184話 不動産情報
「あったあった、これなんてどうですかな? 大通りから二つ離れた通りにある土地ですなぁ」
やがてなにかを探し当てたらしいバウスにそう言って示された不動産情報を、アキヒサは覗き込む。
そこに載っている地図を見ると、「とまり木亭」とは通りを一つ挟んでいるが近いし、周りも住宅街になっているようだ。
商店街に近い好立地といえよう。
値段はというと、レイと一緒に二回ほど魔物無双をすれば、一括で払えそうな価格である。
――安いのか? いや安いだろう?
アキヒサはなんとなく安いように思えた。
しかしこの世界での相場というものがまだいまいちわかっていないし、そのあたりが世間知らずなことを自分からバラすこともあるまい。
まあアキヒサには相場を知るのに、現物を見て鑑定するという奥の手があるのだけれども。
しかし、その前にまず気になることを聞いてみる。
「なかなかいい場所みたいですけど、どうしてここが空いているんですか?」
そう、不動産でまず気になるのはコレである。
好立地であればあるほど、空き家になっている理由が気になるというものだろう。
「それがですなぁ」
事情を話すバウス曰く、家主がギャンブルにハマった末の借金を返せなくなって夜逃げしてしまい、ほったらかしにしてあった家なのだそうだ。
その借金元から売りに出されている家なのだが、やはり悪い問題があって空き家になった物件というのは、異世界でも人気がないらしい。
現在家が建っているものの風化してかなりオンボロで住めそうになくて、壊しての建て替えをするしかない状態だ。
「というわけで、不人気なのと解体の手間がかかるのもあっての、この値段なのですなぁ」
バウスがひげを撫でながらそう話す。
よそ者のアキヒサには黙ったまま売ることだってできるだろうに、正直な人である。
「うーん、なるほど」
アキヒサは今聞いた話を頭の中で整理して、しばし考える。
この場所が不人気の原因は借金ということだけれど、「そこで殺人事件があった」とかの理由ならばともかく、そのくらいの「不運物件」ならば、アキヒサとしては気にならない。
あとは解体の手間だが――
「ほう、なかなかいい場所ではないか」
そこへ、いつの間にかアキヒサの背後に立っていたリュウが口を挟んできた。
さすが生産系生体兵器なだけあり、立地にも詳しいらしい。
――そうだ!
「リュウさん、家を壊すのって簡単にできる?」
アキヒサがひそっと尋ねると、リュウが眉を上げる。
「分解するのは一瞬だな。
早速魔方陣をいじりたいものだ」
どうやら解体の問題も解決しそうだ。
家も持っているし、全く問題ないと言えるのだけれど。
――あ、でも、あのテント住宅じゃなくて、ちゃんと家を建ててもらうのもアリだな。
思えばあのテント住宅はログハウス風なので、街並みと景観が合わない気がする。
気にしないのであればいいのだろうが、アキヒサとしてはなんとなく気になるのだ。
それに、ドワーフ族の人が建てる家というのに、ちょっと興味がある。
それに、この生産系ドラゴンはこういうのをいじるのが大好物なようだし、きっと建った家を嬉々としていじるだろう。
というか、自分で建てたがるかもしれないが、それは止めさせてもらおう。
―― 一瞬で家が建ったとか、都市伝説に残りそうだ。
そんな都市伝説は、アイカ村だけで十分だ。
あちらは信心深い村人たちが「山神様がやったのだ」という結論に収めてくれたが、このニケロではそうはいかないであろう。
――ここを拠点にするつもりなら、妙な噂になりたくない。
この先、レイを連れてあちらこちらを旅するにしても、帰る場所はここにするの。
そのくらい、アキヒサはこのニケロに愛着を持ち始めていた。




