仲良くなれそうかも
「ウチらの席もそうだけどそっちの席も周り男子ばっかだよね」
ギャルっぽい少女がそう切り出して困ったように笑っている。
「あたし達も、一緒にお弁当食べる人が周りにいなくて困ってたところなんだ。向こうの席で一緒に食べようよ」
大人びた少女は理純に優しく微笑んでくれた。
(ギャルっぽい子……少し苦手だけど、せっかく誘ってくれたから断るのは悪いよね。それに、ギャルっぽくない子もいるし、大丈夫)
少しだけ不安な理純だが、二人と一緒に食べることにした。
「ウチ、桃江寧音。調部ヶ丘中出身」
ギャルっぽい少女、寧音が自己紹介をする。
「あたしは浜須賀鈴子。御音坂中出身」
大人びた少女は鈴子という名前だ。
「おお、綺麗な名前。じゃあスゥって呼ぶね。あ、ウチのことは桃でも寧音でも好きに呼んで」
寧音がそう身を乗り出して来た。
理純も自己紹介をする。
「えっと、私は星野理純。幸多中出身」
「理純! 可愛い名前! じゃあリズって呼ぶね」
今度は寧音が理純の方に身を乗り出して来たので、理純は戸惑いながらも頷いた。
「てかこの中じゃウチだけ家の方面逆じゃん」
寧音が残念そうに頬を膨らませる。
表情がコロコロと変わる子だなと理純は寧音に対して思った。
出身中学を聞けば、大体どの辺りに住んでいるのかが分かる。
寧音は音宮高校の最寄り駅から西に二駅の所、鈴子は東に三駅の所に住んでいる。
理純は鈴子と同じ方面で、音宮高校の最寄り駅から東に一駅の所に住んでいるのだ。
「じゃあさ、中学の時何部だった?」
寧音がそう質問すると、ますば鈴子が答える。
「吹奏楽部。高校でも吹奏楽部に入る予定。一つ上の学年にいる兄さんも音宮の吹奏楽部だし」
「え、スゥお兄さんいるの!? しかも同じ高校に!?」
寧音は大きく驚いていた。
「年子なんだね」
理純がそう言うと、鈴子から「ギリギリね」と返って来た。
どういうことだろうかと理純は質問しようとしたが、その前に鈴子から説明される。
「兄さんが四月二日生まれで、あたしはその翌々年の三月三十一日生まれ。ほとんど二歳差の年子。本当はあたし、四月の二週目くらいに生まれて今よりも一つ下の学年になる予定だったんだけどね」
「え、じゃあスゥ最近十五歳になったばっかじゃん! 若っ!」
大きなリアクションをする寧音。
そんな寧音に、鈴子は苦笑した。
「若って、一年も変わらないじゃん。二人は誕生日いつなの?」
「ウチは十一月十一日、ゾロ目で覚えやすいっしょ。誕生日プレゼント期待してまーす」
寧音は悪戯っぽく笑った後、「リズは?」と理純に誕生日を聞く。
「私は五月七日だよ」
「リズは来月なんだ」
「割とすぐだね」
理純は水筒のお茶を一口飲み、「うん」と頷いた。
(あれ? 寧音ちゃん、ギャルっぽくて苦手かなって思ってたけど、普通に話してて楽しい)
いつの間にか、寧音に対する苦手意識が消えている理純だった。
「で、何の話してたっけ? そうだ、中学部活だ」
寧音は脱線した話を戻した。
「ウチも吹奏楽部だったんだよね。リズは?」
「私はバドミントン部。寧音ちゃんも鈴子ちゃんも、二人揃って吹奏楽部だったんだね」
「寧音で良いよ」
「あたしも、鈴子って呼んで。その代わり、理純って呼ぶから」
理純がちゃん付けで二人の名前を呼ぶと、二人からそう返って来た。
「それで、理純は高校でもバドミントン続けるの?」
「うーん……バドミントン部は昨日見学したけど多分入らないと思う」
鈴子からの問いに理純はそう答えた。
「とりあえず、今日の放課後にある部活紹介を見てから考える」
弦太に聞かれた時と全く同じ答えである。
「ああ、それウチも。昨日の段階じゃまだ分かんないよね」
寧音はハハッと明るく笑った。
「でさ、スゥは中学の時何の楽器やってた?」
「チューバだけど」
弦太と同じ楽器をやっていた鈴子。
理純は少し意外だと思った。
中学時代の鈴子はあの大きな楽器を吹いて、低い音を出していたなんて、いまいち想像出来ないのだ。
「あ、理純、チューバって分かる?」
どうやら鈴子は吹奏楽未経験者の理純に気を遣ってくれたようだ。
しかし、チューバなら理純も分かる。
幼馴染の弦太の影響だ。
「うん、分かるよ。ありがと。家が隣同士の幼馴染が中学の時吹奏楽部でチューバやってたから。同じ高校で、今朝も話したんだけど、その子高校でも吹奏楽部でチューバ続けるって言ってた」
「リズの幼馴染も音宮なんだ。でさ、その幼馴染って男? 女?」
「男の子だけど」
「えー! マジ!?」
理純の答えに寧音のテンションが上がった。
「じゃあさ、リズはその幼馴染と付き合ってるとか!? 家が隣同士だから、朝起こしに行ったりとか相手が起こしに来るとかそういう少女漫画的シチュエーションとかあるわけ!?」
ボールが勢い良く弾むような、ワクワクとした声の寧音である。
鈴子はそんな寧音に若干苦笑していた。
理純も寧音のテンションにたじろいでしまう。
「えっと、朝起こすとかそういうのはないし、そもそも付き合ってないよ」
「えー、マジか。少女漫画的展開期待してた……」
理純の答えにガックリと肩を落とす寧音。
テンションが忙しそうだなと理純は思った。
気が付けば弁当は半分くらいまで減っていた。
「で、話戻すけどさ、スゥは高校でもチューバ続けるの?」
寧音からの問いに、鈴子は首を横に振った。
「高校こそはクラリネットやりたいなって思ってる」
そう答える鈴子の目は、力強かった。
「あ、理純、クラリネットって分かる? こういう楽器だけど」
鈴子はまた理純に気を遣ってくれて、自身のスマートフォンでクラリネットの画像を検索して理純に見せてくれた。
「うん。何となく見たことあるよ」
「スゥ、もしかしてその口振りは中学の時もクラ希望だったけど希望通らなかったとか?」
鈴子は頷く。
「クラ、あ、クラリネットの略なんだけどさ」
理純にそう説明してから鈴子は言葉を続ける。
「中学の時クラは希望者多くて、パート決めジャンケンで負けてチューバ行き。まあチューバも何だかんだ楽しかったけど、やっぱりクラリネットへの憧れは消えなかった」
鈴子の声からは、高校では何が何でもクラリネットを吹きたいという強い意志を感じた。
「寧音も中学は吹奏楽部って言ってたけど、楽器なんだったの?」
鈴子は寧音にそう聞いた。
すると寧音はニッと笑う。
「ウチはトロンボーン。あ、リズ、トロンボーン分かる? こういう動きする楽器」
寧音は右手を前後に動かして動きを示してくれた。
「これだよ」
鈴子がトロンボーンの画像を検索し、理純に見せてくれる。
「うん、見たことあるやつだ」
中学の吹奏楽部でも、吹いている人がいたことを思い出す理純だった。
いつの間にか三人共弁当を食べ終わって話に花を咲かせていた。
初めは不安だったが、理純は寧音と鈴子とは仲良くなれそうだと思った。
おまけに二人から吹奏楽部の話を聞いたことで、少しだけ吹奏楽部に興味を持つ理純であった。
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