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第九依頼 理想を求めて 2話

 陸は空中に投げ出されていた。


「わっわっ、わー!?」


 下へ下へと落ちて行き、床に叩き付けられる。幸い、床は柔らかい素材だったので怪我をすることはなかった……が、柔らか過ぎて逆に立ち上がれない。

 陸が立とうと試行錯誤していると、隣にキフシと男性が落ちて来た。


「いったた……」

「大丈夫か?」

「はい。何とか」

「ふむ、ここは……」


 男性がその場に座りながら辺りを見渡す。


 そこは豪華な屋敷の廊下だった。長く長く、先の見えない廊下がピンクと黒で彩られている。

 陸は立ち上がることを諦め、這いながら壁を触ってみる。すると、手は壁にズブズブと埋まっていった。慌てて手を引く。


「うわっ、何だこれ」

「大丈夫かい?驚いたね。現実だとは思えないな」

「あ、どうも。えっと……」

「俺のことはローキスと呼んでくれ」

「ローキス、さん?本名?」

「本名だよ。お前の名前は?」

「八崎陸です」

「陸か、よろしく。そこの子の名前は何かな?」

「……天除キフシです。よろしくお願いします」


 キフシはニコリと笑いながら名乗った。だが、内心は怯えと混乱でいっぱいだ。今自分が何を言ってるかも理解できていない。


(リ、リアエル様のご親友の天神様ですよね!?地上にはご興味ないとお聞きしていましたが……今日、偶然地上にいて、偶然私達と会って、そして偶然この場所に連れて来られたということ?……ありえませんね。どう考えてもローキス様が仕組んだとしか思えません。一体何の為に……)


 キフシが悶々と考えていると、頭上から女性の楽しげな声が聞こえてきた。


「皆様皆様こんにちは〜」


 見上げると、空中に1人の女性が浮いていた。ピンクの髪をしたバニー姿の女性で、キラキラと輝く瞳が特徴的だ。

 女性はマイクを手に持ち、元気よく手を振る。


「この度、八崎陸様、天除キフシ様、ローキス様のゲームを担当することになりました、ビラと申します。皆様に喜んでいただけますよう、最高のゲームをご用意しております。どうか最後までお楽しみください!……以上、挨拶を終わります。何か質問はございますか?ございませんね?では早速ゲームに……」

「ちょっ、はい!はい!」


 陸達のことを無視し、一方的に話を進め続けるビラを陸は急いで止める。ビラは一瞬面倒くさそうな顔をしたが、直ぐにパッと笑って「どうぞ、八崎陸様」と質問を促した。


「お前は何でオレ達を連れて来たんだ?」

「依頼です。それ以上のことはお話できません」

「は?依頼?意味が分かんねぇ……」

「大丈夫!ゲームをクリアすれば全て分かります!それに、早くクリアできれば他の方々にも早く会えますよ!」

「え、それって……」


 思い浮かぶのはマミ達の姿。この場所に連れて来られたのは自分達だけだと思っていたが……。

 陸の焦った表情をビラは楽しそうに眺める。


「はい。高川マミ様を含めたお三方のゲームは私の仲間が担当しております。そちらのチームかこちらのチーム、どちらかがゲームをクリアすれば、自動的にもう片方のチームもクリアという扱いになります。皆様解放されますよ」


 キフシは話を聞きながら、「成程」と呟く。


「なら、私達が頑張れば陸さんのお友達の危険も減らせるかも……ということですね」

「何故危険と決め付けるのですか〜。まあでも、その通りでございます。ですので早く始めませんか?」


 陸は『分かった』と答えようとして、慌てて口を噤んだ。こういった状況に自分は慣れているが、キフシとローキスは違うと思ったのだ。


(キフシとローキスさんは普通の人だ。オレの勝手に巻き込めない。向こうにはマミと水音がいるし、クリアしてくれることを信じてここで待ってる方が……)


 そんな陸の考えを見透かしているかのように、ローキスがビラに答える。


「ああ。俺は構わない」

「えっ!?でも、何が起きるか分からないんですよ!?ローキスさんやキフシに何かあったら……」

「大丈夫だ。むしろ、ここで待っているだけの方が退屈で仕方ないよ」

「私も行きます。陸さんは優しいから、お友達の為にも早くクリアしたいでしょう?……それに、私も早く出て陸さんと食べ歩きを続けたいですから」

「キフシ、ローキスさん……ありがとう!」

「話はまとまりましたね。では始めましょう」


 ビラはクルッと回った後に、陸達に向けて手を差し伸べた。マイクを強く握り、大袈裟な演技をする役者のように台詞を述べる。


『さあさあ!皆様方!本日ご覧頂きますは、楽しい嬉しい兎のショー!種も仕掛けもございますので──』


 ビラがマイクを陸達に向け、ウインクをする。


『是非、見破ってくださいね⭐︎』


 それだけ言うとビラは姿を消す。同時に、床が変化し始めた。先程まで柔らかかった床が段々と硬くなっていく。

 どこからかビラの声が聞こえてきた。


『床の素材を変えました!皆様立ってください』


 言われた通り陸達は立ち上がる。すると、背後から機械的な音が聞こえてきた。ゴトン、ゴトンと、コンベアが動くような音だ。その音は段々と近付いてくる。


『ゲームのステージは全部で4つ。段々と難易度が上がっていくので頑張ってくださいね。……では続いて、このステージの説明を。この第一ステージの名前は“鬼から逃げろ!ドキドキランニングマシーン!”です!ルールは簡単、走るだけ。背後から迫って来る鬼に食べられないよう、走って逃げて、廊下の端まで行ければクリアです!』


 話を聞いている間にも機械音は大きくなっていく。陸が振り返ると、鬼の顔を模した大きな石像が迫ってきていた。

 高さは陸達の何倍もあり、横幅は廊下の壁に当たりそうな程大きい。また、鬼の口は大きく開かれており、誰かを呑み込むのを今か今かと待っているかのようだ。


 鬼の石像は、陸達から少し離れた位置でピタリと止まる。

 再度、ビラの声が聞こえてきた。


『おっと、言い忘れておりましたが、この結界は開かれたもの……つまり、現実空間にある結界です。そのことを念頭に置いて行動してくださいね!では、私はこれで』


 ガチャッという音を最後に静かになる。


(現実空間にある結界……スイバがやってたやつか。まあ、普通の結界だったとしてもオレは支配権の奪い方なんて知らないしな。それよりも、依頼した奴が誰か分からねぇのが問題だ。星檻は使わないようにしねぇと)

(成程……私や地神の眷属達に結界を奪われないようにしているのですね。ローキス様がここまで本気だとは……本当に何が狙いなのでしょう)


 真面目な顔で黙り込む陸達を、ローキスはニコニコと楽しそうに見ていた。まるで、子供が自由研究をやっている時のような、興味と期待に満ちた顔だ。


 それから数秒して、またあの機械音が鳴り始めた。ゴトンゴトンという音とともに石像が近付いて来る……だけではない。


「あ、あれ?床が動いていませんか?」

「本当だ。……そ、そういえば、このステージの名前って……」

「ドキドキ“ランニングマシーン”と呼んでいたな」

「それって、つまり……」


 次の瞬間、床が一気に動き始めた。鬼の口内へ食べ物を運ぶかのように後方へと動き続ける。しかし、石像は床の動く向きに反して前へ……陸達の方へ進む。

 このまま立ち止まってていれば鬼の口内に入ってしまう。そうすれば何が起きるのか……まず間違いなくいい結果にはならないだろう。


 陸は叫びながら走り出す。


「は……走れー!!」


         ♢♢♢


「成程ね。つまり、アタシ達は転移の魔法で知らない場所に連れて来られている。そして、ここは現実にある結界。支配権を奪うこともできない、と」


 陸達が死ぬ気で走っている間、マミ達は別の場所で話を聞いていた。

 青と黒でまとめられたシックな部屋。その中央にはソファがあり、そこに桔梗を中心に横並びに座っている。


「はい。その通りにございます」


 そう答えるのは、カジノディーラーのような服装をした男性。ピシッと背筋を伸ばしてマミ達の前に立っている。


「ゲームの説明も先程お話したもので全てになります。何かご質問はございますか?」

「い、いや、もういいわ。十分よ」

「説明が長過ぎて疲れました……」

「もうゲームを始めようよ〜。4つのステージをクリアするだけでしょ〜。このままじゃ時間がもったいないよ」

「おや、それは申し訳ございませんでした。ですが、皆様に楽しんでいただく為には『やったら分かる』などと適当なことは言えませんから。……それでは始めましょう」


 男性は軽く頭を下げた。そして、台本を読み上げるかのように淡々と、感情のこもっていない声でマミ達に語りかける。


『さあさあ皆様方。本日ご覧頂きますは、苦しい悲しい亀のショー。種も仕掛けもございませんので──』


 顔を上げ、パンッと手を叩く。すると、男性の背後に扉が現れた。男性はドアノブを引き、扉を開ける。扉の向こうは青一色で何があるか分からない。


『是非、お楽しみください』

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