荷運びとお手伝い
「それなら一緒だね。俺も行くんだよ!」
目を輝かせてそう言うチムニーを私は驚きの目で見つめていた。
「ええと……」
しばし考えて助けを求めるようにキース君とカーク君を振り返る。
「そうだよ、チムニーは年少組の代表でついて行くんだ。まあ、行くって言っても後ろで見学してるだけだけどね」
「俺達も、実を言うと地上まで降りるのは今回が初めてなんだ。ルリ姉さんも初めてだから、多分チムニーと一緒にいるんだと思うよ」
二人の説明に、何となく私はチムニーのお守り役で行くんじゃないかって気がしてきたわ。まあ、さすがに取引き中に走り回るような事はしない……わよね?
「勝手な事しないのよ」
思わず真顔でそう言うと、私を見上げたチムニーは口を尖らせて私の腕に縋った。
「大丈夫だよ。そんなの分かってるって、大人しくしてるよ」
「聞いてて不安しかないぞ、おい」
「だな。こんな不安な大丈夫は初めて聞いたぞ」
カーク君とキース君が、顔を見合わせて笑いながらものすごく怖いことを言ってる。
「ああダメダメ。私、頭が痛くなってきたから横になってた方がいいかもしれないわね」
態とらしく頭を押さえてそう言うと、三人から鼻で笑われたわ。うう、納得出来ない。
そんな話をしつつもせっせと荷物運びをしたおかげで、倉庫に積み上がっていた荷物は全部表の言われた場所に取り出して並べた。
「これって木箱に入れて運ぶって聞いたけど、よかったら下まで収納して持って行くけど?」
私以外にも。大人の人の中には大容量の収納持ちが何人かいる。手分けして持てば、これくらいは十分運べるだろう。そう思っての提案だったが、ちょうど近くにいた留守番組のユアンさんが私の声が聞こえたみたいで振り返った。
「ああ、ルリさん。今日は一緒に見学に行くんだって?」
「はい。急だったんですけど、長老から許可が出たからってリッティから聞きました」
「そうなんだね。まあ風切り羽も生えそろったみたいだし、何とかなるんじゃないかな?」
ちらっと私の翼を見て、一緒に荷物整理をしていたリッティを振り返った。
「大丈夫か? 地上からここまでってかなりあるけど」
「大丈夫よ。彼女はああ見えてかなり飛べるんだから」
「いや、そりゃあ知ってるけど、体力は無さそうだけどなあ」
何やら言いたげにもう一度私を見て、それからユアンさんは苦笑いして首を振った。
「まあ、護衛役がいるから大丈夫だな」
リッティさんと頷き合ってるユアンさんを見て、私は意味が分からなくて横で首を傾げていた。
「それって……」
「あのさ、さっき言ってた収納の事だけど……」
ユアンさんと私の言葉が重なる。
同時に二人揃って口をつぐんだ後、苦笑いした私は一礼してユアンさんを促した。
「ごめんなさい。ええと、収納しなくていいんですか?」
「まあ、収納しようと思えば出来るんだけどね。地上の商人達をあまり刺激したくないからさ」
苦笑いしながらそう言われて、その言葉の意味を考える。
「それはつまり……もしかして収納の能力って、地上には無い?」
「能力持ちがいないわけじゃあないらしいけど、どうやら我々ほどの容量は無いみたいだよ。聞いたところによると、この袋一つぶんくらいがせいぜいらしい」
ユアンさんがそう言いながら取り出したのは、収穫物の整理をする時につかっているゴワゴワした麻の袋。
元いた世界では、コーヒー豆が入ってる袋のイメージが強いわね。ジュードって呼ばれてた硬い布。
だけどその大きさは10キロの米袋くらい。自分の荷物を入れる分には決して小さいわけじゃあないけど、ここの荷物は間違いなく入らないわね。
「へえ、そうなんだ。でもまあそれなら分かる気がします。でも収納しないのなら、こんなにたくさんの荷物をどうやって運ぶの?」
私でも入れそうな大きさの巨大な木箱が、全部で二十個近く積み上がった目の前の光景を見てそう尋ねる。
「そりゃあ担いで降りるんだよ。なかなか豪快な光景だよ。でもまあ、場合によっては一つくらいはルリさんにもお願いするかもな」
「もちろん、持っていいなら幾らでも持つわよ」
木箱を見上げたユアンさんにそう言われて、私はチムニーを腕にぶら下げたままで笑って答えたのだった。
「もうチムニー、重いから離してちょうだい。何ならこのまま収納してあげましょうか?」
ぷくぷくのほっぺを空いていた右手で包み込むみたいにして捕まえてモミモミしながらそう言ってやる。
もちろん、そんな事出来ないのはお互いわかっている。収納には、生きているものはそもそも入れられないのだから。
「誰か助けて〜〜ルリが俺を収納しようとしてる〜〜!」
頬を揉まれても全くの無抵抗なチムニーが、笑いながらそう悲鳴をあげる。
「静かでいいじゃないか。ルリ姉さんに運んでもらえ」
「本当だな。静かになっていいじゃないか」
キース君とカーク君が、揃ってそんな事を言うものだから、私とリッティとユアンさんはそろって吹き出し、皆で大笑いになったのだった。
「おおい、手の空いてるのは全員集まってくれるか。荷物に網を掛けるから手伝ってくれ」
その時、留守番組の大柄な男性達が、大きな魚網みたいなものを担いで出てきて大声でそう呼びかける。
「はあい、手伝います!」
リッティの声に私も続いて返事をして、全員そろって網を持った人の所へ集まって行った。
どうやら、思っていた以上に大掛かりな取引きみたい。
何があるのかちょっとワクワクしつつ、指示に従って荷物を中心皆と一緒に輪になって大きく広がるのだった。




