私の部屋と収納の容量
「とりあえず、急いで決めないといけないのはそんなところかしらね」
パムの言葉にリッティが少し考えてから私を振り返った。
「部屋はどうする? 成人なら個室を使わせて良いわよね?」
「もちろんよ。それならあなたの隣の部屋を使えば良いのではなくて。あそこなら、何かあってもすぐにあなたに聞けるからね」
「了解。ちょうど整理したところだものね。じゃあそれくらいかしら?」
「そうね。まあ何かあったらいつでも相談に乗るわよ」
分厚いノートにまた何か書き込んだパムは、小さく一つため息を吐いて私を見た。
「突然の事であなたも大変だと思うけど、まずはここでやっていけるように頑張ってみてね。でも、もしもどうしても我慢出来ない。あるいはここが嫌だって本気で思う事があれば、その時は誰でも良いから相談してね。必ず力になってあげるから」
思わぬ優しい言葉にまた涙腺が緩む。
「あ、ありがとう、ございます。私の方こそ、突然押しかけてきて、ご迷惑かけて、いるのに……」
「ああ、もう泣かないでったら。大丈夫よ。安心して今夜はゆっくり休んでちょうだい。明日、あなたを担当班の皆に紹介するからね」
「はい、よろしくお願いします」
何とか涙を飲み込んで、改めて頭を下げた。
「じゃあ、こっちよ」
パムと別れた後、リッティに連れられて一旦建物の外へ出る。
いつの間にかあたりはもう真っ暗になっていたのだけど、建物の周囲は松明があちこちに焚かれていて、真昼のような明るさを保っている。
周りをキョロキョロと見回しながらリッティについて歩いた。
「ここが私達が住んでる女性用の家よ」
ここもやっぱり見上げるくらいに高い天井。入ったところがロビーみたいに高い天井になってて左右の壁に幾つも扉が並んでいる。だけど、扉の前には何も無くて、どうやって上がるのだろうと心配になって無意識に梯子を探した。
「あなたの部屋はこっちよ」
そう言って、リッティは翼を広げて軽々と飛び上がった。
「そっか、翼があるんだから、階段も踏み台も必要無いわけね」
どうしてもまだ、地面を歩く人間の常識で考えてしまう。
苦笑いしてため息を一つ吐いた私は翼を広げて羽ばたき、リッティの後を追って床を蹴って飛び上がった。
扉の下側にはギリギリ足を乗せられる場所があって、そこにリッティは平然と足を乗せてそのまま扉を開く。
「ほら、入ってちょうだいな」
二度上下して、何とか苦労したけど扉に付いた取っ手を掴む事が出来た。
扉に縦長の棒状の取っ手が付いてた意味が分かった気がするわ。これも練習しないと扉を開けるときの微妙なコントロールが結構難しそう。
「お見事。ここへ自力で上がれるならその羽でもある程度は飛べるわね」
笑って部屋に入ったリッティに続いて私も部屋に入る。
「ベッドはこれを使って。着替えは……何か持ってる?」
黙って首を振る私を見て苦笑いした彼女は、壁に作り付けられた戸棚を示した。
「最低限の着替えはここにあるから、これは使ってくれて構わないわ。慣れてきたら自分で作ってもいいし、無理なら裁縫組にお願いして作ってもらってもいいわ。その場合は何らかの支払いをしてもらわなくちゃ駄目だから、あなたなら……あの水石が良いわね。どれくらい取ってきたのかしら?」
「水石って、これの事?」
さっき食事を食べた時に見せた、あの透明な石を取り出す。
「そうそう。幾つか取ってきたって言ってたわよね」
「ええと……全部で三十個くらいですね」
実はもっとあるのだけど控えめに言っておく。
「ああ、それなら当分何があっても大丈夫ね。って事は、収納って後どれくらい余裕がありそう?」
心配そうに聞かれて考える。
「ええと、どれくらいって言われても、私にもよく分からないわ」
「そんなはずないと思うけど?」
不思議そうに聞かれてますます困ってしまう。
「じゃあ、そこの左の大きい方の引き出しの中身って、どれくらいまで入れられるかしら?」
大きめのタンスみたいな作り付けの棚には、下の段が左右それぞれに三段の引き出しになっている。左側が大きく、右側は幅が狭い。
大きい方の引き出しをそっと開けてみると、シーツみたいな大きな布が、何枚も畳んでぎっしりと入れられていた。
「これを収納すればいいの?」
頷く彼女を見て、私は引き出し二段分のシーツをせっせと収納した。
「あらら、全部収納出来ちゃったわね。まだ大丈夫?」
「はい、まだまだ余裕みたいですけど」
「じゃあ、その一番下の段は引き出しごと入れられる? そのまま引き抜いて収納して見てくれるかしら」
真顔で言われて、もう一段あった引き出しを引っ張り出す。
中は、小さな手拭いみたいな布がこれも綺麗に畳んでぎっしりと詰まっていて、半分は子供用の小さな服がこれもぎっしりと入っていた。
そのまま引き出しごと収納してみたけど、何の問題も無く入ってしまった。
「ううん、中身だけってのは出せないのね。引き出し一個って感じに入ってるのが分かるわ」
小さく呟く私を見て、いきなりリッティが笑い出す。
「すごいわ。大容量の収納持ちが野良で転がり込んで来てくれるなんてね。明日からの採集の時には、お願いだから子供達の分を出来る範囲で良いから持ってやってちょうだい。まだ小さな子達は、収納もうまく使えない子が多くて、いつも持って帰るのに苦労しているのよ」
「そうなんですね。お安い御用です。全部持ってあげますよ」
「頼りにしてるわ。それじゃあもう休んでくれて良いんだけど……ねえルリ、あなた汗はかいてない? 水浴びしたくない?」
気温は初夏って感じだから実を言うとちょっと汗臭い。出来たらお風呂とまでは言わないけど、体くらいは拭きたいと思っていたのよね。
「水浴び出来る場所があるんですか?」
目を輝かせる私に、彼女は笑って頷いた。
「じゃあ、一旦収納した布と引き出しは戻してちょうだい。それで、こっちに着替えが入ってるから、好きなのを持って一緒に水浴びに行きましょう」
さっきの空になった大きい方の引き出しを引っ張り出しながらそう言われて、苦笑いした私は先程収納したそこに入っていた布を順番に取り出し、手伝ってもらって全部元に戻したのだった。
「じゃあ行きましょうか。着替えを取ってくるから下で待っててちょうだいな」
そう言いって当然のように軽々と扉から外に出て、軽く一度羽ばたいただけで隣の扉を掴んで開き、部屋に入って行ってしまった。
「ううん、お見事。私の飛ぶ時の微調整が下手なのは、抜けた風切り羽のせいだと思いたいなあ」
小さくそう呟き、とにかく着替えが入っているのだと言う小さい方の引き出しを開けて、何が入っているのか見てみる事にしたのだった。




