8.魔薬師の調剤と、運命を変えるポーション
「クレアちゃん、この間は火傷薬ありがとね。とってもよく効いたわ」
「良かったです。傷跡も残らなそうですね!」
「すいませーん、解熱剤ください!子どもが高熱だしちゃって!!」
「確か4歳でしたよね?じゃあこれを飲ませてあげてくださいね!ポーションはありますか?
熱が下がったら飲ませてあげた方がいいと思いますよ」
「あぁ、そうねじゃあポーションもお願い。クレアさんの薬は飲みやすいから助かるよ」
「クレアー、鎮痛剤もらえる?もう生理痛で死にそう……」
「毎回辛そうだね。はい、とりあえず3日分でいいかな?」
「ありがとう~!」
私は今、生まれ育った町の小さな薬局で働いている。
お客さんはほとんどが小さいころからの知り合いで、私が魔薬師として働き始めると「夢がかなってよかったね」と喜んでくれていた。
ルカが王立騎士団にいるのなら、私も王都で就職しようかなと思っていたけれど残念なことに就職試験に通らなかった。
もともと求人も少なかったのだけれど、私が王宮内薬局とかそういう高望みをしすぎたせいもあってだめだった。
世間の現実を知った私は、ルカのすごさに改めて気づかされたのだった。
仕方なく、万が一ルカがこの町に帰ってきた時すぐわかるように、昔なじみの薬局に就職した。彼がこの町に戻ってくることなんてないだろうと思いつつ。
ルカに私の薬が届けられないのは残念だけど、町のみんなに元気と笑顔が戻るのが嬉しくて、私はこの仕事に打ち込んでいた。
閉店後、おじいちゃんオーナーが申し訳なさそうに言った。
「クレアちゃん、申し訳ないんだけどポーションを10本ほど作ってもらえないかな?」
「わかりました。でも珍しいですね」
珍しく注文が入ったのかなと驚いてしまう。
薬局としては正しい姿だというのにね。
「最近物騒になってるだろう?今朝も新聞に乗っていたが、近くで魔物の被害が出ているみたいなんだ。心配だからポーションを備えておきたい、という申し出が何件かあったんだよ」
「そういえば、私も何人かポーションの在庫聞かれました」
「そうかい。それじゃあもう少し多めに作っておいてもらおうかな」
「わかりました」
この小さな薬局には調剤室がない。店の片隅に調剤用の狭いスペースがあるだけだ。
そもそも平和な町なので、ポーションはそこまで売れないのである。
どちらかというと一般的な傷薬や風邪薬、湿布の方が出る。
それも平和の証拠だ。
私は棚から銀色の調剤ケースをそっと取り出した。
次に、親指の爪ほどの透明の丸いカプセルが20個ほど収められている卵パックのようなケースを取り出す。
「カプセル異常なし」
銀色のケースにカプセルの入ったケースをセットすると、ぱちりとロックをかけてからふぅっと息を整えた。
そして胸ポケットからラムネの包みを一つ取り出すと口に放り込む。
これは昔ルカと一緒に『おくすりラムネ』と呼んでよく食べていたものだ。
ただのお菓子だけれど、今の私にとっては調剤前のお守りのようなものである。
銀色のケースの上蓋のまんなかには、こぶしサイズの青いガラス玉のようなものが埋め込まれている。さらに、上蓋の右下には先ほどよりも一回り小さなサイズの青いガラス玉がある。この二つのガラス玉をつなぐように溝が入っている。
小さいほうのガラス玉に手をかざすと、私はそっと魔力を流し込む。
厳密にはガラス玉ではなく、魔力を吸い取り中のカプセルへと充填させる魔道具らしい。ガラス玉が青から黄色に変われば充填完了だ。
私は黄色く光りだしたガラス玉を見つめながら慎重に魔力を調整する。
少しタイミングがずれると、中のカプセルに魔力がうまく入らないことがあるのだ。
カプセルに入る魔力が少ないと薬として効果のないものができてしまうし、多すぎるとカプセルがわれてしまったりする。
魔薬師になって3年たつが、ようやくケース内全てのカプセルを完璧に充填させることができるようになった。
「よし、できた」
ケースのふたを開けると、魔力の充填されたカプセルが虹のようにぴかぴかと光っていた。
これをポーション用の精製水が入った瓶に入れれば完成だ。
私はカプセル一つをポーション精製水の瓶に入れて蓋をする。
カプセルは虹色にしゅわしゅわと発泡しそのまま精製水に溶け込んだ。
これで1本目の出来上がり。
この町でポーションが売れるようになってしまったら、ちょっと悲しいなと思いつつ私は残りのポーションを作り始めた。
翌日、このポーションが私やルカの運命を変えるとは思ってもみなかった。
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