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その者、青き空の色を持ちし者 4

 目に映ったのはしみひとつ無い白い天井。

 薬品の臭いがする白い空間。

 けだるく、思うように動かない体。

 しかし、意識ははっきりしていた。

 とても懐かしく心地のよい夢を見ていた気がするが、霞がかかったように思い出すことはできない。

 少し潮の匂いを含んだ風が自分の髪を揺らした。

 空気の入れ替えのためなのか室内の空調機を使わずに窓を開けているようだ。

 白いカーテンが、風に煽られ音もなく揺れていた。


どのくらい自分は、こうしていたのだろうか?


 病室のベッドの上に横たわって意識があるということは、自分は助かったのだろう。

 よく、あの瀕死状態から命が助かったものだ。

 ほとんど、助からないと諦めていたのに。

 無意識に、右腕を見ると点滴か輸血のための管が刺されている。

 と、視界に赤い、いや緋色がかすめた。

 よく見ると、緋色の髪をした少女が俺の右手を握りながら眠っていた。

 

このコは、誰だ?


 面識のない少女だ。

 握った手を解こうと右手を動かすと、少女の睫が震えた。

 ゆっくりと瞳が、開かれる。

 その瞳の色も髪と同色。

 混じりけのない澄んだ緋色。

 少女は、一度瞬きすると、身体をゆっくり起こした。

 小さく伸びしてから、俺の方を向いた。

 俺と目線が合った少女は、始め驚いたよな表情をしていたがすぐに満面の笑みを浮かべ、

「目、覚めたね」

 澄んだ声で少女は俺に話しかけた。

 その声が、俺の中の何かを刺激した。

「お前は、誰だ?」

 初めて感じるような感覚。快感とも呼べる疼き。御しがたいその感覚に少し苛立つ。

 それを隠すために感情を抑えた声で、俺は少女にそう訊ねた。

 何度もそう誰かに問いかけたような気がする。

 さらに浮かび上がる奇妙な感覚に戸惑いながら、俺はそう少女に問うと、少女は怪訝そうな顔をした。

「誰だと聞いている」

 返答がないため、少しいらだちもう一度そう聞くと、

「私は、薬人くすりびと。 名は、まだありません。 私は、貴方が考えた私の名をもって貴方と契約をかわしたい……」

 そう、戸惑った表情で泣きそうな声で、縋るように少女はそう答え、そう問いかけてきた。


薬人くすりびと?!


 内心絶句した。

 その絶句を声には出さなかったのだが、明らかに俺の表情が凍りついたと自分で解った。

 少女も、その俺の顔をみたのかその表情が曇る。

 部屋は、沈黙で包まれた。

 その沈黙を破るように、俺は深くため息を吐き、

「俺は、薬人と契約を結ぶつもりは無い」

 そう否定の言葉を発した。

 その瞬間、大きく見開かれた少女の目から透明の雫が頬を伝わり零れ落ちた。

 血色がよかった少女の顔色が、一瞬で真っ白になる。

 少女の口が俺に何かを言おうとして開かれるが、言葉にならないようで声は出ることは無かった。

 そのうち少女は、諦めたように、俯いて嗚咽をかみ殺す。

 小さな肩が、かわいそうなくらい震えていた。

 なぜか、罪悪感が沸き見ていられなくなり、俺は彼女から視線を外した。


 やがて、その少女の震えがとまる頃、主治医と2人の看護士がはいってきた。

「意識が戻ったようだね。さすが、Sランクの守人もりびと殿、回復力が違うのか、専属の薬人との相性が余程よかったのか」

 後半は、独り言のように医師は満面の笑みを浮かべて俺の寝るベッドのそばに近寄りながらそうつぶやいていた。

「彼女は、俺の専属の薬人ではありません」

 そのつぶやきに、俺は、そう否定の言葉を返した。

 医師は、その俺の言葉に驚いたのか、薬人の少女と俺の顔を交互にうかがった。

「専属ではないのかね? おどろいた、それでよく助かったものだ。 コレと君の相性がこんなにも良いのに。 オーダー製の専属じゃない限りありえないことなんだよ普通は、奇跡に近い」

 驚いたように、医師は興奮したような声でそう言った。

「このさい、コレを君の専属にしては……」

「俺は、後にもこの先にも専属の薬人を持つことはありません」

 医師の言葉を遮って、俺はそう言った。

「そうですか……、それは残念です。 では、コレはこちらで預からせてもらいます。 よろしいですね?」

 医師は、そう確認するように俺に聞いてきた。その言葉に俺は、首肯した。

 俺の返答を確認すると、医師は力なく座る少女の腕をとると引っ張り上げるように立たせた。

 彼女も抵抗するそぶりもなくされるままになっている。

 この時になって、少女が背中が大きく開いた患者服のようなものを着ていたことに気づく。

 ふと何か赤い管の様なものが視界に入った。

 よく見ると、背中には管のようなものが刺されていて垂れ下がっている。

 その管を器具でせき止めると医師は無造作に針を引き抜いた。

 その瞬間、少女はぎゅっと目をつぶり痛みをこらえる表情を浮かべた。

 あまりにも、手加減の無い無造作な抜き方に俺は医師に対して嫌悪を覚えた。

 普通なら、なるべく痛まないように針を抜くはずである。

 抜いた管は看護士の手に渡り、小ぶりの医療機器に取り付けられる。

 そこで、思い至る。少女の背中の管は、自分の右腕の管とつながっていたことに絶句する。

「それでは、また明日この時間に回診にきますので、なにかありましたらコールを押してください」

 そう言い置いて医師は、少女の背中の針跡になんら消毒や滅菌処置もせずに、ただガーゼを押し当てて止血するだけに留め、彼女を促して病室を後にした。

 病室から居なくなるまでの間、彼女は一度として顔を上げることなく俯いたままだったことに俺は気づくこともなく、自動ドア式の病室の扉が閉まる音で、俺はようやく我にかえった。

 部屋に再び静寂が訪れる。

 さっきまでの状況が頭の中でグルグル回っている。

 薬人ははっきり言って好きではない。

 けれど、医師の話やあの状況を見る限り俺はあの子に助けられたのだ。

 彼女に礼の一つもしていなかったことにいまさらながら気づいて自己嫌悪する。


何故、あんな態度をとってしまったのだろうか?


 普段なら、いくら嫌いな存在でももう少し違う対応が出来た筈だ。

 思うようにならない体と訳のわからない苛立ち。

 ふと、一人になった病室を見渡す。

 血圧を制御する機械の電子音以外は聞こえない。

 なぜか、物悲しくなる。

 温かかった部屋が、とても寒く感じる。

 焦燥感が広がり、その訳が分からずさらに苛つく。

 寝てしまえばこの苛立ちも幾分ましになるだろうと、思い、俺は静かに目を閉じた。 

名前がある程度出てきましたら『後書き』にて登場人物紹介しようかとおもってます。


【用語補足】

守人もりびと

・各人工都市『Islands』の治安や外敵からまもる戦闘用アタック人工人間フェイクノイド

・生まれる前からあらゆるDNA操作をされている

・人権は認められており、高位ランクの守人の世間的地位は高い

・能力によってランク付けされている  S > 3A > 2A > A > B > C


薬人くすりびと

・生きた生薬であり、主に守人専用もりびとせんようのドナーとして守人と契約をする

・全ての体液に治癒能力がある人工人間フェイクノイド

・姿は、人間で人格や感情もあるのだが彼らは人でなく物扱いとされ人権はない

対象者オーダーのために作られるタイプと、大量生産ラインにて作られるタイプに分かれる

・契約時に対象者が拒否または、契約者が契約を解消したとき薬剤還元処理行きとなる

・契約者が、死亡すると薬人も後を追うように死にいたる

※オーダー…人格感情持つ完全人型の薬人

※ライン…人格を持たず姿も人型をとるまえに薬剤還元処理をされる

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