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値引きの理由

 なんとかサーニャさんと話し合い、人が多いところや聞かれそうなところでは私の名前を呼ばないように約束を取り付けることが出来た。面倒事はできる限り避けたいからね……。


「わしは商品が無くなったから帰ろうかのう」


 私はもうやけになっておばあさんの売り物を全部買った。だからおばあさんはここにいる必要が無くなったから、帰るようだ。


「おばあさんはどこに住んでるの?」


「この王都から少し離れた村じゃ。まぁ、馬車で半日というところかの」


 ふむ。つまりここに住んでるんじゃないだ。まぁ、野菜は自分で作っているだろうから、当然か。


「じゃあの。また会えたら」


「うん。ありがとう」


「感謝するのはこっちのほうじゃ。村の奴らにでも何か土産でも買ってくかのう。はっはっは」


 そう言って笑いながら市場を去っていった。


「さて、と。まだ時間はあるから…もう少し見ていいですか?」


「はい。どうぞ気が済むまで」


 ……多分気が済むまで私が買い物しようと思ったら夜までかかるよ、という言葉は飲み込んでおく。うん、私にだって限度くらい分かるよ。


『………』


 ハクが呆れているような気がするのは、きっと気のせいだ、うん。


 ひとまず減っていた調味料などを買い足す。周りの人に聞いたら、売っている店を丁寧に教えてくれた。

 ……そしてその店でも安く買うことが出来た。これ完全にお使いだと思われてるよね……


「安かったらだめなんですか?」


「いや、そういう訳ではないんですけど……」


 分かってるよ。これはただの私の我儘なんだって。ここは、日本でも、地球ですらない。常識は違う。価値観も違う。分かってる、んだけどなぁ……。

 やっぱり私って、お人好し過ぎるんだろうか?


『それはそうかもしれません。ですが、それは誇るべきこと。悪いことでは、ないのですよ。無理に変える必要は、ないのです』


 そう、だろうね……うん。ありがとう。


『いえ』



 私は、無理に変わる必要はない。そう言って欲しかったんだ。悪いことではないと、認めて欲しかった。だからハクの言葉は、私の胸に深く響いた。本当に、ハクには感謝しかないなぁ……。





「……でもやっぱり安くされるのは申し訳ない…」


 なんというか……小さい子だから安くしてるってことが分かってて、でも私は本来そこまで精神が幼い訳ではないから、騙してる気持ちになっちゃってね……


「それは私もたまに思いますが……」


 あ、思うんだ。確かにサーニャさん100歳越してるしね。そう思い当る節は度々あったのかも。


「皆さんは善意でやっている訳で、だからこそ、その善意を無下にするほうが失礼に当たると、そう私は思うようにしています」


 …そうか。無下にするほうが失礼、か。


「…善意は有難く受け取っておくべきもの、と?」


「はい。少なくとも、私はそう思います」


 …うん。複雑な事なんて何も無かったんだ。ただ善意に対して、「ありがとう」と、そう思えば、そう言えばいいだけだったんだ。


「…ありがとうございます。おかげで気が楽になりました」


「それなら良かったです」


 《私も相談にのるよ?》


「ふふっ。うん、そうだね。プレナもいるものね」


 困った時。悩んだ時。それを1人で抱え込まず、素直に誰かに相談すればいい。だって私にはいつも、相談できる存在がいるのだから。


「よし。じゃあ残りのものを買って宿に戻りましょうか」


「はい」


 《はーい》


 そして消費していた食材などを追加で買い込み、私たちは宿へと戻った。


「あら、お帰りなさい」


 宿に入ると、真っ先にお姉さんが挨拶してくれた。

 …それと何故か、カウンター近くにあの時の門番さんが立っていた、


「お、帰ってきたか。宿はどうだったか?」


「あ、はい。とてもいいです。教えてくれてありがとうごさいました」


「いいってことよ。()()()()だしな」


 ……え。それ初耳なんだけど。


「その様子だと知らなかったかしら?まぁ、ザーズなら言わないでしょうけど」


「相変わらず俺の評価酷くねぇ?姉貴」


「いいでしょ、別に。あんただし」


 姉貴……そうか。ザーズさんのお姉さんだったのか。だったらあの半額値引きも頷ける。身内からの紹介なんて、嘘かどうかは確認すればすぐ分かるし。


「とりあえず改めて自己紹介しようかしらね。私がこの愚弟の姉の"スー"よ」


「愚弟はねぇだろ……」


「ふふっ。仲良いですね」


「「どこが!?」」


 ほら、息ぴったりだ。


「ほら。営業の邪魔よ。とっとと帰る」


「ったく。わぁったよ。じゃあな、お二人さん」


「はい。また」


 私がぺこりと頭を下げる。するとサーニャさんも慌てて私に続いた。


「…なんつーか、子供に見えねぇ」


「よく言われますよ」


「そうかい。ま、詮索する気はねぇよ」


 そう言ってヒラヒラと手を振って宿を出ていった。


「全く…ごめんなさいね」


「いえ。おそらくザーズさんがここへ来たのは、私たちが本当にザーズさんに紹介されたのか、確認するためだったんでしょうし」


「……ほんと子供とは思えないわね。まぁ今更ね。それより食事はどうする?」


「…部屋で食べても?」


「了解。じゃあこれ鍵ね」


 そう言えばまだ渡されてなかったな。サーニャさんが鍵を受け取り、そのまま鍵に書かれた部屋番号を探す。


「ここですね」


 着いたのは角部屋。中に入ると、結構広め。ベットもチェストが2つに、テーブルと椅子。うん、あんまり変わらないかな。


「あの、マリーナ様、どうして部屋で食べようと?」


「あー…まぁ人目があったからですかね」


 あの時下の食事場所に居た人達から、好奇の目で見られていたから。ちょっと居心地が悪かった。

 …なんというか、フォルタスでも同じ展開があったなぁ……さすがに今回襲われることはないと思う。いや、思いたい。








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― 新着の感想 ―
[一言]  優しくされたら返せる時は本人に、返せない時は他の人に優しくすれば良いのですよ(* ´ ▽ ` *)ノ  相談できる仲間が出来て良かったねマリーナ♪
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