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登場人物が全員『佐藤 春』の件について ~答え~

A「春(C)! 祭り行こうぜ!」


 教室に来るなり、僕たちに大声で話しかけてきたのは、隣のクラスの佐藤春くん(A)だった。それまで一緒に話していた佐藤春くん(B)が、ドアを開けっぱなしで近づいてくる春くん(A)のほうを見る。その顔は、なんだかうんざりといった様子に見えるけど、どことなく嬉しそう。


B「朝から相変わらずうるさいな。突然なんだよ」

A「うるさいなんて言い方はないだろうが。なぁ春(C)ー?」

C「う、うん。そうだね」


 呆れたように春くん(B)の言葉をかわす春くん(A)は、春くん(B)と無理やり肩を組んで、僕に話を振ってくる。そうは言われても、そんな言い方をするのが春くん(A)だし、正直僕には何とも言えない。


A「そんなことよりさ、祭り行こうぜ、祭り! 今日、商店街でやるんだとよ!」

B「今日? あまりにも急じゃないか?」

A「いいじゃんかよー。どうせ予定もないだろ? 3人で行こうぜ!」

B「確かに予定はないけどさ。春(C)はどうなの? 行けそう?」

C「うーん、多分、大丈夫……かな。」


 今日は帰ったら、買ったばかりの漫画を読む予定だったけど、まあいっか。2人に誘われたら、当然そっちのほうが優先だ。僕のことを誘ってくれる大事な友達。わざわざ断る用事も理由もなかった。


 苦笑いすらも零さないクールな春くん(B)が、ようやく春くん(A)の腕を振り払う。体重をかけられていたのか、気怠そうに肩をぐるぐると回した。そしたら今度は、春くん(B)の動作を見て、逆に苦笑いをしてしまった僕に春くん(A)は寄りかかってきた。


A「春(C)、お前は何時頃に商店街来られんの?」

C「ぼ、僕? えっと……家から近いし、僕は2人に合わせるよ……!」

B「じゃあ18時半。春(A)もその時間なら来られるだろ?」

A「おー、おっけー! 余裕余裕!」


 ここでやっと春くん(A)がどいてくれた。一瞬、哀れんだ表情の春くん(B)と目が合ったけど、「春(A)は仕方ない奴だな」なんて言うかのように、眉を八の字にして笑ってくれた。


A「そんじゃ、俺教室帰るから! 今日、18時半な、遅れんなよ!」

B「おう。春(A)も遅れんなよ」


 チャイムの鳴る数分前。そそくさと教室を後にする春くん(A)に、春くん(B)が片手を上げて答える。僕の声は届いたか分からないけど、僕も小さく「じゃあね」って言ってみた。


 春くん(B)が溜息と共に立ち上がって、自分の席に戻っていく。授業は面倒だけど、放課後、2人との予定があるなら頑張れそうだ。席についてからこっちを見た春くん(B)に、ちょっとだけ手を振ってみる。すると春くん(B)は無愛想のまま、でもさっき春くん(A)にしたみたいに、片手を上げて応えてくれた。





 夜。商店街のすぐ側に住む僕は、お父さんから貰ったお小遣いを大事に持って、外に出た。まだ集合時間には少し早いけど、とにかく家でじっとしてることができなかった。


 浴衣を着て歩く女子の集団。ビールを持って豪快に笑うおじさん達。中心で踊り踊る地域の子どもやお年寄り。どこからか横笛の音も軽快に響いていた。鼻をくすぐる焼きそばの良い匂いにお腹を鳴らしたけど、何かを買うのは2人と合流してからだ。我慢しなきゃ。


 そうして祭りの風景に見とれていたら、いつの間にか時刻は18時半を過ぎていた。スマホを見ると、2人からメッセージが数件来ていて、僕は慌てて2人のいる場所に向かう。


A「おっせーぞ春(C)! まさか、先に買い食いでもしてたんじゃないだろーな?」

C「ま、まさか。そんなことしないよ……!」

B「時間はあるんだから争ってないで。2人とも早く行くよ」


 春くん(B)はいつも通り、シンプルな普段着。でも、先頭をずんずん進んでいく春くん(A)は、かっこいい甚平を着ていて羨ましい。それで僕の顔が何か言いたそうに見えたのか、春くん(B)が先行く春くん(A)を呼び止めた。


B「春(A)、歩くの早いよ。もっと俺らに気遣ってくれる?」

A「え-、だってよー、早く飯食いたいじゃんかよー」

C「は、春くん(B)。僕は大丈夫だから、このままのペースで良いよ」

A「ほらー、春(C)もこう言ってるぜー?」

B「時間はあるんだから、ゆっくりでも良いだろ」


 春くん(B)の言葉に、どこか不満そうに返事をした春くん(A)が、僕の左側に来る。僕が歩くの遅いせいで、春くん(B)に気を遣わせて、怒らせちゃったかな。


 僕にイライラしてたらどうしよう。なんてびくびくしていたけど、すぐに春くん(A)は表情を輝かせて、焼きそばの屋台に走り出した。


B「だから俺らに気を遣えって……もう、春(A)のやつ」

C「お祭りは楽しいから、しょうがない、よね」


 頭を抱える春くん(B)をフォローする。いつも突っ走る春くん(A)のブレーキ係は、いつでも大変そうだ。とりあえず、2人とも僕に怒ってる様子が今は見えなくて安心した。焼きそばの屋台に着くなり、大声で焼きそばを注文している春くん(A)。僕と春くん(B)は、ゆっくり歩いて後を追いかけた。





 すっかり辺りは暗くなって、ちらほら帰る人の姿も見える。お酒を飲みすぎて、友人におんぶされている、なんて人も見かけた。もう、そんな時間だ。


 焼きそばの屋台の後、春くん(A)に引っ張られてイカ焼きを買ったり、みんなでそれぞれくじを引いたり、いつの間にかりんご飴を買っていた春くん(B)から、一口貰ったりなんてことをした。お腹もいっぱいになったし、たくさん話もできた。いよいよ解散の時間かな。全員がそう思いだした時のこと。


B「ねぇ、あそこにいる女の子。迷子じゃない?」


 未だにりんご飴の棒を片手に持っている春くん(B)が、道路を挟んだ向かい側、電柱のすぐ側を指さした。人通りはまだまだあったので、最初は女の子の姿なんて一切見えなかったけど、よく見たら確かに女の子がいた。


 一見、側に大人の姿はない。泣いてはないみたいだけど、小学生中学年くらいに背が低くて、2人で黙々と綿あめを食べていた。


C「独りぼっちだね……。あんなに小さいのに、大丈夫かな……」

A「でも泣いてねぇし綿あめ食ってるし、親が買いに行ってる間待ってるだけなんじゃねぇ?」

B「その可能性も否定できないけど……ちょっと様子見てみよう」


 春くん(B)の言葉に僕は頷いた。同じように少し気になるのか、春くん(A)もその後は何も言わないで、僕たちの側にある電柱にもたれかかった。


 そうしてしばらくその女の子の様子を見ていたけど、保護者らしい人影は一度も側に現れなかった。綿あめを食べ終わって、満足げに1人で歩き出した女の子に、春くん(B)がいち早く反応した。眠いのか、目を擦っている春くん(A)と、後に続く。


B「ねえ君。お母さんとか、お父さんは?」

D「……は、お前だれ」

B「俺は佐藤春(B)。突然ごめんね、ずっと1人でいたから心配で」

D「ふーん」


 可愛らしい、ツインテールで白いワンピースの女の子。近くで見ると、より小柄に思える女の子は、訝し気に僕たち3人の顔を見る。その態度に少々驚かされながら、僕と春くん(A)も続けて自己紹介をした。


D「佐藤春(B)と、佐藤春(C)と、佐藤春(A)ね。覚えた」

B「ねえ、君の名前は?」

D「私は……佐藤春(D)。お父さんとかお母さんはいない。1人で来た」

B「1人で!? ……ねぇ春たち(A・C)、後30分くらい時間ある?」


 振り向いた春くん(B)に合わせて、まだ眠そうな春くん(A)に目を合わせる。僕は家から近いし、2人が大丈夫なら大丈夫だ。頭をぽりぽり掻いて、難しそうな顔をする春くん(A)だったけど、春くん(B)の視線に負けたのか、「親に電話してくる」とその場を離れた。


B「1人じゃ危ないし、俺らと一緒に回らない?」

D「え、遊んでくれるの?」

B「うーん、遊ぶというより……。そうだね、俺らと遊ぼう」

D「やったぁ! 1人じゃ売ってくれない屋台もあったから困ってたんだ!」

B「その代わり、30分だけね。もう夜遅いから、そしたら帰るんだよ」


 女の子の態度が随分変わった。年相応になったというか、無邪気に返事をした。そこに、電話を終えた春くん(A)が戻ってきて、くしゃっとした笑顔で、手で丸を作った。


 僕たちは十分に屋台を巡ったので、残り30分ほどは女の子が主導だった。りんご飴とかお好み焼きとか、いろいろ食べる女の子に、春くん(A)が思わず笑い出す。


A「お前、よく食うなぁー!」

D「む、良いでしょ。お腹空いてたの!」

A「別に悪いなんて言ってねーよ。見た目に反してよく食うなって思っただけだよ!」

B「春(A)。女の子相手に、そんなこと言ったらダメだよ」


 ほっぺを膨らませても尚、食べることは止めない女の子。春くん(B)は制してたけど、僕も確かに、よく食べるなぁって思う。というより、心からお祭りを楽しんでいる気がする。


C「春ちゃん(D)は、お祭りが好き……なの?」

D「ほう! おあうり、んい!」

A「ちゃんと口の中のもん、食い終わってから喋れ」

D「……お祭り! だーいすき!」


 春くん(A)に指摘されても、嬉しそうに答えてくれた。驚くくらいに満面の笑みだ。


C「そっか。じゃ、じゃあ1人でお祭り来ちゃっても仕方ないね……?」

B「とはいえ、こんな時間に1人は危ないよ」


 さっきは答えてくれたのに、次の僕と春くん(B)の言葉は聞こえていないみたい。僕たちに目を向ける素振りすらせずに、また口いっぱいに食べ物を頬張っていた。





B「春ちゃん(D)、そろそろ約束の時間だよ」

A「そーだそーだ。お子ちゃまは寝る時間だよー!」


 春ちゃん(D)と大分仲良くなった僕たち。春くん(B)が伝えた制限時間の、30分は間もなく迎えようとしていた。馬鹿にした春くん(A)のお腹を、口をとんがらせて殴ってから、春ちゃん(D)は元気よく返事をした。


D「ねー、帰り送ってよー!」


 このまま解散になると思ったけど、春ちゃん(D)が春くん(B)にすり寄るようにおねだりをした。僕と春くん(A)には甘えないけど、春くん(B)には子供らしく甘える。すると春くん(B)が、珍しく困ったような表情で僕たちを見てきた。


B「2人とも、時間やばいでしょ。俺が送るから、2人は先帰ってて良いよ」

D「やーだー! みんなで送ってよー!」

B「そうは言っても、春(A)も春(B)も、春ちゃん(D)とおんなじで帰らなきゃいけない時間なんだ。だから、ね?」

D「やだやーだー! 歩いてすぐそこだから、ねぇ、お願いー!」


 いつもはあまり表情の変わらない春くん(B)だけど、これには流石に困惑していた。どうしよう、と春くん(A)に視線を向けると、春くん(A)も同じ目で僕を見ていた。時間がやばいのは、僕と春くん(A)だけじゃなくて、春くん(B)も同じ筈だ。自分が送るって言ってるけど、そしたらどう考えても春くん(B)の帰りだけ遅くなってしまう。


C「ね、ねぇ……。僕は大丈夫だから、一緒に送るよ……!」

A「俺も。別にちょっとくらいなら大丈夫だろ!」

B「そっか、わかった。ごめん、ありがとう」


 やったーと大喜びの春ちゃん(D)。反対に、ほっとしたような顔をしている春くん(B)は、僕と春くん(A)に申し訳なさそうに会釈をしてきた。それに返すように、に、って笑って親指を立てる春くん(A)。僕も真似して、親指を立てて笑ってみた。


 春ちゃん(D)と手を繋ぐ春くん(B)、その2人を前にして、僕と春くん(A)が歩く。「春(B)って、子どもの扱いうめーよな」なんて小声で話しかけられたりして、前は前で、後ろは後ろでそれぞれ会話をしていた。


 家は近くらしいのだけど、あまり人通りのない道を進んでいく。街灯がゆらゆら夜道を照らしている、不気味な道ばかりだ。どんどん民家の数も減ってきて、何度か春ちゃん(D)に家の場所を訪ねたけど、確かにこっちで合っているらしい。


 そして徒歩約10分。春ちゃん(D)が立ち止まって見上げたのは、大木に隠れるようにひっそりとした、中くらいの神社だった。


B「どうしたの? 神社に何か用があった?」

D「うん。ここ私の家!」


 神社を真っすぐ見つめている春ちゃん(D)。僕たちはみんなぽかんとした表情で、次の春ちゃん(D)の言葉を待った。


D「あのね、隠しててごめんなさい。私、ここの神社に住んでる……えっと、みんなから言うと、神様です」

A「はぁ!? 神ぃ!?」

D「お祭りの日だけね、こうして人間の姿で過ごしてるの。でもいつも1人だったから、一緒に遊んでくれて嬉しかった。ありがとう!」


 まさに信じられない、という表情の春くん(A)と、こんな時でも思ったより表情の変わってなかった春くん(B)。今、僕はどんな顔をしてるのか分からないけど、頭が追い付いていない僕はきっと、間抜けな顔をしているに違いない。


D「じゃあ、私はもう帰るね! 今日は本当にありがとう!」


 えっ、と反応する瞬間に、春ちゃん(D)の右手首についていた何の変哲もないブレスレットが、眩く光りだす。僕たちがいるところだけ、静かに風が吹いて、春ちゃん(D)のワンピースが涼し気に揺れた。

 心なしか、風向きは神社に吸い込まれるように思える。きっとまた会えるような気がするし、なんだか会えないような気もして、少しだけ寂しくなった。


A「俺らも楽しかったぞー! また来年な!」

B「こちらこそありがとう。来年も会えたら、また声かけるね」

C「ぼ、僕も楽しかったよ……ありがとう!」


 春くん(A)を筆頭に、順番に声をかけていく。もう目を開けていることが苦しくなってきたとき、右手を神社のほうへ伸ばした春ちゃん(D)は、もう何も言ってはくれなかった。


 だけど最後に、心底幸せそうな笑顔を見せてくれた。

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