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25. 私のルール違反と幼馴染のついた嘘

 トーマ王子とのピクニックと、ルカの呪いの力を見たあの日から3日後のことだった。


「クレアさん、ちょっといいですか?」


 薬局長が事務所から私を呼び出した。

 ……ちょっと嫌な予感。

 ドキドキしながら事務所へ入る。


「クレアさん、トーマ王子以外に特別調剤しましたか?」

「……特別調剤?」


 首をかしげる私。


「特別調剤というのは、この薬局の調剤室以外で薬を作ることです」

「トーマ王子以外に調剤……」


 してないよなぁ、と思いながらうーんと考えていると、薬局長が続けた。


「例えば、自分用に調剤したものを城内の誰かに使っても、特別調剤に当たります」

「え……」


 その言葉に固まった。

 ……自分用に調剤したものをお城の誰かに使う?

 それってこの間、トーマ王子と魔物に襲われた時のこと?

 ルカに自分用のミニポーションと気付け薬とおくすりラムネを渡したけど……。



「……した、かもしれないです」

「相手は騎士団員ですよね?」


 丸眼鏡越しにこちらをみる彼の内面は、まるでわからない。


「……まずかったですか?」


 怖くなってそう聞いた私に、薬局長はいつも通りの様子で答える。


「まぁ、状況が状況だったようなので、そこまで気にすることはないと思うんですけどね……」


 そこで考え込む薬局長に、思わず身を乗り出す。


「なんですか?やっぱりまずいですか?」

「市販品としては売れないものを渡してしまったのが、ちょっとまずかったですね」


 彼の言葉に頭が真っ白になる。


「彼の体調が悪くなったんですか!?」

「いや、全く。むしろ回復が早かったみたいなんですけどね」


 その言葉にホッと胸をなでおろす。


「でも……ちょっとルール違反になっちゃうんですよね」

「……そうですよね」


 薬に関する決まりは厳しい。

 自分で作って自分で使う分には何があっても自己責任だけれど、それを他人に渡すとなると話は変わってくる。


「申し訳ありませんでした」


 頭を下げることしかできない。


 ルカは今や国の英雄。隣に住んでいた幼馴染や学生などではないのだ。

 自分の浅はかさに目の前がまっくらになる。

 これは……私クビになるかもしれない。


「あなたがしたことはルール違反かもしれませんが、人を助けたことには変わりませんよ。それにね、騎士団員が言っているんです」


 顔を上げると彼は微笑んだ。


「自分が頼み込んで薬を譲ってもらったって」

「え……?」

「あなたは拒否した。それを無理に譲ってもらったといってます」


 その言葉に涙がじわりと溢れてきた。

 ……私が無理に渡したのに……ルカ……。


「あの力を使った後だったのでしょう?辻褄は合います」


 薬局長の言葉に違和感を感じた私は、じっと彼を見つめる。


「……知ってるんですか?彼のこと」

「えぇ。僕、満月の英雄の専属魔薬師ですからね」


 にこりと微笑む薬局長に、私は脱力した。

 なんで思い浮かばなかったんだろう。

 魔薬師のトップが英雄につくことくらい、考えてみたらすぐわかるのに。


「……ルカくんは、あなたのことをとても大事にしていますね」


 薬局長の言葉に、涙が止まらなくなってしまった。

 ルカへの申し訳なさと、感謝と、あとはなんだかよくわからないけれど胸がいっぱいになってしまったのだった。



 箱ティッシュを私に差し出してくれていた薬局長が、しばらくすると口を開いた。


「なんにせよ、この件で話し合いがあるので僕は行ってきます。

 たぶん大丈夫だと思いますのでご心配なく」

「……ご迷惑をおかけして本当にすみません」

「いいえ~。クレアさんは、おっとり見えて実は破天荒であることをうっかり忘れていた僕のミスです」


 その言葉に思わず彼を見ると、薬局長がにこりと笑った。


「ではお店の方おねがいしますね」


 そう言って薬局を出て行ったのだった。





 ただいま、薬局は昼休み。一度閉めることになっているので、がらんとして誰もいない。


「はぁ~……どうしよう」


 迷惑をかけてしまった。ルカにも薬局長にも。

 これ、もしもクビになってしまったら私はどうしたらいいんだろう?

 ルカの呪いのことも、仕事のことも、色々中途半端になってしまう。


「あぁ~~~。ほんと私ってダメだなぁ」


 カウンターに突っ伏した時だった。


 入口から誰かが入ってきた。

 え、休み時間ですけど?

 外に看板出し忘れたっけ?


「あれ?もしかして今日休み?」


 そんな声とともにカウンターにやってきたのは、あの髪の長い魔術師だった。


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