14.お城と騎士団の眩しさたるや
まず客室へと案内された私は、紅茶をごちそうになった。
メイドさんが淹れてくれた紅茶は美しく輝き、用意されたお菓子はとても美味しそうだった。
しかし、今の私は味わう余裕などまるでない。
目に映るもの全てが豪華絢爛で知らない世界過ぎたのだ。
持っているティーカップも、力加減を間違えたら割れるのではないかという繊細な美しい作りだし、椅子だって座り心地が抜群だし、とてつもなく大きな窓は鏡のようにぴかぴかで、日の光が柔らかく入ってくる。
あげていったらキリがないけれど圧倒的すぎる広い客室の中で、一人身を縮めて紅茶をすすっていた。
すると、ノックとともにメイドさんが部屋に入ってきた。
「失礼いたします。第一騎士団との慰労会に向けて準備をさせていただきます」
「……い、慰労会?準備?」
「あの時はどうもありがとね」くらいの感じで終わると思っていた私は本当にどうかしていた。
そうだよね、王立騎士団(+国王陛下)からの紋章付きの招待状だったのだ。
ちゃんとした会があるに決まっている。
ルカのことばかり考えていたけれど、それだけではなく自分の置かれた状況をまるで把握できていなかったことに愕然とした。
気づいていればきっと辞退していただろう。
あぁ、もう帰りたくなってきた。
そんな私をよそに、メイドさんが着々と準備を始めた。
着の身着のままで来た女であることは、すでに連絡されていたのだろう。
ボーナス払いでも買えないような服がずらりと用意されていた。
メイドさんはその中から私に合うワンピースを見繕って着せ、ヘアスタイルを整え、メイクをし直してくれた。
綺麗になったとか、可愛く見えるとかは別にして、ちゃんとした場にふさわしい自分が鏡の中にいる。
少なくとも数時間前まで『田舎のゆるゆるな古い薬局』にいた女には見えない。
「ありがとうございます」
お礼を言う私を鏡越しに見ながら「渾身の作だわ……」とつぶやいたメイドさんに「え?なんですか?」と聞き返した時だった。
「あ、でもここだ! もっとふわっとした方が癒しの女神らしいですかね!」
そう言って、私の髪の毛に最後まで調整を入れるメイドさんにプロ意識を感じつつ「……癒しの女神ではないんです……」とやんわり訂正を入れておいた。
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案内された談話室の扉があいた瞬間、私は固まった。
談話室って、楽しくお話しするだけのスペースだと思っていたのに違ったのだ。
病院の談話室にしか行ったことのなかった自分が本当に庶民すぎて恥ずかしくなる。
さっきの客室の5倍くらい広いその部屋は、いくつものシャンデリアがキラキラと輝き、見るからにふわっふわな絨毯が敷き詰められ、質の良さが一目でわかるソファやテーブルがセンス良く配置されている。
この時点でもう場違いなのだけれど、一番の「帰りたいポイント」はというと、正装であろう服をピシッと着こなした騎士団員達が整列して私を待ち構えていたのだ。
あぁもうほんとにもう帰っていいですか?
制服マジックもほどほどにしていただきたい。
一般市民には眩しすぎる。
立っているのがやっとの私に気づいたらしい。
一人の騎士が私の前へやってきた。
「お久しぶりですね、ベネット嬢。わざわざお越しいただきありがとうございます」
見あげると、あの時のダンディ騎士がにこやかに私を見ていた。
「……お久しぶりです」
「すみませんね、雁首揃えてこんな大男たちが待っていたら驚きますよね」
「……すみません、ほんとに場違いすぎて……」
気を使ってくれるダンディ騎士の優しさに、私もつい本音がポロリと漏らしてしまう。
もう帰りたいという言葉はなんとか飲み込んだけれど。
「そんなに緊張しないでください。我らはあなたに命を救っていただいたのです。さぁ、どうぞこちらへ」
彼にエスコートされ、私は部屋の中央へと足を踏み入れる。
痛いほどの視線を浴び、心臓がドキドキしすぎておかしなことになる。
ダンディ騎士が私を紹介する。
先日の討伐であーだこーだ、薬が切れた所をあーだこーだ、その場の全員が助かった。
特に瀕死の重傷者への手当がすばらしくてあーだこーだ。
彼女は癒しの女神である―――などなど。
たぶんすごいほめたたえてくれているんだけど、私としてはもういたたまれない。
ほんとに私、普通に調剤しただけなんですよ。
あの場にいたのが別の魔薬師だったとしても同じことをしてますからね?
そんなことを思いながらちらりと視線を上げた時だった。
整列している騎士の中に黒髪のルカがいた。
ばちりと視線が合った瞬間、彼は思いっきり目を背けた。というかもう顔ごとびゅんっと逸らされた。
……うわ、本気で私を避けにでるわけですか。
ダンディ騎士の話も、その場の雰囲気もなんだか遠のく気がした。
そこからはなんだかもうよく覚えていない。
ダンディ騎士からお礼を改めて言われて、私からも一言と言われて(何を言ったのか全然覚えてない)、乾杯したり、お礼の品と言って何か小さな箱をもらったりした。
和やかな雰囲気だったけれど、とにかく早くこの場を去りたい思いでいっぱいだった。
お開きになり、客室に戻ってこられた私はソファに沈み込んだ。
「はーーーーーーーーーーーー」
ながーいため息をついた私はしばらく動けなかった。
特別何かしたわけではないのに、体がものすごく重い。
……ルカ、あれから一度もこちらを見なかったな。
ぼんやりとそんなことを考える。
色々気になることはあるけれど……とりあえず私よく頑張った。
知らない世界でよく頑張ったよ。
自分をそう褒めてうんうんうなずいた。
もし今後、こういう会がありますよってことになったら丁重にお断りしよう。
そして、王家の紋章が入った手紙が万が一届いたらすぐに中身を確認しよう。
そう決意をした。
もうこの手のイベントはないはずだから、私は帰っていいのかしら?
そんなことを思っていたけれど、そうはいかなかった。
メイドさんから、「明日、王宮内薬局の薬局長がお会いしたいそうですよ」と言われ、目の前が真っ暗になる私だった。




