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治療

 スーさんに招き入れられた部屋は、お世辞にも広いとは言えない部屋だった。

 ベットにサイドテーブル、椅子があるくらいの、質素な部屋。ベットに寝ている人物が、おそらくスーさんのお母さんだろう。

 スーさんと共にベット脇へと近づく。今は寝ているようで、穏やかな呼吸の音だけが聞こえる。見たところ顔色はそこまで悪くはない、が、よくもない。血液の巡りが悪いのか、少し青白い。


「もうずっとこんな調子でね…病気か何かと思って医者に見せたりしたんだけど、疲労だろうとしか言われなくて。でも一向に良くならないの…」


「そうなんですか…少し、体に触れても?」


「ええ」


 サーニャさんがスーさんのお母さんに近づき、顔や体を確認し始める。


 《なんか…前に感じたことあるかも》


 突然そんな呟きが聞こえた。


「…え?どういうこと?」


 《えっと………あ!長に似てるんだ!》


 ポンっと手を叩いて納得した様子のプレナ。可愛い…じゃなくて。


「長って…瑠璃のことだよね」


 《そうそう》


 プレナが頷くけど……似てるって歳で言ってる訳じゃないよね?ね?


「あっ…」


 プレナと会話していると、サーニャさんが何かに気づいたようで、小さく声を発した。

 服を捲り、腹部を見つめていることから、そこで何か見つけたのだろう。


「どうしました?」


「マリーナ様……これ」


 サーニャさんが腹部のある場所を指さす。そこにあったのは……黒い斑点。


「…………」


「…………」


 沈黙が部屋を支配する。なんで、()()が……


「ど、どうした、の?」


 私たちが2人だけで納得していた様子だったからか、スーさんが戸惑いながらも尋ねてきた。


「…私は、これを知っています」


 やっと分かった。プレナがなんであんなことを言ったのか。


「なん、なの?」


「……呪いですよ」


 そう。これは呪いだ。それも、瑠璃にかかっていたものとほぼ同じ。だから、誰かに掛けられた訳では無い。でもそれならどうして……。

 瑠璃は聖域を守護しているからこそ、聖域を侵していた呪詛にあてられた。

 けれど、スーさんのお母さんにそれはありえない。だから、どこで呪詛にあてられたのかが分からない。


「呪、い…?」


 スーさんがまるで信じられないといった表情を浮かべる。普通は関わることなど皆無に等しい存在だからね。当然の反応だね。


「治せる、の?」


「………」


 スーさんがサーニャさんを、まるで縋るように見つめる。けれど、サーニャさんは黙って私を見る。それにつられ、スーさんの視線も私へと向いた。


「……マリーナ様」


 サーニャさんにこれは治せない。だから私を見たのだろう。

 縋るような、頼るような、そんな瞳。


「……はぁ」


 私は思わず息を漏らした。本当に、その瞳は反則ですよ……


「…まぁ、見て見ぬふりは嫌ですしね」


 そう言った瞬間、サーニャさんが満面の笑みを浮かべた。やっぱり、サーニャさんも同じ気持ちだったんだね。


「えっと……」


 スーさんは現状を理解出来ないようで、困惑した声を上げた。だから私は、真っ直ぐにスーさんを見つめる。


「治せますよ。というより、治します」


「っ!…本当に?」


「ええ。でも一つ、約束して下さい」


「治してくれるなら何だってするわ!お願い!」


 いや流石にそこまではいいです……


「口外、しないでくれますか?」


「口外?」


「はい。私が治したということを、誰にも言わないでください」


「そんなことでいいの?」


「はい。私にとってはそれが1番大事なことですから」


「…分かったわ。絶対誰にも言わない」


 真っ直ぐとスーさんが見つめ返してくる。その言葉に偽りはないだろう。なら、私は私のできることをしようか。


 サーニャさんに場所を代わってもらい、スーさんのお母さんの側へと近寄る。そして、黒い斑点の部分に手を触れた。


 …スーさんが待ってますよ。まだ、生きて欲しいと願う人がいるんですよ。だから、早く、良くなって下さいね。


 そんな気持ちを込めながら、神力を流していく。スーさんのお母さんの体を、淡い光が包む。

 弱った体を癒すように。

 体に溜まった悪いモノを、追い出すように。











「────終わりましたよ」


 しばらく経って包む光が消えたタイミングで、スーさんにそう声をかけた。


「……本当?」


「はい」


 もう黒い斑点は無くなっている。顔色も良くなり、一応神眼で確認もした。完璧に呪いは無くなっている。だから、もう大丈夫だろう。


「念の為1日程は様子見を。何かあれば言ってください」


「ええ、分かったわ。………本当に、ありがとう」


 涙を流しながら、最後にスーさんが呟いた。


「助けられたから、助けただけですよ」


 だから、なにも気にすることはない。ただの"お節介"なんだから。


「……ありがとう。でもせめてお礼はさせて」


「いやでも」


「いいのよ。私が()()()()()()()()()よ?」


 ……そう言われると反論出来ないじゃない。自分でいまさっき言ったことを、そっくりそのまま返されちゃったんだから。


「じゃあ宿代は無料にするわ。もちろん食事代もね」


「「え?!」」


 それは流石に赤字……


「流石にそれはだめなんじゃ…」


 サーニャさんが私がいまさっき思ったことを代弁してくれた。


「私が出来ることなんてこれくらいだもの。それに売り上げを心配しているのなら大丈夫よ。そんなに客がいない訳じゃないんだから」


 そこまで言われると断れない……


「……頑固」


「それはどっちかしらね?」


「うぐっ!……分かりました。お礼は受け取ります」


「よろしい」


 先程のしんみりとした感じとは打って変わって笑顔を浮かべるスーさん。まぁ、この表情に戻せただけよしとしますか。


 …………にしても、スーさんのお母さんが目覚めたら、ちょっと話を聞かないといけないかもね。















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