表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/30

5.突然の別れと、一粒のおくすりラムネ

 ルカのおばあさまが亡くなったのは、私が悪夢に飛び起きた日の翌日。

 真夜中だった。


 そろそろ寝ようかなと思っていた私は、やけに外が騒がしいことに気づいた。

 部屋の窓から外を見ると、ルカの家に数名の人が入っていく。

 ……お医者さん?


 ドキリとして外を見つめていると、私の母親も家から出ていくのが見えた。

 なんだろう?何があったのかな?


 不安になった私はカーディガンを羽織ると部屋を飛び出した。




 ルカの家の扉はあいていた。私はそっと中の様子を伺う。

 人の話し声がする。 


「ルカ?……お母さん??」


 そっと声をかけてみると、母親がやってきた。


「クレア!あんた起きてたの?」

「うん。どうしたの?何かあったの??」

「……ルカちゃんのおばあさま、亡くなったの」

「!」


 一気に体が冷えた気がした。

 いつもにこにこしていたルカのおばあさまが?


「最近少し体調を崩していたみたいなんだけどね、夜になって容体が急変したんですって」

「……ルカは?」

「うん、しっかりしてるわ。今お医者様とお話をしている」


 母はそう言って奥の部屋に戻ろうとする。


「お母さん、私も……」

「明日にしましょう。あなたに今できることはなにもないわ」

「……わかった」


 母に促され私はルカの家を後にする。

 自分の部屋に戻ると、私は窓からもう一度ルカの家を見た。


 ルカのおばあさまが亡くなった……。

 体調が悪かったなんてルカは全く言ってなかったのに。


 ……これからどうするんだろう?

 ルカはおばあさまと二人で暮らしていた。

 他に親戚もいないようだし、一人になっちゃったんじゃないのかな。

 ……この先どうなるんだろう? 


 なによりも、肉親をなくすという悲しみは計り知れない。

 ルカのことを想うと、私も涙がはらはらと流れるのだった。




 眠れないまま朝を迎えると、リビングには母がいた。

 彼女も眠れなかったらしい。


「お母さん、ルカどうだった?」

「あぁ、おはようクレア。ルカちゃんね、もう色々と決めていたみたいなの」

「え?」


 母はため息をつく。


「おばあさまがなくなった時に自分がどうするか、もうずっと前から決めていたみたい。

 明日引っ越すって」

「引っ越す!?」


 驚く私に母はうなずいた。


「うん。学校をやめて仕事をするみたいよ」

「え、でも家は?」

「寮に入るみたい。詳しくは教えてくれなかったけれどね」

「……そんな。明日?……いなくなるの?」


 頭が真っ白になる私に母は続ける。


「昨日ね、ルカちゃんに言ったの。うちに来てもらってもいいのよって。

 ルカちゃんがいいなら、気にしないでうちにおいでって。でも大丈夫だっていうの。

 せめて学校卒業するまではって説得したんだけどねぇ」


 母はそう言って目をおさえた。


「あの子、変なところ頑固よねぇ。しっかりしてるのは良いことだけど、あれじゃあ悲しむことだってできてないわよ」

「……ルカのところ、行ってくる」


 母はしばらく考えていたようだが、小さくうなずいた。

 そして紙袋にロールパンやらクッキーやらりんごやらをぽんぽん入れる。


「これ渡してあげて」


 めちゃくちゃに入った紙袋を受け取ると、私はルカの家へ向かった。




 ********




「おはよう、ルカ」


 家のドアをノックしても返事がない。

 ドアノブを回すと、鍵はかかっていないようでしずかにドアが開いた。


「ルカ? 入ってもいい?」


 中の様子をうかがうと、しんとしている。

 もしかして寝てるかな?

 また後でにしたほうがいいかも。


 そう思った時だった。


「……どうぞ」


 奥からルカの声がした。

 私は部屋に入っていくと、ちいさなダイニングテーブルに一人座っているルカがいた。


「おはよう、クレア」


 ちょっぴりぼんやりした様子のルカは私をみると小さく微笑んだ。

 その顔に胸が痛くなる。


「おはよう。ルカ……聞いたよ。おばあさまのこと」

「うん、昨日の夜中も来てくれたみたいだったもんね。ありがとう」

「ううん、私はべつに……」


 うまく答えられない。

 私は入口に立ち尽くしたままルカを見る。


「おばあちゃん、死んじゃったんだ。昨日の夜。今月からずっと体調を崩していたから覚悟はしていたんだけどね」


 ルカはそう言って息をはいた。


「でもいざその時が来ると、やっぱり……ね」


 苦しそうに言うルカに私も悲しくなる。

 何を言っていいのかもわからないし、何も言えない。


「俺の実習が終わるまで……待っててくれたみたいだ……」

「ルカのこと大事にしてくれてたからね……」


 そうか。そういうのもあってルカは後悔しないようにっていうことを意識していたんだ。


 しばらく黙り込む私達。

 ルカが心配できたけれど、私ここにいたら迷惑かもしれない。


「あの……ルカ。これお母さんがルカに食べてって言ってたの。うちにあったやつをぽんぽん入れてきただけだからちょっと微妙なんだけど……

 あぁもうほんとお母さん雑すぎ!パンがつぶれちゃいそうだよ」


 パンにリンゴがどかんとのっかっていたので、私は紙袋の中身を一度すべて取り出す。

 ロールパン、リンゴ、クッキー、チョコレート、キャンディ……

 ばらばらとお菓子が出てくる中でルカがその中の一つに目をとめた。


「クレア。これ、もらっていい?」


 そう言って手を伸ばしたのは、一粒のラムネだった。


「……懐かしい……」

「おくすりラムネ、だね」


「食べると元気が出る」と言って子どものころ二人でよく食べたあのラムネだ。

 包みを開き、一粒口に入れたとたんルカが固まった。

 そして、両手で顔を覆ってしまった。


「……っ……」


 嗚咽するルカを見るのは初めてで、私も涙が流れる。

 何も言えずルカの背中を撫でることしかできなかった。

お読みいただきありがとうございます。 

画面下にある【ブックマークに追加】や、評価の【☆☆☆☆☆】をぽちっと押して応援していただけると、毎日の更新の大きな励みになります!よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ