156話 開けてみよう
機械が使えるようになったところで、アキヒサは早速あの容器が開くかを試す。
「リュウさん、どうすればいいんだ?」
詳しいであろうリュウに尋ねると、しかしリュウがしかめっ面をした。
「これは、我が見たことのない形式だな。
さては、すぐにどうこうできないための小細工か」
「あれ、リュウさんでもわからないっぽい?」
どうやらリュウが制作に関わっていない機械のようだ。
――昔は、リュウさんがいろんなものを管理していたんだよな?
それから隠れてこんなものを作り上げたとは、それなりに才能があった人が作ったのだろう。
その才能を、もっといい方に生かして欲しかったものだ。
アキヒサは一人で納得したところで、それでもなんとかしようと機械を恐る恐る操作する。
部屋の隅で虫の息な教会の連中が知っているかもしれないが、教えるとは思えないし、第一この機械を使いこなしているとは想像しにくい。
もし連中にこの機械を使いこなせる能力があれば、タブレットの使い方がとっくに知られているはずだからである。
技術や知識というものは、どんなに隠そうとしても漏れるもので、そうした漏れがないということは、すなわち教会でも知られていないということだろう。
「開く、解放、ならないなぁ……」
色々試してみるが、容器は開かないままだ。
いっそ取扱説明書が欲しいと思った時、ふと気付く。
――『鑑定』で、開け方が調べられるかな?
これまで知りたいことは全て『鑑定』で調べてきたことだし、あれこそこの世界の取り扱い説明書だろう。
というわけで、早速No.1ごと容器を鑑定だ。
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生体兵器維持装置
No.1破棄の際、どさくさに紛れて盗んだ基幹部を研究するために作られた隠し研究室と装置。
生体兵器の力をなんとか我が物にして、永遠の命を得ようとしたものの、研究途中に別の罪を問われて処刑されたため、隠し研究室は隠されたままとなる。
自爆機能でしか容器は開かない。
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「物騒だな!?」
鑑定結果に、アキヒサはツッコむ。
まず、どさくさ紛れで盗めるということは、生体兵器の製造に関わった者の中でも、相当に信頼されていた人物だったのだろう。
リュウたちの言うマスターとやらに近しい人間の裏切りとは、なかなかの黒歴史である。
そして開ける手段が自爆とは、つまり本人には開ける気がなかったということにならないだろうか?
「ふむ、自爆か。
その程度ならばわかる」
アキヒサのパネルを覗き見ているリュウが、顎を撫でてそう告げる。
そしてこの研究室を作った人物にも心当たりがあるようで、「アイツめ、面倒なことをしてくれたな」とボヤく。
「そもそも、自爆ってどのくらいの規模なんだ?」
アキヒサたちが自爆に巻き込まれるのは避けたいし、自爆がこのニケロの街をまるごと破壊する規模だったら、目も当てられない。
「どんな規模であれ、我が覆ってしまえば問題ない」
アキヒサの杞憂に、しかしリュウがあっさりと告げる。
どうやらこの部屋ごとドーム状に覆った状態で自爆させてしまおう、ということらしい。
「それしかないなら、それでいくか」
アキヒサはリュウの作戦に乗ることにした。
壊せないならば現状維持という手段もあるのだろうが、リュウはどうしても破壊してしまいたいらしいし、アキヒサとしても一度世界を滅ぼした原因を維持しておきたくはない。
というわけで。
「レイ~、もうこの部屋ごと壊すからさ、ちょっとそこに転がっている人たちを外に出しちゃおうか」
アキヒサとリュウが機械をいじっている間、レイが暇をしてたらしく、虫の息の教会関係者をツンツンして遊んでいるところに声をかける。
「ん!」
アキヒサの頼みを引き受けてくれたレイは、連中を両手で服の端をむんずとつかみ、ズルズルとアキヒサたちが入ってきた通路へと引きずっていく。
扱いが狩った獲物と同じ扱いだが、まあ安全のための行動なのでいいだろう。




