合流
……
追手の、腐れ冒険者にしては話の分かる奴らだったわねぇ。
こちらの事情を汲み、依頼破棄してね。ま、アレでかかってきていたら皆殺しでしたけど。
そうそう……
「トーキルンさんたち、ごめんね。晒したみたいで。シュリさんも」
と頭を下げる。話が通じそうだったとはいえね。
「お嬢、気にするでない」
「うむうむ」
「ええ。……知己の者の命が助かりましたし?」
「違いないのぉ」「うむうむ。」
うん? それどういう意味よ?
「血ぃ、見んで良かったわい。重畳、重畳。のぅ! お嬢!」
「じゃの! うむうむ。上出来じゃわい」
「何よ! あなたたち、私のことをどう思ってるの?」
私がまるで悪党じゃない!
「抜けば? どうするのじゃ? お嬢?」
「そりゃぁ、皆殺しよ?」
「であろうが……」
「爺様の言う通り、血を見なくてすんでよかったわい」
「お嬢は容赦ないからのぉ」
「そんなモノどこかに置いてきたわ」
「……お嬢」
「さぁ、行きましょうか」
……
「お~い! まってくれぇ~~!」
「お~~い!」
うん? さっきの冒険者? 逃げたのではなくて? 五騎の騎馬が近づいてくる。
「そこで止まりなさい! 何よ? あなたたち、真っ二つに成りに来たわけ?」
「ち、違う、違う! ねぇ! オレたちも仲間に入れてよ! お嬢ちゃん」
「はぁ?」
「ズバリ! 『鍛冶師ギルド』の監査員か護衛に!」
「……ほう。面白いこと言う娘ね」
「職員募集するでしょう? ほら、頭良さそうなのも連れてきたわ。一人、脳筋混じってるけど」
「良い読みね。でも、本気?」
ぐるり、見渡す。うん。この、言い出しっぺの娘以外は真面目そうね。そこそこの武もありそうですし。候補としてアリ?
「俺は本気だ!」
そう言うと脳筋はギルド証を出し、その場で破り捨てる。うん。良いノリだわ! 後先考えない。これぞ愛すべき脳筋! 筋肉量も申し分なし! 採用ね!
「あ!」
「お、おい!」
「おバカねぇ。まぁ、かわいい部類のおバカだわ。うんうん。君! 採用!」
「?……なんで?」
「いいなぁ! ザイドぉ! 採用だって!」
「で、ザイドさん。預貯金は? 町にも入れないわよ?」
「預貯金? 身分証? ……」
ふふふ。頭の中で一所懸命整理してるのね。ういやつよのぉ。
「あ……? ああ!?」
「あほ……」
「まぁいいわ。私はセツナ。鍛冶師ギルドの理事よ」
「オレはセーラ。よろしく!」
隙だらけのようで隙のない。やるわねこの娘。見た目も可愛い。
「オレは、ザイド。」
マッチョの脳筋。ギルド証を破ったの。朴訥そうでいいね。ういやつじゃ!
「改めて、ヒューイだ」
先のまとめ役。人望ありそうな、誠実な感じな人だね。
「私はロン」
少々気難しい感じか? 頭は良さげだな。魔法使い系?
「私はシシリーと申します。よろしくおねがいします」
女の敵ね……。おじさまは鼻血ブーものだわ。ローブの上からでも膨らみが窺えるわ。鼻っ柱も強そうねぇ。
以上の五人が立候補死てくれた。うん。使えそうね。
「ええ、こちらこそ。雇用体系は後ほど。本拠地に到着したらね。殺人鬼、強盗とかの重犯罪者は本拠には入れないわよ。今のうち外れてね」
ごく小さく……瞬間の殺気……
「ふっ……セーラ。貴女、お悪戯が過ぎるわよ? 次は……斬るわよ?」
私を試す? ふふふ。面白い娘……。さらに鋭い殺気をお返し。
「す……すごい、セ、セツナお姉様! 側においてください! 何でもします! ホレました! オレ!」
あらあら。
「置いてもいいけど……。オレはダメね。可愛いのだから、品よくね」
「はい! お姉様!」
「セーラ?」
「おい?」
「うっさいわね! 良いのよ! 私は生まれ変わるの……」
祈るように指を組み、くるくる回るセーラ。昔見たアニメにあったわねぇ。こういうの。
「お前、気持ち悪いな……」
{ああ……}
ふふふ。
「それじゃぁ、行きましょうか」
5人の人族の冒険者が加わった。セーラの言う通りこの冒険者たちなら普通に支部間を動いてくれるでしょう。
しばらく進み、水場で休憩。
「ふいいいい……尻が……」
「こひ(腰)がぁ……」
「お爺ちゃん達ご苦労様。でも、もうちょい我慢ね。もう少し距離が欲しいから」
「う、うむぅ。……ちょろっと。霊薬(酒)あれば、我慢できるのじゃがのぉ?」
{おお……}
「しょうがないわねぇ……。ちょこっとよ、ちょこっと。コップ一杯よ! 逃げてるのよ?」
{おおお!}
まったくもう。”収納”から、蒸留酒の樽を出す。
「ほどほどにね」
「おう! 任せておくんじゃ!」
大丈夫か? さてと…
「ヒューイ殿、追手……来ると思う?」
「ヒューイと。そうですね。先ほどの冒険者は来ないかと。皆、この町、いや、国を出るでしょう」
「そうなの?」
「この国のギルドですと何されるか……ギルドの不正を知っちゃいましたからね」
「難癖つけられそうね」
「ああ、ギルマスのナンカンの野郎も必死だったぞ。領主の兵が出張ってくるかもしれませんな」
「脳筋! アンタ、言葉使いどうにかならないの?」
「む!」
「良いわよ、普通でザイドさん。肝心な意見が聞けないと意味ないし。普通にして」
「さすが、セツナ様」
「ねぇ、お姉様、お姉様って、”勇者”様?」
「そうよ」
”ぶふぁ”
「ヒューイ! 汚いわね! お姉様に飛沫掛かったら斬るわよ!」
「す、すまん、でも、いきなり核心を聞くなよ」
「しかし……本当だったとは……」
「セツナ様。”勇者の波動”堪能させてもらいましたぞ」
「あら、ザイドさん。あれは警告レベルよ? 私の本気の波動食らったら即発狂よ?」
”ごくり”
「こんななりだけど、結構いい歳なのよ私。前のクソみたいな世界でいろいろあってね……」
「前の……という事は多重召喚?」
「そうなるのかな? ここ異世界、二世界目」
「あ、は、ははは。さすが! お姉様! 素敵すぎます!」
「多重召喚……伝承だと……”真”なるもの……」
「シシリー? どうした?」
「……な、何でもないわ」
「私のことはいいから、ゴルディア周辺や貴方たちのこと聞かせてよ」
……
「そうかぁ、それじゃぁナーナの経済も萎むわね……連鎖でゴルディアも」
「ええ、オレ……私たちが冒険者でもトップのほうでしたので。他のも皆流れるでしょう」
「気持ち悪いな……」
「ああ。普通にしろ。貧乳」
「何よ! ザイドぉ! しつこいぞ! マジで刺すぞ!」
「やってみろ! 貧乳!」
「くすくす。早く影響圏から出たいわねぇ。そしたら屋台や食堂を駆逐しつつ、のんびり帰るのよ」
「お供しますぅ。ザイドは身分証無いからお外で待機ね」
「んな!」
「なぁ、ザイドのおっちゃん、『ナーナの盾』のシーンバさんて?」
ん? 二コ君? ああ、あの時の関係者の……
「ん? 坊主、シーンバのこと知ってるのか?」
「おう! ちょっとね」
「あいつは義理堅いからナーナに残るんじゃないか。なにせヤツのチーム名が『ナーナの盾』だもんな」
「ふぅ~~ん。強い?」
「ああ、強いな。実質、奴のところがトップだろうな。魔物も狩ってくるしな」
「へぇ、そうなんだ」
「真面目で強ければうちに欲しいわね。引き抜こうかしら?」
「私も真面目ですよぉ! お姉様ぁ!」
「そ」
「ひ、ひどいですわ!」
……
馬を休ませ、お爺ちゃん達にお酒をせがまれつつ、今日のキャンプ地へ。収納より追加で馬車を出し、野営地を設営する。
馬たちも寛げるように広めに囲ってみた。真火、ニコも馬の世話が楽しいのか、獣人、人族たちに混ざってブラッシングしている。ドワーフの連中は相性悪いので待機だ。
ドレンさんのおかげで、野菜穀物は問題ないだろう。肉は道中で狩るか。飼葉も、自然の草を食んでるようで当分は良いだろう。
問題は追手。今日のミロだったかしら、奴が帰って報告。明朝出陣ってのが最速でしょう。すると……
「お姉様、心配事ですか?」
「ん、騎兵のみなら昼には会敵かなぁ、と思ってね」
「追ってくると?」
「そりゃぁ、来るでしょうよ。ここの連中、生き証人ですし。まだ利用価値だってあるでしょうし。……足遅いしぃ」
「なるほどぉ」
「話が分かる奴ならいいのになぁ」
「……お姉様でも斬るのに心の葛藤が?」
何期待してんのよ……この子は……
「馬運ぶのに大変でしょう。……期待するのは良いけど、闇落ちはダメよ? その時は私が引導を渡したげる」
「は、はい。き、肝に銘じます!」
今日はゆっくり寝られそうだ。抱き枕がない……ニコ君と真火君は察知能力が高いのか、直ぐにいなくなる。我に癒しを……。
セーラがコソコソと来たが……馬車の外に蹴りだす。まったく。
早朝、異常は無しと。ドワーフ以外の者は起きだし、馬の世話、朝食の準備に取り掛かる。
みな、やる気に満ちてテキパキとよく動く。
「で、おヌシは何を?」
後ろから抱き着いてくるセーラ。
「お姉様のいけずぅ……昨日の蹴り、悶絶モノでしたわよ」
「蹴り殺せばよかったわね。残念」
「もう!」
「で、貴女、本当についてくるの?」
「もちろんです。私が言い出しっぺですよぉ~~」
「そう。それは残念」
「お姉様ぁ!」
「おはようございます。セツナ様、ほら、セーラ、こっち手伝いなさいよ!」
「シシリー。おはよ。このアホ頼むわ」
にしても、おっぱいでっかいわね――もみ♡もみ♡
「きゃ! セ、セツナ様?」
「うむ……懐かしい感触。まぁ、こんなに大きくなかったけどねぇ」
「? セツナ様?」
「これでも私、23? 25? よ。あれ? 30過ぎたかしら? まぁいいわ。前の世界で変態に”神薬”飲まさせられてね。くそ! 腹立つ! 当時は”奴隷化”させられてたから……。この世界よりそういうものが進歩している、クソのような世界だった。今なら”ぴーーーー”引っこ抜いてやるのに! ”ぴーーーー!”を破って”ぴーー!”を……」
「お、お姉様!」
「あら……失礼。お下品でしたわね」
「セ、セツナ様……。いえ! 私もお姉様と呼ばせていただきます!」
「はぁ? なんでそうなるのよ? シシリー?」
「あんた、なに言ってんのよ! セツナ様はオレ……私のよ!」
「違うわい!」
「貴女のようなガサツな貧乳小娘には権利がありませんわ!」
「なにお~~牛乳!」
「おほほほ。羨ましいでしょぉ!」
と、わざと胸を寄せるシシリー。デカ!
「う、っくっくぅ!」
見事にブーメラン食らったわね。不憫なセーラ……
「ほらほら。朝は忙しいのだから。仕事、仕事」
「「はい! お姉様!」」
……なんのこっちゃ。なぜだかシシリーも引っ付いてくるようになった。
「セツナ姉、妹できたのか?」
「知らないわよ。アホが増えただけよ。放っておきなさい」
「ふ~~ん」
「「な!!!」」
「で、ニコっち。勉強の方は?」
「まぁ、ぼちぼち? 計算もタネが分かれば余裕、余裕~~」
「良い子、良い子。アホにしたら、おじさまに叱られちゃうわ」
「こほん。どれ! お姉ちゃんが計算見てあげるわよ。見せてみな……さ、い……??? 何これ? 暗号?」
セーラ……まぁ、アンタにゃ無理よ……。
「高度数学よ、セーラ」
「おう!」
「こうどすうがくぅ? で、何語で書いてあるのよ?」
数式よ……
「ここじゃ、お師様とセツナ姉と……この、おいらにしか解けないぜ!」
「こ、こんなの解けなくても……」
「あ~あ。駄目だなぁ。できないこと認めて精進しないと! セーラ姉ちゃん!」
「な、生意気な、ガキんちょね!」
「あら? 口が敵わなければ恫喝? 駄目な人間ですね」
「な、なにお~」
「今度は手出します?」
「うぐぅ……」
「ほら、仕事、仕事。ニコっちも煽らないの。殺されちゃうわよ?」
「……反省。まだ、武力が追いついてないんだよなぁ。セツナ姉見てよ!」
「もうちょい落ち着いたらねぇ。素振りやってなさいな」
「は~~い」
「あの子嫌い……」
「可愛いじゃない。尻尾モフモフよ」
「そうですね! モフモフ……」
いた! ここに同じ匂いの子が……。シシリーよ、貴女は妹と認めましょう!




