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12.騎士モード全開の幼馴染が迎えに来ました

 ルカと5年ぶりに会ったあの日から10日ほど経った。

 何も連絡はないので、ルカの状況がまるでわからない。


 元気になったかな?

 巫女ってどういうこと?

 なんで黒髪黒目なの?

 これまでなにがあったの?


 とにかく聞きたいことだらけで、ずっとルカのことを考えていた。

 おかげで忘れ物をしたり、人との会話がかみ合わなかったりと、生活に支障が出始めている。


 その日、私は職場である薬局でいつも通りのんびりと仕事をしていた。


 常連のおじいさんにいつもの薬を渡し、おばあさんの孫話を聞き、失恋したから鎮痛剤をくれと頼む友達に近くの飲み屋を勧めたりしていた。


 お客さんはみんな昔からの知り合いという距離感の薬局なのだ。大変にゆるい。

 この職場じゃなかったら、今のぼんやりした私はきっとクビになっただろう。


 そんなゆるゆるな町の薬局に突然豪華な馬車が横付けされた。

 店内のお客様もそれを見てざわつく。


 通りがかりの貴族?こんな場所に??

 期待に添える薬があればいいけど、なんて思っていた。


 しかし馬車から降りてきたのは、なんと王立騎士団の制服を着た黒髪の男性だった。

 彼が薬局のドアからコツコツと入ってくると、小さな街の古い薬局が一気に華やかな空間になる。


 何事かと息をのんで見守ることしかできない、一般人の私達。

 彼はカウンターの中にいた私の前にやってくるとまっすぐにこちらを見た。


「お迎えに上がりました。クレア・ベネット様」


 うやうやしく礼をする彼に私は本気で固まった。

 ……え、えぇともしかしてもなにもこの人って


「……ルカ?」


 本気で戸惑う私を見てルカは、にこりともせずに小さくうなずいた。

 そして私にだけ聞こえるような声でいう。


「勤務中だから騎士っぽくしてみた」

「……本物すぎて洒落にならないんですけど……」


 まさかの言葉に驚く私をよそに、ルカは騎士モードで淡々と話を進める。


「招待状を送らせていただいたのですが、御覧になっておられませんか?」

「……招待状?」


 たぶんこの間のダンディ騎士が言ってた「お礼」の件だと思うけれど、そんなのうちに届いて……


「あ!!!」


 私は大声をあげる。

 そういえば今朝、母にメモやら手紙やらを持たされた。


「クレア、あんた最近ぼんやりしすぎ!!これ、あんた宛にもう3日前から届いてる手紙とか請求書とか全部まとめてここに入れといたからね!振り込み忘れてたなんてことないようにしなさいよ!!!まったく、家だと全然だめなんだから!!」


 私はカウンターの下にしまってあった鞄をごそごそとあさり、まとめられた手紙の束を見る。


「うわ……」


 真っ白い封筒に赤い王立騎士団の紋章がはいった手紙を見つけた時、カウンター越しのルカが「それですね」と冷静に言った。


 思わず彼を見上げると、黒い瞳と視線があう。その淡々とした表情に申し訳なさと情けなさがこみ上げる。


「本日がお約束の日ですので、このままお連れいたします」


 ルカのことばかり考えていた結果失敗し、本人に呆れられることとなってしまった。

 ……あぁ、もう最悪。

 なにがなんだかわからぬまま、私はルカと馬車にのることになってしまった。



 *******



 いったいどうしてこんな状況になっているのやら。

 私は馬車に揺られながら、これまでの出来事を思い返していた。

 そうでもしないと、久しぶり過ぎるルカと二人だけ空間にいるのが耐えられそうもなかったからだ。




 あれから薬局内はちょっとした騒動になった。

「お城からお迎えが来た」「クレアちゃんがお城に嫁入り?」「いえいえ、天国から私にお迎えが来た」というおばあちゃんまで様々だった。


 騒ぎに気づいたおじいちゃんオーナーがやってきて「クレアちゃん、騎士様をお待たせしてはいけないよ」と言って、私はお店をおいだされてしまったのだ。


 なんだかよくわからないままルカの後をついていく。

 まっすぐに伸びた背筋に長い手足。背がすごく伸びたなぁ。

 髪の毛も真っ黒で、後姿だけ見たら全然知らない人みたい。


 でも、顔を見るとやっぱりルカなんだよね。


 そんなことを考えていたら、くるりとルカが振り向いた。

 いつのまにか馬車の前についていたらしい。


「どうぞ」

「え?」


 差し出されたのは手袋をはめた左手。

 意味が分からずに見ていると、ルカが言う。


「段差がありますから」

「あ、ありがとう、ございます……」


 騎士モードのルカにつられてなんとなく敬語になりつつ、彼の手を借りて馬車に乗りこむ。

 ルカの手は私よりも大きな大人の手になっていた。

 手袋ごしだというのになんだかすごくドキドキする。

 ちらりとルカを見ると、彼の瞳は何も映していないようにただどこかを見つめていた。

 これは騎士モードというよりも、今のルカの姿なのかもしれない。なんだか距離を感じて、胸がちくりと痛んだ。




 そして、馬車に乗り込んだ今どうしていいのかわからなくなっていた。

 相変わらず聞きたいことはいっぱいある。


 ケガは治ったの?

 黒髪の英雄ってルカのことだったんだね!

 どうして黒髪にしたの?

 今までどうしていたの?

 どうして連絡をくれなかったの?


 本当にたくさんありすぎて、何から話していいのかわからないのだ。

 そしてなによりもちょっと話しかけづらいというか、距離を感じるというか……。


 目の前のルカが、記憶の中のルカと違いすぎるからかもしれない。

 私が黒髪黒目のルカに慣れていないからなのか、彼が距離を取ろうとしているように感じるからなのか、それすらもわからなくなっていた。


 私は前に座るルカをこっそりと見る。

 っていうかね、さっきから彼は窓の外を見ているだけなんだけど、どうにもこうにも雰囲気がありすぎるんですよ。


 久しぶりに見たルカは、正直言って我が幼馴染ながらイケメンすぎる。

 制服マジックという言葉があるけれど、騎士団の制服ってこんなにも強力な魔法をかけてくるわけね。

 黒を基調とした詰襟のデザインが凛々しさを醸し出している。

 まぁ、ルカの場合元が異次元なんだけども。


 これは王都でもかなりモテているのではないだろうか?

 黒髪の今はなんだかクールビューティー感がすごいけど、金髪に戻したら王子様感がありすぎてやばそうだ。


 はー、もう幼馴染じゃなかったら絶対一緒にいないタイプね。


 ルカのことをヒエラルキーの上位と言っていた母の言葉の意味をしみじみとかみしめる。


 そんなことを考えながらルカを観察していたら、ふと彼もこちらを見た。

 思わずびくりと固まる私。

 するとルカは私の反応に一瞬目を見開いたかと思うと、こういった。


「……さっきから落ち着かないみたいだけど、大丈夫?」


 淡々とした口調だったけれど、瞳の奥が少し揺らいでいたので、私は素直に気持ちを言葉にした。


「だって……久しぶりだし、何から話していいのかわからないし……」


 この先を言うか少し悩んだけれど、小さく息を吸ってから私はルカを見た。


「……ルカが私から距離をとろうとしているみたいだから、どうしていいのかわからなくて……」


 私の言葉にルカは小さく息を吸い込むと、「は~」と脱力しながら片手で頭を抱えるようにして姿勢を崩した。

 騎士としてあるまじき姿に、私は驚く。


「……ごめん。怖がらせるつもりは全然なくて……」


 そう言って、口元を抑えるルカをただただ見つめる。

 すると、彼は居心地悪そうに視線を泳がせた。

 ……なんだか久しぶりに見る反応。たぶん、困ってるんだと思う。

 彼はしばらくうつむいていたけれど、やがて姿勢を正して私を見た。


「この馬車の中にいる間だけは、昔のように話してもいいかな?」


 黒い瞳がまっすぐに、でも優しい光を称えていた気がして私は胸がいっぱいになり、こくりとうなずいた。


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