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表と裏

「一先ずは、これでいいかな」


 サーニャさんがお父さんと合流したのを確認し、少し肩の荷が下りた心地がする。()()()はこれでいい。


 《ほんとに良かったの〜?》


「まぁ、これからの事を考えればねぇ」


 ポーチから身を乗り出すプレナが落ちないよう支えつつ、わたしは滞空していた場所から飛び去り、一気に雲の上まで上昇した。二人が会遇した今、これ以上此処に居る必要は無い。


 今回の荒療治によるサーニャさんの特訓は、あくまで“表”の目的だ。実際は本来の目的の二割程度でしか無い。力の使い方を学び、実践するだけなら、別にわたしから離れる必要も無いのだから。


 ……多分、後で本来の目的を知ったら、サーニャさん怒るだろうな。


 しかし、サーニャさんに()()()()を見られたくはない。それがわたしの身勝手な願いである事はよく分かっている。でも、これだけはどうしても譲れなかった。だから──……






 ……──サーニャさんを、わたしから隔離する。


 一緒に居たら見られてしまうから。止められてしまうから。ならば、目も声も届かない所に行ってもらう。それが、“裏”の目的。

 しかしそうなった時、厄介になる物が一つある。それがサーニャさんと交わした『離れない』という盟約だ。そしてそれは今尚有効だ。然しながら、わたしはその“定義”をする事が出来る。何処までが『離れる』に該当するのか。それを弄れば、わたしは傍を離れられる。勿論、サーニャさんには気付かれずに。


「怒られるんだろうなぁ…」


 《当然じゃないの? というか主様、わたしも引き離すつもりでしょ》


「まぁそうだね。流石に連れていく訳にはいかないから、瑠璃の所に預けるつもりだよ」


 《……わたしの了承は無いのね》


「だったら“命令”しようか?」


 従魔であり眷族でもあるプレナは、主であるわたしの命令を違える事が出来ない。でもそれは、完全に相手の意志を奪う事になる。だからわたしは基本的に、“命令”では無く“お願い”をする。

 でも、今回ばかりは命令する事もやむを得ないと思っている。というよりする。じゃないと多分来るから。


「プレナに“命令”。わたしの許可あるまで、聖域から出る事を禁ずる」


 《……本気なのね》


 はぁ、とポーチの中で溜息をつく音が耳に入り、思わず苦笑を浮かべた。

 本当は直接わたしが聖域までプレナを送り届けるつもりではあったのだけれど、“命令”を使った以上聖域で説得する手間も無くなったので転移で送る事にした。


「じゃあまたね。瑠璃に宜しく」


 《はいはい。……何も無いと思うけど、ちゃんと帰ってきてね? 出られなくなるの、嫌よ?》


「分かってるよ」


 最後まで心配そうな眼差しを向けるプレナに微笑みを返し、わたしは聖域まで転移させた。

 最近ずっと感じていた重量が無くなり、少しだけ寂しく感じる。


「さて、と」


 バサリと翼をはためかせ、改めて進路を確認しようと下を見る。雲の切れ間から覗く地上にはポツポツとした明かりが見えるが疎らで、此処から進路を確認する役には立ちそうにない。しかし日がすっかり落ちたせいで、それ以外に頼りになりそうな道標も無い。一応神眼で暗さも距離も関係無くなるが、その見ている物が正しい道標かどうかを判別するのは難しい。


「うーん…一旦雲の下まで下りようかな」


 一応姿を消す事は出来るけれど、()()がどんな手を使ってくるか分からない以上、下手に地上から目の届く範囲で飛びたくは無い。そんな考えから雲の上に居たが、それで道に迷っては何の意味も無い。致し方なく雲の下まで翼をたたみ降下する。


 ……ん? ちょっと待って? ハク!


『何でしょうか』


 道案内、雲の上からでも出来る?


『可能です』


「可能なのね…」


 下りた意味…。


 肩を落としつつも、まぁ実際に地上の様子を見たいという思いも無くは無いので、このままの高度を維持して進む事にする。


 わたしが皆を引き離してまで向かいたい場所。それは───リリシア王国。勇者達が召喚されたと()()()国。


 魔王を倒す為の勇者が召喚されたのにも関わらず、周辺地域には召喚に関する一切の情報がない不自然さ。それをわたしは常々気に掛けていた。なのでその不自然さの真相を解明すべく、サーニャさんとの旅の目的地をそこに設定していた訳だ。けれど、グランパパから“お手伝い”をお願いされた時点でその不自然さの意味を、理由を知る事になった。

 聞いた時は流石に唖然としたし、それならサーニャさんを連れて行く事は出来ないと思った。だから今回の荒療治は、サーニャさんを引き離す都合の良い口実になったと言える。


「ハク。道案内宜しくね」


『かしこまりました。では現在目下にある道に沿って、そのまま進んでください』


「了解」


 わたしが背中の翼をはためかせれば、一気に景色が後ろへと流れていく。隣国であるリリシア王国は、今まで旅してやっと着いた此処からでもかなりの距離があると聞く。切羽詰まっている訳では無いが、なるべく急いだ方が良いのは確かだ。ただし、本気で飛べば地上に被害が及ぶ可能性があるので、ちょっと控えめではあるけれど。

 ………強過ぎて本気になれないの、地味にもどかしい。








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