189話 穴の下
臭い問題がマシになったところで、アキヒサたちは早速穴の中へ入ってみた。
穴にはちゃんと梯子があったので、それを使ってまずバウスが持っていた簡易ランプを手に下りていき、その後にアキヒサたちも続く。
下に降りた途端、レイがシロと一緒にタタタ、と探検に駆けていく。
そう、走れるくらいに広いのだ。
「へぇ、確かに広いなぁ。
なにがあったんだろう?」
簡易ランプに照らされた空間は、壁は焦げてしまっているものの、なかなかの広さであった。
上に立つ屋敷と同じくらいあるかもしれない。
「壁は簡素な造りですなぁ。
倉庫だったのでしょうか?」
バウスは壁をコンコンと叩いて、そう思案する。
「他の地下との繋がりを調べてみないと、用途についてはなんとも言えぬな」
リュウがそう言いながら地面を時折蹴っているのは、あたりの地面を調べているのかもしれない。
建築に強い生産系生体兵器であるので、早いうちにどういうものが地下にあるのかわかるだろう。
というか、調べたくてウズウズしている顔だ。
そうしていると、レイがまたタタタ、と駆け戻ってきた。
「なにもなかった」
そして、報告してくる。
確かに、見た所なにも物が置いていない。
あの金ピカの爆風被害に遭ったにしても、燃えカスくらいはありそうなものだ。
なので、元々なにもなかったのかもしれない。
「何者かが中のものを運び去ったか、あるいは空間を作りはしたものの、未使用であったか」
「そうですなぁ、焦げているだけで、それ以外の傷はないですなぁ」
リュウとバウスが、互いに考えを述べ合っている。
けれどこの想定外の地下空間に、バウスも困惑している様子であった。
どこまでも、他人に迷惑をかける金ピカである。
いや、この地下は金ピカではなく、もっと昔のNo.1をこっそり保管していた連中が作ったようだけれども。
連中もなんでこんなものを作ったのか?
地下帝国でも築くつもりだったのか?
せっかくの頑丈な地下道であるなら、怪しい施設とかじゃあなくて、楽しい方に有効活用すればよかったのだ。
「ここがさ、買い物ができる地下街とかだったら楽しかったのになぁ」
このアキヒサの愚痴に、バウスが反応した。
「ほほ、トツギ様はドワーフの街を知っていらっしゃるか。
初めて見た者は驚きますぞぉ」
「え!? あ、はあ、そうなんですヨネ~!」
アキヒサはとっさに知ったかぶったが、ドワーフ族はどうやら地下に住むらしいと、当然今初めて知った。
そんなアキヒサの様子を余所に、バウスが語る。
「このニケロに居ついた我らですが、やはりこうした地下は落ち着きますでな。
発見された地下道というものに、興味が大いにあるところです」
「あれ、バウスさんはここの生まれではないんですか」
バウスが「うむうむ」と頷くのに、アキヒサは尋ねてみる。
「そうですぞ。
我らは隣の大陸の戦乱から逃げて来て、このニケロへ流れつきましてな、仲間と商売を始めたというわけで。
この人族の大陸の中で、この国は比較的我らを受け入れるのに優しいのです」
新情報が出た。
どうやら隣の大陸は戦争をしているらしい。
ドワーフの街に興味はあるが、戦争は嫌なので行く気を失くすアキヒサである。
そこで、ふとこの地下について思いつく。
「あのさ、もしここがどこかと繋がっていたら、移動とか物を運ぶのとか、便利じゃないか?」
地上で天候が荒れていても、地下であればすんなりと運ぶことができるのだ。
「確かに、そうした利点があるな」
「いいですなぁ、ぜひ地下のどこかに住みたいですぞ」
アキヒサの思い付きに、リュウとバウスもそれぞれに賛同を示す。
と、そこへ。
くいくい!
レイがまたアキヒサの服を引っ張る。
「ここ、おうちできる?」
そうだ、そもそも土地を買うかどうかを判断しに、自分たちはここへ来たのだったか。
見た所、アキヒサにとって不満になりそうなものは、ここにない。
「あの、この土地買います」
というわけで、アキヒサは土地をお買い上げするのだった。




