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ボクもアステルも、このまま北西に進もうが南下しようが、どっちみち初めて通る道になる。

正直に言って、どっちの経路を進んでも、気持ち的には大差ない。


父さんと母さんがいるだけで心強いのだから。

二人と別れて行動することになれば、そうならない道を模索するけれど、今は皆でどっちの道を選ぶのかの話し合いだ。


ならボクの答えは「どっちでもいい」となる。


丸投げしているのではなく、どっちの道になっても、ボクは異を唱えず、ついて行くだけ。

父さんと母さんが考えて、決定したことだもの。


すべきことをして、余計なことはなるべくせず、足を引っ張るようなこともしないように心掛ける。

それだけだ。



そう思って沈黙を選んだのだけど、まさかの父さんと母さんが、ケンカをし出してしまった。


二人がケンカをする所なんて、初めて見たかもしれない。

だって、よそのお家では口論に発展しそうなことがあったら、我が家では父さんが即座に謝って、母さんが許して終わるのだもの。


父さんは常に母さんの意見を優先する。

それが当たり前だと思っていた。


なのに今は、母さんの意見をしっかり聞いた上で、反論をしている。

もしかして明日、槍でも降ってくるんじゃなかろうか。



夫婦喧嘩と西風は夜に入って治まるなんて言うし、今から夜になる。

放っておけばなんとかなるかな。


……なりそうにないのだけど。

ことわざや慣用句って、たまに嘘つきだよね。



旅の日程を大幅に短く出来る上、敬愛する大賢者様が推薦する道のりならば、向かう価値があると主張する父さん。

どんな危険が待ち受けているのかも分からない、不確かで予測すら出来ない道は危険すぎると、それを否定する母さん。


話しが完全に平行線を辿っている。


二人の主張はどっちもよく分かる。


ただ、父さんは遺跡を使った時の利益の話をしていて、母さんは危険性の話をしている。

お互いが主軸にしている部分がズレているのだから、そりゃ着地点が見つからないのも仕方ない。


それなのに二人とも、ボクとアステルの身を案じているんだもの。

どちらの方が、よりボクたちに負担が少なくて済むか、ケガをさせずに済むか、という話をしているのだ。


それが原因でケンカをしているのだから、ここはボクたちも意見を出すべきだよね。

そうじゃないと、収拾がつかない。



父さんだって、予定通りの道の安全性は理解している。

母さんだって、時短がいかに有益なのか分かっている。


対立しているから決め切らないのだから、別の意見が出れば、視点を変えて決断をしやすくもなるだろう。


とは言え、ボクの意見は確実に偏っている。


「因みに、アステルはどっちがいいと思う?」


こっそり聞いたら、意外と好奇心旺盛なお姫様は「もちろん‘’忘れ去られし時代の遺跡‘’ルートです」と目を輝かせて言った。


予想通りの回答に、思わず笑ってしまうけれど、ボクもそうなんだよね。

遺跡がどんなものなのか、だいぶ気になっている。


おとぎ話の中に出てくるものが実在していて、それを実際に見られる機会なんて、そうそう巡ってくるものじゃない。


なにせ、大賢者様から許可が得られないと立ち入り禁止なんでしょ。

そうじゃないと利用出来ないんでしょ。

しかも道案内は精霊様にして貰わなきゃならないんだよ。

この機会を逃したら、一生無理じゃない。


危険は承知でも、率先して犯したくなる。

母さんが心配してくれるのは、とっても嬉しいし、ありがたいけどね。



行きと帰りで好きな道を選べるなら、行きは安全を取って予定通り北西に進み、用事を済ませて心に余裕が出来て、なんの気兼ねもなく楽しめる状態になった帰り道で、遺跡を使うのが一番望ましい。


時間に追われて急いでいたら、せっかくの探検が楽しめないじゃない。

遺跡探掘なんて、男の浪漫だもの。

心ゆくまで堪能したい。


……目的が変わってしまってる。



結局心配顔の母さんを、なんとか三人で説き伏せて、‘’忘れ去られし時代の遺跡‘’へと向かうことに決定した。



母さんは――父さんもだが、魔物との戦いの最前線から退いて、もう十年以上経っている。

そのために、当時よりも確実に弱くなっている。


肉体の衰えは日々の鍛錬でなるべく最小限に抑えてはあったものの、そういう戦いの渦中にいることで鍛えられる、感知能力や勘の類は、取り戻すまでにどうしても時間がかかる。


当時『勇者』『賢者』『剣聖』『聖女』の四人で乗り越えた苦難の道ですら、前情報があるという強みがあっても、正直この四人ではかなり苦戦すると思っている。

だから、全くの未知となる旅路を進むのは、どうしても反対したい。


最後まで母さんはそう言って経路変更を拒否したけれど、その意見を聞いたら、なおさら遺跡を使う道を進むことに賛成したい。

そう言ってなんとか納得をして貰った。

納得……と言うよりは、聞き入れてもらった、が正しいかな。

不承不承って感じだったし。



この辺の魔物なら、ボクとアステルの二人でも、余程の数の魔物が一気に襲ってこない限り、対処が可能だ。


‘’ギンヌンガの裂け目‘’を中心として張られている結界は、波紋状に、魔物の強さに応じて、何段階かに分けて張られている。

中心部に近くなれば近くなるほど、魔物が強くなる。

外側のココら辺はまだ、魔物は弱い。


ならばここから南下した先の遺跡ならば、見たことがない魔物だとしても、この辺の魔物と同等程度の強さの魔物しかいないと考えられる。


もしかしたら、南下する途中で強い魔物の生息域に入る可能性はあるけどね。



だけど、まだまだ‘’ギンヌンガの裂け目‘’には程遠いこの場所の魔物にも手こずるようなら、そもそもボクやアステルは‘’ギンヌンガの裂け目‘’に行くのに値しないということだ。


それが早々に分かるのなら、アステルが『勇者』としての務めを出来ないのは些か問題かもしれないが、大人しくどこかしらの集落で、用事を終えて帰ってくるまで二人を待つ選択肢を選べる。


父さんと母さんの二人でなら、ボクたちを気にすることなく先に進めるのだ。

どうとでも出来るだろう。


だって父さんが躊躇せず精霊術を使ったら、街一つくらい簡単に消せることも、母さんが遠慮なく大剣を振るったら山くらい消し飛ばせることも、ボク、知ってるもの。


そんな二人と比べると、ボクたちが全然まだまだ足りていないことくらい、分かっている。

だから本気を出せないことも。



そんなボクたちを、なんとか無理なく育てながら進もうとしているのも、理解している。


少しでも早く親友である『勇者』と『魔王』が無事なのか確かめに行きたいだろうに、それをガマンしてくれている。


だからボクは母さんたちがガマンをする時間を減らしたい。

しなくていい気苦労を負う必要だってない。


そういう意味でも、遺跡の利用を強く推したかった。

どれだけの時間を短縮出来るのかは知らないけどね。



だから自重はせずに、『整理士』の実験をして、ボクとアステルの強化を図る。

そして道中迷わないように、『整理士』のスキルを使って進めるようにする。


お手紙に書いてあった内容を実行出来るなら、きっとそれくらい可能なのだ。



問題整理って言葉がある。

あとあと煩わしい問題が起こらないように対処・処理をするって意味だ。

それも『整理士』の能力として備わっているのなら、きっとできる。


今ある問題は、ボクとアステルの、絶対的な能力不足と、道に迷わないかの二つなのだ。

その二つさえ解決出来れば、あとはどうにでもなる。



お部屋のお掃除をした時みたいに、ボクがどう意識するかで、整理をすべきかどうか、スキルが働く対象になるかどうかの範囲が変わる。


母さんがこれほどまでに心配してくれているのだ。

ボクの意識ひとつで変わるというのなら、この問題を解決するための整理くらい、してみせる。



決意したボクは夕飯後、不寝番をしている間に実験をすることにした。


大賢者様のお友達は、‘’分析眼‘’で見えるステータス紙の使い方を知っているみたいだった。

父さんの‘’鑑定眼‘’のように、似ているけど少し違う能力が得られるスキルが、他にもあるのかもしれない。


文字の一部を消したり、書き込んだり出来るのなら、こういうことは出来ないか? と提案された中に、文字を選択した状態で長押しをしたら、選択した任意の文字を固定化したり、鍵をかけたりはできないか質問が書かれていた。


けれど、長押しはボクの場合は説明文が表示されるだけだからね。

これがお友達さんの能力だったならは、鍵かけが出来るということなのだろう。



指二本での操作はしたことがあったけど、三本同時に使う操作方法があるようで、それも試してみるように書かれていた。

でもさ、これって、すっごく器用じゃないと、出来なくない?


慣れない動作のせいか、指がぷるぷるする。


数字を選択して、指三本でピンチ――親指、人差し指、中指で紙を摘むような動作をしてみる。

……特に変化はない。


もしあるとしたら、次の動作でだ。

選択を解除したあと、空欄を軽く押して、今度は指三本でピンチアウト――親指、人差し指、中指でさっきとは逆で、内側から外側に広げるような動作をする。


……うわ、ホントに出来た。


それぞれコピーとペーストという動作で、複製や模写と、貼り付けや移動が出来るとお手紙に書いてあった。


そんな馬鹿なと思ったけど、本当に出来てしまった。


そんなふざけた話しがあるわけがないと思ったんだけれど……現に今、出来てしまっている。

自分のステータス紙で出来ても、別の人のステータス紙では出来ないこともあるから、コレが万人のステータスで出来るかはまだ分からない。


スキル名を書き足すことは、他の人のステータス紙では出来なかったし。


次の不寝番はアステルだ。

交代の時間になったら、スキルでも――今『男者』になっているスキルをコピーして、『勇者』と『男者』両方表示出来ないか試してみよう。


そうすれば、男の身体のままで、ステータスを一気に育てられる。

ボクも地道な作業になるけど、コピーとペーストを繰り返して、ステータスの数値を上げれば、足でまといになりにくくなる。


実戦経験の不足は、どうしたって誤魔化せない。

そこは今まで通り、地道に続けて行くしかない。


でも、父さんと母さんに置いていかれる心配は、コレで減った。

筋力や体力、防御力といった、能力値は高ければ高いほど戦闘に有利になる。

経験不足を埋められるだけの、大きな数字にしよう。


熱中し過ぎて異変を見落とさないようにだけ気を付けなきゃだけどね。



交代の時間を告げる砂時計の、砂が落ち切る前に試したこと。

その最大限の収穫は、魔物のステータスも見れることの確認と、魔物のステータスもいじられるということだ。


つまり、生命力のゲージを指二本でピンチすると、ほぼゼロの瀕死状態まで一気に持ち込める。


仕様なのか、人差し指と中指の間に出来る隙間のせいなのかは分からないけど、即死させることは出来なかった。


咄嗟のことだった上にその一匹しか周辺に魔物が居なかったから、実験がろくに出来なかったのが辛い。


明日父さんに協力してもらって、魔物を生け捕りにしてステータスに表示されている攻撃力や防御力なんかの数字を変更できるのか、消せるのか、色々してみたい。


もし可能なら、ボクは後衛で魔物のステータスを細工して、楽に勝てるようにする、補佐役に回った方が、旅を楽なものに出来る。

母さんの懸念も、憂いも、晴らすことが出来る。


とってもいいことだ。



血湧き肉躍るような、命懸けの戦いに身をやつしたい、戦闘狂ではないからね。

楽が出来るのなら、それに越したことはない。

あ、でも、それで魔物素材が劣化したり、お肉が不味くなるなら考えものだよね。


そこもちゃんと確認しないと。

だって貴重な収入源と、日々のご飯になるんだものね。

両方とも生きていく上で、とっても大事なものだ。

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