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26.オーウェン様のありがたいお話

「あれ?もしかして今日休み?」


 せっかく時間作ったのに、と言いながらカウンターにやってきた彼。


「今お昼休みなんです」


 と答えると、彼は「そっか。よかった」と言ってカウンターのスツールに腰掛けた。

 座るんだ?今昼休みだって言いましたよね?


「この時間は営業してないんです」


 もう一度ちゃんと伝えると、彼はうなずいた。


「今聞いた。でもさ、俺今しか空き時間がないんだ」

「……そう言われましても……」


 困り果てる私をしばらく見ていたらしい彼が言った。


「あんたずいぶん落ち込んでるなー。なんかヘマでもしたか?」

「……しました」


 突然の言葉だったけれど素直に認めた。

 すると彼は面白そうに「へぇ」と言う。


「私、クビになるかもしれません」

「え、もう?」


 さすがに早くね?と笑う彼にため息をつく。

 ほぼ初対面なのに、フランクすぎて傷つくんですけど。


「あんたがクビになったら、俺の専属魔薬師として雇ってやるよ」

「……エーテルばっかり作らされそうですね」

「そりゃそうだろ。魔術師だからな」


 はぁ、とため息をつくと、彼は言った。


「あんたがクビになる前に、魔道具部門の奴らがクビになるって」


「……なんですか?」


「こないだ、王子が魔物に襲われたらしいんだけどさ。それ、演習場の魔道具の故障が原因らしいんだ」


「そうだったんですか」


 確かにどこから来たのかと思ったのよね。あんな大きな魔物。


「魔物を召喚して実践訓練ができる道具なんだけど、けっこうとんでもないもの出したらしいな」


 俺、王都の北に出てたから全然知らなかったけど、と言いながら彼は私を見た。


「……もしかしてその場にいたりした?クビとかと関係ある?」

「はい。しっかりと」


 うなずく私に彼は呆れたような顔をした。


「あんた、すごいよなぁ。引きが強い!」


「あんまりうれしくないです」


「まぁ、意外とクビにはならねぇもんだぞ?俺を見てればわかるだろ?」


「……わかる気はします」


 あなたのことはよくわからないけど、だいぶ破天荒そうですもんね。

 人のこと言えないけど。


「でも、たぶんあなたってすごい人ですよね?」


「まぁな。否定はしない」


「ですよね。……私みたいに普通の一般庶民はすぐクビになっちゃうんですよ」


 そう言ってカウンターに突っ伏す。

 一か月も働かずにクビとかどうなの?私、やっぱりほんとダメダメじゃない。


「……一般庶民が王子に薬作るかよ」


 その言葉に顔を上げると、彼は呆れたように頬杖をついてこちらを見ていた。


「お前もう少し自分を見てみたら?能力がなかったらこんなとこいねぇぞ、普通」


「……そうですかね」


「ま、ここで振り落とされるかもしれないけどな」


「ですよねぇ~……」


 慰めてくれるのかと思った私がばかだった。

 そんなタイプには到底見えないものね。

 整った顔してるけど、どちらかというと悪役顔っぽいし。


「じゃあ最後かもしれないし、エーテルくれよ。あんたの作ったやつ3本ね」


 彼はそう言ってエーテル3本分のお金をカウンターに置いた。


「……すみません、今営業時間外なんで受け付けられません。……勝手なことしたらホントにクビになってしまいます」


「あー……じゃあ注文票にかいてやるよ。一言添えて」


「え?」


 彼はカウンターに置いてあったペンと注文票にさらさらと文字を書き込む。


「ほら、これで文句は言わせねぇから」



 そう言って差し出された注文票に目を落とす。


【氏名:オーウェン・ブルー】

 へぇ、そういう名前なんだ~。


【所属:魔術師団副団長】

 ふ、副団長――!?


【品名:エーテル3本】

 演習場に置いてあるのに……。


【備考欄:営業時間外に無理やり売らせた】

 ……。



「……副団長さん、でしたか……」

「おう。しっかり敬えよ」

「……エーテル、ご用意します」

「そっちの棚の右から3,4,5本があんたが作ったやつだから」

「……わかりました」


 私は戸棚から指定されたエーテルを取り出した。

 紙袋にエーテルをいれると、彼に差し出す。


「どうして私の作ったものだってわかるんですか?」


 不思議に思っていたことをふときいてみる。

 すると彼は言った。


「魔力の色」


 魔力の色?

 私はエーテルの瓶をじぃっと見つめる。

 無色透明にみえるけど。


「液体の色じゃなくて魔力の色。そのエーテルからあんたと同じ魔力の色がうっすら出てんの。あんたの色、知りたい?」


「知りたいです。魔力が見えるなんて初めて聞きました」


「だろうなぁ。俺も同業者に話してわかってもらったことないんだ」


 オーウェン様は自慢するでもなく、ごく当たり前のように言った。


「あんたは白。結構珍しいぞ」


「そうなんですか」


「眼鏡の人は紫と黄色。2色っていうのもかなり珍しい。っていうか変態だな。色合い的にも」


「へ、変態?」


 眼鏡の人ってことは薬局長、やはり普通ではなかったのね。


「人によって少しずつ色が違うし、光り方も違う。魔力が多ければ多いほど強く光るんだ」

「へぇ。そうなんですね」


 知らなかった。


「でも疲れませんか?人の多い所だと光があちこちに見えるってことですよね?」

「そうだなぁ」


 オーウェン様はうーん、と宙を見る。


「気づいた時には見えていたから、こういうもんだと思ってる。

 まぁ最近は視覚に制御魔法をかけてるかな」


「制御魔法?」


「魔力が見えないように色々試してみたらできた。オンオフも光の見え方の強弱も自在で結構便利なんだ」


 この人、思ってた以上にすごい人なのでは……?

 唖然とする私。


「それでも鬱陶しいときは外に出ない」

「……天才も大変ですね」

「だろ?しかもひがまれるし、普通が一番だ」


 そう言いながら、買ったばかりのエーテルを取り出すとぐいっと飲んだ。


「あー、あんたのエーテルがやっぱり一番うまいよな」

「ここ、飲み屋じゃないんです」

「薬屋だろ?知ってる知ってる。俺飲めないし」

「え。飲みそうなのに」

「よく言われる」


 オーウェン様は頬杖をついて、空になったエーテルの瓶をしばらく見つめていた。

 静まり返る空間にちょっと戸惑ったその時だった。



「……あんたさぁ、あいつの呪い解きに来たの?」


 すっと紫色の瞳がこちらを捉える。

 動いたのは彼の視線だけなのに、私はまるで捕まえられたかのように動けなかった。



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