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微ノ怪

妖しい瞳の100回 拍手記念です。

軽い内容なので、気軽に読んで下されば幸いです。


「お前は可愛げが無いカナ」


「え?」


 いきなり言われて傾けようとしていた徳利を止める。

 怒っているのかと鬼さんの目を見るが、ぼーっとしたような顔で遠くの常闇の空を眺めていた。


「なんですか、いきなり」


 突っかかってくるのは別に珍しいことでもない。

 嫌味や皮肉だって日常茶飯事だ。

 ただ唐突すぎたり、今みたいにどこか上の空だと少し心配になってくる。……主に、自分の身が。


「イヤ何、別に媚びるワケでも無いが、もうチョイ俺に懐いてくれても良いダロウに」


 あぁ~……懐く、ね。

 要するにわたしが鬼さんに、犬とか猫みたいに甘えて欲しいとか、そういうことだ。


 そういえばここ最近そんな話も、そんな空気もなかったから、たまにこういう事も言ってくるのを忘れていた。


「鬼さんってば。わたしは鬼さんに感謝してるし、充分甘えさせてもらってますよ」


 笑いながら言って徳利を傾ける。

 朱色の盃に甘酒みたいな白く濁った液体が注がれる。


「食べ物だって、着るものだって、寝るところだって。全部良くしてくれているじゃないですか」


 籠は防犯上の意味も兼ねて相変わらずそこで寝ているけれど、それ以上広いところで寝るのも嫌だし、今更別に部屋を用意してもらうのも気が引けた。


 あれだけ出たかった鳥籠なのに。

 慣れって怖い……。


「鈴音は本当に分かって無いカナ」


 はぁ~っと深く溜息を吐いて一気にお酒をあおった。

 太い首がゴクリを動く。


「うーんそれじゃあ、鬼さんの言う甘えるってどんなものですか? 具体的にこうしてみてって、何か教えて下さいよ」


 察して欲しい的な言い方をされたって分からない。

 勿論、出来そうもなかったり、生理的に無理なものはハッキリお断りするつもりだ。


「そうだナァ~……」


 そう言って首を傾げると、そのままゴロリと寝そべって、頭をわたしの膝の上に置いた。


うぶな鈴音に出来そうなモノだというと……何だろうナァ」


 今の状態だと、逆に鬼さんがわたしに甘えている格好になっている。そのことに気づいていないのかな。


「思いつきませんか?」


 中身が空になった徳利を脇に置いて、垂れた髪を耳にかける。

 鬼さんを見下ろすと、気怠い紅が二つ煌めいていた。ぼんやりとして、というより退屈そうな表情だ。


「お! そうダ」


「何か思いついたんですか?」


 急にパッと目を輝かせたかと思ったら、わたしは息つく間もなく引っ張られて、鬼さんの胸に激突した。

 

「これでドウダ?」


 鬼さんの肌蹴た胸板に頬がぺったりと引っ付く。今ので顔潰れた。

 色々な意味での衝撃にわたしが動けないでいると、長い脚がわたしの体を挟み込めば、わたしは鬼さんの体の上に倒れ込むような形になった。


「ナァどうダ?」


「ど、どうって……」


「コレならお前も怖くないダロウ? いつもお前は俺に組み敷かれるのを怖がっていタからナ。逆なら恐ろシクあるまイ?」


 おそらく得意満面にして、牙を覗かせながら笑っているであろう鬼さんの顔が頭に浮かぶ。


 いやそれは確かに、そういう考えも有りかと思うけれど。これはこれで恥ずかしいんですが……。

 ていうか、頭と背中に手を置かれて固定されたら動けない。あと顔半分、きっとお饅頭みたいに潰れてる。


「鬼さんちょっと離れても良いですか?」


「ナンでだ? コレも怖いのカ?」


 不満そうな声に、困ったなと内心げんなりしつつも、わたしは両手を鬼さんの体に添えた。


「怖くは無いんですけれど、その……」


「おう」


「この体勢はちょっと」


「ちょっとナンダ?」


 グイグイと手で体を押してみるもビクともしない。

 鬼さんの体がやっぱり逞しいんだなと再確認出来るだけで、この状況が変わるわけではなかった。

 このままだと顔がしばらく潰れたままになっちゃう……。


「ナンダ鈴音。勿体ぶらずにハッキリと言え」


「まず頭を離してください! 喋りづらいです!」


 抗議してやっと頭が解放されて顔を上げるが、今度は腰をがっちりホールドされて、結局鬼さんの上から逃れられなかった。

 顔はこれでなんとかなったけれど、まだ解決したわけじゃない。腰を放して欲しい。


「放してやったゾ。何が恐ろしいンダ?」


「いやですから腰を――」


 言いかけて部屋の奥に目をやる。

 そこに大きめの姿見があって、鏡に映った自分と目が合った。

 そして自分の今の姿勢が、他の目から見るとどう映るのかという、余計な情報まで頭に入ってきた。


「え、と、あの」


 鬼さんはややムッとした顔のままわたしの方を見て、わたしはというと、そんな鬼さんに向かい合う格好で跨るように座っていて。


「……あーのー、ですから……」


 言いつつも固まるわたしの腰を、鬼さんがしっかりと両手で掴んでいて。鬼さんは着崩れて開いた胸元から厚い胸板が見えていて。


「鈴音なんなんダ。さっさと言わないカナ」


 こ……これはハッキリ言うなら……素直に言うとするなら……鬼さんが怒り出す前になんとか……。


「あ、の、は、恥ずかしいから、降りて、良い、です、か」


 絞った雑巾が引きちぎれるくらい声を絞り出して言ったつもりだったが、思った以上に本当に小さな声しか出てこなかった。


 い、今の聞こえたかな。


 鏡から目を逸らしても自分の顔が真っ赤になったのが分かった。

 顔から絶対火が出てる。だって手も腕も真っ赤なんだから、絶対顔なんてもっと赤いに違いない!


「恥ずかシイ?」


 あ、よかった聞こえてた。


 ……じゃなくって!


 いやもうなんで恥ずかしいのか自分でもよく分からないけど、なんだかこの体勢すっごく恥ずかしい。

 これいま誰かに見られたりしたら、しばらくわたしは引き籠もりになる! 絶対になる! というか、なる!

 

 居た堪れなくなって思わず両肩から垂れた髪を両手で掴んで、顔に引き寄せて俯いた。


 こんな事して全く意味なんて無いんだろうけれど、(だって前髪じゃないから顔隠れるわけがないし)人間パニックになると変な行動してしまうというし、きっとこれもそれだ。うん。そうなんだ。間違いない。よくわかりました。本当にありがとうございました!


 

 脳内でひとりパニックのもと叫びながら走り回っていると、ギュッと強く抱きしめられた。

 そこでやっとわたしは現実に意識を戻した。


「鈴音」


「へ!?……あ! は、はい」


「悪かっタ」


 半分意識が飛びそうになっているわたしの頭を、鬼さんが顔をすり寄せて、少し離れたと思ったら額に顔を近づけた。


「お前は本当に可愛いカナ」


 とても優しくて、触れているかどうか分からないくらいの、それくらい微かな唇の感触が額に残った。


「あ……」


 反射的に顔を上げると、少し皮肉げに片眉を上げて微笑む鬼さんが、わたしを見下ろして口端を上げていた。


「初々シクて美味ソウで」


 掴んでいた髪を鬼さんの大きな手がすくうと、そこにも唇を落として妖しく笑った。 


「本当に甘い、俺の鈴音カナ」




ありがとうございました。

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