朝の一幕
食事を食べ終わり就寝後、襲われるかもと警戒していたけれど、それは杞憂に終わった。一応部屋に結界を張ってたんだけどなぁ…。
「…一体何と戦うつもりの結界だったんですか、これ」
朝起きて結界に気づいたサーニャさんに呆れられてしまった。
うーん…確かに3重結界はやり過ぎたか。
「この前のようなことがあったら嫌だったので」
「この前…あぁ、あれですか。それにしても結界は1枚で事足りると思うのですけど」
……返す言葉もありません。い、いや、心配し過ぎること自体悪いことではない、し?うん。…今度から1重結界にしとこ。
枕元のプレナを起こして肩に乗せ、下に降りると、チラホラと食事をする人達の姿が見えた。
「あら、おはよう」
ホールをしていたお姉さん…スーさんが朝の挨拶をする。
「「おはようございます」」
図らずもサーニャさんと声が被る。
「ふふっ、息ピッタリね。好きな席座って。今持ってくるから」
そう言って忙しそうに奥の扉へと消えて行った。おそらくあそこが厨房なんだろう。
とりあえず言われた通り、空いている好きな席へと座る。すると直ぐにスーさんがやって来て、目の前に朝食のプレートを置かれた。
「はい。本来なら1泊2食だからこれは別料金なんだけど、特別に無料でいいわ」
「あ、ありがとうございます。それと、後で延長お願い出来ますか?」
「ええ。もちろん。でも、これが落ち着いたらね」
「はい」
さて、食事を……と思ったところで、サーニャさんがふくれっ面になっていることに気づいた。えっと…?
「…どう、しました?」
「……交渉は、私に任せると言ってくれませんでしたか」
あぁ……そういうことか。でもそんなことで拗ねるなんて、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「ふふ」
あ、いけない。思わず笑いが零れてしまった。
「もう!笑わないでください!」
サーニャさんが詰め寄ってくる。流石に茶化すのは不味いか。
「ご、ごめんなさい。でも今回は私が直接言ったほうが早かったですし…そういう時以外はちゃんと任せますから」
「…本当ですか?」
「はい」
じーっと見つめ合うこと、5秒。やっとサーニャさんが視線を逸らして、「ならいいです」と言って、頷いてくれた。ふぅ…ここまでやりたがるのは、私からの"お願い"じゃなくて、"任せる"だったからかなぁ…
『その可能性が高いです。上からの存在に"任せられる"ということは、誇りでもありますから』
なるほど。龍の特性というか、そんなとこに関係してたのね。ならまぁ、仕方ないか。
閑話休題。
運ばれてきた朝食は、スクランブルエッグみたいなのにソーセージ。それと、サラダとコンソメスープにパン。
ていうかソーセージあったんだ…昨日見てないや。後で聞いてみようかな。
パンは私が以前レシピ登録したので、それを使っているらしい。まだ少し固めだけど、それでも以前食べたパンに比べれば、格段に柔らかい。
「「ごちそうさまでした」」
2人同時に食べ終わる。周りを見渡すともう人は疎らになっていた。そろそろ働く時間帯だからか。
「ふぅ…疲れたぁ…」
カウンターからそんな呟きが聞こえた。見てみると、グデェとカウンターに突っ伏すスーさんの姿が……
「大丈夫です、か?」
「…うん。いつもの事。いつもの事なんだけどねぇ…」
いつもこの調子なのか…よく体壊さないね。
「前はお母さんもやってたんだけど、最近体壊しちゃってね。休んでるの」
「なるほど」
それならこのオーバーワークも納得かな。1人抜けるだけでも大変だろうからね。
「はぁ…とりあえず、延長だったわね」
「あ、はい。あと4日ほど、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ」
ほ…良かった。
「じゃあこれで」
カウンターに2枚の金貨を置く。……サーニャさんがね。だってねぇ……カウンターに届かなかったことも理由だけど、キラキラとまるで何かを待つ子犬ように見つめられてね…。あの瞳は反則です。
「確かに。金銭面はマリーナちゃんが?」
「まぁ、そうですね」
「私は交渉です」
「なるほど…これだとマリーナちゃんがお姉ちゃんぽいわね」
「どうでしょう?」
そもそも姉妹じゃないから。否定するのが面倒でそのままにしてるけど。
「あ、今日の朝食なんですけど…あのお肉なんですか?」
「あぁ、あれ?オークの腸詰めっていうのよ。見たこと無かった?」
「はい」
「そう。まぁ、私のお父さんが考案者だからね」
「そうなんですか?」
意外だ。でもスープ美味しかったし、食に対する探求心が強いのかな。
「販売はしてないの。ごめんなさいね」
「いえ。気になっただけなので」
とはいえ作れなくはない。ただ、レシピは登録しない方がいいか。それは迷惑になってしまうだろうから。
アニスお姉ちゃんはレシピを独占することを良しとしないみたいな感じだったけど……まぁ、大丈夫だろう。
……うん。今[まぁマリーナちゃんがそういうなら仕方ないわね]って聞こえた気がする。その代わり、今度作って、とも。はぁ…別に振る舞うのは嫌いではないし、別にいいか。
「お母さんの容態は大丈夫なんですか?」
私が考えに耽っていると、サーニャさんがそう切り出した。
「大丈夫…とも言い難いかしらね。もう歳だし」
そういうスーさんの顔はどことなく、悲しそうで……はぁ。
「…マリーナ様」
「…私はなにもしませんよ。咎めもしませんが」
「っ!はいっ…!」
サーニャさんが満面の笑みを浮かべる。
「なに?どうしたの?」
「その、私魔法薬とか作ってるんです。もし良ければ見させて貰ってもいいですか?」
「え……いいの?」
「はい。これも何かの縁でしょうし」
「…ありがとう」
スーさんがまるで泣きそうな顔で感謝の言葉を述べる。だけどそれはまだ早い。
「助けられると分かった訳では無いんですから、感謝するのは早いです」
「それでもよ……こっちに」
スーが私たちを案内したのは、厨房とは別の扉。そこを開けると、比較的広めの空間が広がっていた。実家と言っていたから、おそらく家族の生活場所だろう。
「こっちよ」
どうやら二階に就寝するための部屋があるらしい。上がると何個かの扉があり、そのひとつをスーさんが開けて私たちを中へと招き入れた。




