相談とここでの仕事
「それじゃこっちへ来てくれるかしら」
食器を言われた場所に返して席へ戻ったところでパムにそう言われて、リッティさんと一緒に別室へ移動する。
子供達は、そんな私達を興味津々で見送っていた。
通されたのは、大きめの木製の椅子と机が置かれた談話室みたいな部屋。
勧められてそこに座る。
「食事は食べられたみたいね」
笑顔のパムにそう言われて、私も笑顔で頷く。
「とても美味しかったです。ご馳走様でした」
「口に合って良かったわ。食べ物が合わないと辛いものね」
リッティさんにもそう言われて、私もそれには同意見だったので何度も頷く。
「それで、あなたのこれからについてなんだけどね」
紐で括った分厚いノートのようなものを持ってきたパムが、それを広げながら考えている。
「ううん、何処に入ってもらうべきだと思う?」
リッティさんがパムの隣に並んで座り、一緒にノートを覗き込む。
「彼女の翼、あれって風切り羽を抜いたのよね?」
「ええ、何本か折れて曲がったり千切れかけたりしていたので、抜くように言ったの。自分で処理していたわ」
それを聞いて、パムが驚いたように私を見る。
「あなたの勇気に賞賛を送るわ。風切り羽を抜くのは、私達でも初めての時には相当な勇気がいるのに」
「早く元に戻したかったから必死だったんです。でも実を言うと、ちょっと痛かったです」
誤魔化すように笑うと、二人からそれは当然とばかりにそろって頷かれてしまい、思わず自分の翼を振り返った。
改めて広げてみると、歯抜けになった風切り羽はちょっと悲しい。
何となくしょんぼりしていると、笑ったパムが立ち上がって私のすぐ横に来て、一緒に翼を覗き込んでから私の肩を叩いた。
「心配しなくても、すぐに羽鞘が生えて来るから安心して良いわよ」
「羽鞘?」
不思議そうにそう尋ねる私を見て、パムが自分の翼を広げてくれる。綺麗な緑色一色の大きな翼。
「ほら、すぐにこんなふうに硬い鞘に包まれた状態で新しい羽が生えてくるのよ。これが羽鞘よ。先の方から解れてくるから、それを筆毛って呼ぶのよ。今まさに、これの事ね」
確かに、彼女の風切り羽の真ん中辺りに歯が抜けたみたいに一箇所だけ羽根が抜けていて、その根本の部分から白くて硬そうな棒状のものが出てきている。そしてその先端部分が少し解れて、筆のように毛が少しだけはみ出したみたいになっているのが見えた。
「へえ、そんなふうになって生え変わるんですね」
「換羽期には一気に抜けて歯抜けになって焦る事もあるけど、普段はこんな感じでたまに部分的に抜ける程度ね。まあ、この程度ならあまり気にしなくていいわよ」
翼を戻したパムの言葉に、私も広げた自分の翼を見て頷く。
「でも、さすがにそれだけ一気に抜いてしまうと、ちょっとしばらくは無理しない方が良さそうね。じゃあやっぱり、年少組の雛達と一緒に採集してもらうのがいいかしらね」
パムの言葉にリッティさんも頷く。
「私もそれがいいと思うわ。その間に、子供達や年長組から普段の生活に必要な事を教えてもらって、羽根が生えそろったら大人組と一緒に採取に行かせればいいのでは?」
「でも、こんな小さな子に、いくら飛べるからって大人達と一緒に行かせて大丈夫かしら?」
困ったみたいに私を見るパムの言葉に違和感を覚える。
少し考えて、彼女に勘違いされている可能性に気が付いた。
「あの……」
「ん? どうかした?」
振り返ったパムにしゃがんで覗き込まれて、私は我慢出来なくて口を開いた。
「あの、もしかして勘違いしておられるかもしれないので言っておきますが、私、これでも成人してます」
身長だけで言えば、さっきの部屋にいた子供達の方が近い身長だけど、しかも以前より縮んでるような気もするけど、成人してる……はず。
若干自信は無かったけど、少なくとも今までの二十六年分の人として生きた記憶はあるんだから、成人してると思っていいわよね。
私の言葉に、予想通りにパムが目を見開く。
「ええと……」
リッティさんを振り返ると、彼女に苦笑いしながら頷く。
「小柄だし、翼も小さいけど間違いなく成人した翼ね」
「ああ、それは失礼したわね。私はまたてっきり十代前半くらいの歳の子かと思ってたわ」
さすがに十歳はサバ読みすぎだと思うので、訂正しておく。
「一応、これでも二十六歳です」
確かに、以前も小柄だったから友達から冗談で子供扱いされたりして笑った事はあったけど、ガチで間違えられるとちょっと複雑。
「二十六歳?」
二人の声が見事にハモる。
「ええと、あなたの世界では年齢ってどうやって数えるの?」
真顔で聞かれてしまい、思わず考える。
「じゃあ逆に質問だけど、この世界での時間の数え方を聞いていいですか? 一日は?」
「夜明けから始まって朝、太陽が頂点にあるのが昼、日が暮れて暗くなると夜、そして夜が明けたところで一日よ」
成る程、一日の区切りは夜明けなわけか。まあ自然と共に生活していれば、それは自然な考え方だろう。
「それが三十日でひと月。それが一から十二まであって、新年が五日間。これで一年間よ。これで一歳年を取るわ」
「それなら私の世界とほぼ変わらないわね。季節はあるの?」
「もちろん、春、夏、秋、冬。これで一年を巡るわ」
これもほぼ私の常識と一致してる。あまり変わらない世界で安堵したわ。
「じゃあ、ルリは小柄だし翼も小さいけど成人女性なのね。それならやっぱり羽が生えそろったら、大人組と一緒に行ってもらうべきかしら?」
「どうかしらね。確かにあの大きな翼と一緒に彼女の小さな翼で飛ぶのは難しそう。ああ、それなら羽が戻ったらそのまま子供達の警備も担当して貰えば? それに彼女は収納の能力持ちだから、一緒に採集作業をしてもらって、帰りには子供達の集めた食料を持ってもらえば収納力の低い子供達も楽が出来るんじゃなくて?」
手を叩いたパムの言葉に、リッティさんも頷く。
「ああ、それはいい考えね。子供達の警備組は、この前ごっそり人数が減って人手不足だって言っていたものね」
「いいわね。じゃあそれでいきましょう」
ノートに何かを書き始めたパムを見て、リッティさんも満足そうに頷いてる。
どうやら、ここでの私の担当が決まったみたい。
正直言ってこれから先の事を考えたら不安しかないけれど、何もする事が無いよりは、まずはこれをやってと決めてもらった方が正直言って有り難い。
やっぱり、ここにいさせてもらう以上はちゃんと働かないとね。
安堵のため息を吐いた私は、これから頑張るんだと内心で決意を新たにしていたのだった。




