「変化」の、かたち。
「楽しいっすね!!」
あの時の、桃季の笑顔と、声が。
背景の夜空と、駅の眩しい光が。
忘れられない。
今だって、目の前にはPCがありながらも、頭の中はそれらが陣取っている。
嬉しかった。嬉しいんだ。
僕が提案したことで、アイドルがあんなに笑ってくれたことがたまらなく嬉しかった。
あの時の笑顔は、画面越しの笑顔と何も変わらなかった気がする。
昼休憩に携帯を見ると、メールが一件。
桃季
「またいつか"青春ごっこ"しましょう!」
メールが10:14にきていた。こんな平日に、こんな時間に送られてきたことに、アイドルの生活の不規則さが伺える。
BULEKNOWの新着動画
〜BULEKNOW NEWアルバム制作
behind the scenes〜
突如、通知が出てくる。1日前のものだ。
そういえば、公式チャンネル登録したんだっけ、、。
何を思ったか、その動画を開く。まだ会社にいるんだぞ、、。と善良な自分が脳内に語りかけたが、無視した。
「じゃあ、もうこれで決定でいい?」
ホワイトボードに箇条書きで何やら様々な案が書いてある。1人の男が一つに⚪︎をつけ、くるっとこちらを振り返る。
メンバーだろうか。
「うん、いいと思う」
「いいよー」
「俺も賛成」
口を揃えて、3人が同意した。
ただ1人を除いて。
「、、、。そんな簡単に決まるんじゃダメなんじゃないの?そんなもんなの?」
空気はシーンとなる。
桃季は続けた。
「ファンの人に喜んでもらえるやつがさ、そんなんでいいの?まだ会議始まって10分ぐらいしか経ってねえんだけど」
と自分の腕時計を見る桃季。
「俺はそんなんダメだと思うし、なんでもっと案でないの?ほとんど俺が出したやつじゃん」
空気は硬直したままで、他のメンバーは俯いている。
場面が変わって、唐突にダンスの練習風景になった。
まるで、空気を紛らわすかのように。
僕は何故か緊張して、コメント欄をタップした。
「桃季くん、ちゃんと向き合ってる感じしてむちゃくちゃいい、、ギャップ、!!」
「メンバーもこれで成長するよね」
「やっぱこのグループに恵那川桃季は必要不可欠だ」
「メンバーも良くないよねこれ」
「BULEKNOWが売れる理由の一つだよねこれ」
比較的賞賛の声で溢れかえるコメント。
それらにホッとした。
こんな世界なんだ。
一つの行動で、何千人、何万人に賞賛され、非難される。
僕だったら、そんなのは気が狂いそうになる。
自分の世界のちっぽけさを感じた。
やっぱ桃季はすごいなあ。
「ね、これ見て」
僕のすぐ側にいた、同じ会社の女性社員2人が、何やらスマホの画面を見てひそひそと話している。
「炎上、、?」
「え、まじ?恵那川桃季、、ひくわ〜」
「恵那川桃季ってだれだっけ?BLUE KNOWだっけ?」
「そうそう」
心臓が飛び跳ねる。え、さっきの??
急いでスマホを取り出した。パスワードを間違う。
まどろっこしい。こういう時に限って、、!
「恵那川桃季」と調べると、顔写真とともにプロフィールがでてくる。震える手でスクロールすると、大量のニュースが表示されていた。全て同じ内容のようだ。
「恵那川桃季バラエティでの失言」
バラエティでの失言??
「某バラエティ番組にて、大御所芸能人に対して失言が大炎上」
ネット上では、桃季に対する批判の声しかなかった。
「メンバーに対して偉そうにしてたくせに笑笑」
自分が言われてるわけじゃないのに、ショックを受ける。胸にグサグサくる。足がすくむ。
大丈夫に決まってる。人気アイドルなんだ、炎上なんて慣れっこだろう。批判コメントも見ないはずだ。
バラエティ担当なんだから、なおさらだ。たがが一つの炎上で、心折れないだろ。
そう言い聞かせて、とりあえず仕事に集中した。
仕事終わりの夜。
いつもなら絶対にしない、歩きスマホをせざるを得なかった。
恵那川桃季炎上の行方を、人々の批判を、全て目に通す。
そうしないと、落ち着けなかった。
スマホが突然震える。
現れた名前に、心臓は飛び跳ねた。
「もしもし、、、」
「真さん、、?」
「俺、、どうしよ」
相手の声は震えていた。




