪くないと判断して入部した者が多い。
対して理純達のような初心者は、部活紹介の五重奏に圧倒されたり友人に誘われて入部したりする者が多いようだ。
「理純、希望のトランペットになれて良かったね。あたしも希望通りクラリネットになれた」
「リズ、おめでとう。スゥもクラの希望通っておめでとう」
「ありがとう、鈴子、寧音」
理純はトランペットを持ち、ボールが軽く弾んだような声でニッと笑う。
希望通りの楽器になれて嬉しい理純である。
他のトランペット初心者と比べて理純は筋が良いと先輩に褒められていたのだ。
寧音は中学の時と同じトロンボーン、鈴子はクラリネットで、三人共無事に第一希望の楽器になれた。
トランペットやクラリネットなど、初心者でも人気の楽器希望者の中には、理純や鈴子のように希望が通らず他の楽器に回された初心者新入部員もかなりいたようである。
その点、理純と鈴子は運が良かったとも言える。
ちなみに、理純が今持っているトランペットは学校の楽器だ。寧音と鈴子も、楽器は購入せずに学校のものを使用している。
楽器はそれなりに値段が高いので、購入せず学校の楽器を使用する吹奏楽部員もかなり多い。
理純が吹奏楽部に入部して購入するのは、メトロノーム、音程を合わせる為のチューナー、譜面台、楽譜を入れるファイルのみである。
ふと理純はフルートパートに目を向ける。
そこには天音がいた。
(海藤くんも希望通りフルートになれたんだ。良かった)
理純はほんのり口角を上げた。
天音のあのフルートの音が聞けると思うと、少しだけ心踊るのであった。
(それにしても……フルートって結構美人な子が多いよね……)
理純は天音の側にいるフルートパートのメンバーに目を向けた。
天音の側には部活紹介の時に圧倒的、絶対王者の音を出した小柄な先輩がいて、天音に何か話している。彼女は大人びている美人だ。おまけに、彼女の側にはハッと目を引く華やかな顔立ちの女子生徒が腕組みをしていた。恐らく上級生だろう。フルートよりも一回り程小型の楽器を持っている。
(あのミディアムヘアの髪巻いてるの先輩……めちゃくちゃ美人……)
理純は思わず見惚れてしまうと同時に、天音の側にそういった人達がいることが少し嫌だなと思うのであった。
しかし、自分がどうしてそう思ってしまうのかはまだ分からなかった。
「ん? 理純、どうかした?」
「あ、いや、その……」
鈴子の声により、ハッと我に返る理純。
「フルートって結構美人な人多いなって思って。部活紹介の時の先輩とか、あの小さい楽器持ってるミディアムヘアで、髪巻いてる先輩とか」
「ああ、ピッコロの彩歌先輩ね。ウチと同じ中学の先輩だよ。あの先輩、めっちゃ美人で有名だった。まあ男嫌いな先輩だけどね」
どうやらフルートよりも一回り小さい楽器はピッコロというようだ。
「……そうなんだ」
寧音からピッコロの美人な先輩が「男嫌い」という話を聞き、ほんの少しだけホッとする理純だった。
「てかさ、フルートだけじゃなくて音宮の吹奏楽部自体可愛い人多いじゃん! ほら、ホルンのあの先輩とか!」
テンションが上がっている寧音が示した先には、ホルンを抱きしめるように持つ小柄で小動物を彷彿とさせるショートボブの女子生徒がいた。
「あの人、部活紹介の時にいたよね」
理純は部活紹介の時のことを再び思い出す。
こうして吹奏楽部の部員を見渡してみると、確かに美形揃いだった。
「吹奏楽部って、やっぱ女子が多いから美人な人も結構集まるんじゃない?」
フッとクールに微笑む鈴子である。
換気の為に開けていた音楽室の窓から風が入り、右サイドの下の方でまとめている鈴子の髪がふわりとなびいた。
(そういえば鈴子と寧音も、結構美形だよね)
理純は二人をさりげなく見てそう思った。
それと同時に、自分はこの二人と一緒にいても大丈夫なのか不安に思う理純である。
(いや、でも私、中学時代バドミントン部で結構美人って言われてる亜美理と一緒にいても、特に『釣り合ってない』とか、『何であの子が亜美理と一緒にいるの?』みたいな感じにヒソヒソ言われることはなかったし。まあ……私は美人だとか可愛いとかって持て囃されたことはあんまりないけど……寧音や鈴子と一緒にいても問題ないはず)
理純はそう自分に言い聞かせるのであった。
「よう、理純。折角第一希望のトランペットに決まったのに、ボーッとしてどうした?」
「弦太……。いや、何でもない。ただ、これから自分のペースで頑張っていこうかなって思ってたところ」
弦太がやって来たことで、理純は思考を切り替えることが出来た。
「弦太はチューバ?」
「おう。希望通りな」
弦太は勢い良くボールが跳ねたような口調で笑う。
「そっか。良かったね」
「ねえリズ、その人知り合い?」
そこへ、興味津々の様子で寧音が会話に加わって来る。
理純が男子と話しているということで、寧音の目からはワクワク感が伝わって来る。
それに対して理純は若干苦笑してしまう。
「うん。幼馴染の松永弦太。クラスは一年五組」
「ああ、この人がリズの幼馴染! どうも、ウチはリズと同じ一年二組の桃江寧音! 担当楽器はトロンボーン! 弦太だから弦ちゃんね!」
寧音は巻いた髪を左手でくるくるといじりながら、右手で持っていたトロンボーンを前に出す。
弦太は寧音のノリに若干引いていた。
「理純と同じクラスの浜須賀鈴子。あたしも中学時代はチューバやってた」
「あ、高校からはクラリネットやる感じんだな」
弦太は鈴子がクラリネットを持っていたので、なるほどと頷いていた。
「まあね。ずっとやりたかったのがクラリネットだったから」
「そっか。えっと、トロンボーンの桃江とクラリネットの浜須賀……だな。覚えた」
「弦太、人の名前覚えるの苦手なのに意外。そんなすぐに寧音と鈴子のこと覚えたんだ。小学校の頃からクラス替えある度に人の名前間違って呼んでた弦太がね」
理純は思わず悪戯っぽく笑ってしまう。
幼馴染なので、弦太には割と失礼なことも言えてしまう理純である。
「煩いな、理純。俺だって成長するんだよ」
弦太は軽く肘で理純を小突く。
「成長? 身長とか以外は小さい頃からあんまり変わってない気がするけど」
理純はお返しと言わんばかりに弦太の肩をバシッと叩いた。
「痛えな、理純」
弦太は苦笑しながらも、どこか楽しそうだった。
そしてチラリと寧音を見たと、そっと理純に耳打ちをする弦太。
「それにしても理純、何か意外だな。桃江みたいなギャルっぽいの、苦手なはずだっただろ」
「うん。まあ、最初は寧音、ギャルっぽくてちょっと怖いかもって思ったけど、話してみたら普通に楽しかったよ」
理純はクスッと笑う。
「そっか。まあ何か、良かったな」
弦太は安心したような表情だった。
もちろん、二人の会話は寧音と鈴子には聞こえていない。
「理純と松永くん、本当に幼馴染って感じだね」
「うんうん! 少女漫画でもあんな感じの関係性の幼馴染いたいた!」
鈴子と寧音は、理純と弦太のやり取りを見守りながら笑っていた。
「トランペット集合!」
その時、トランペットのパートリーダーの声が音楽室に響いた。
「あ、集合かかったから私行くね」
「うん。クラリネットもそのうち集合かかると思うから」
「じゃあウチのトロンボーンももうすぐかも。じゃあまたね、リズ」
「理純、パート内でヘマするなよ」
「しないって。弦太こそ先輩の名前間違えるとかやらかさないでよね」
理純は三人に声をかけ、トランペットパートの場所に向かうのであった。
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第二楽章開始です。
理純の高校生活が本格的に始まります。




