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護るということは

 悲痛な叫びも虚しく、気が付けば鬱蒼と茂る森の中にサーニャはいた。


(…マリーナ様は変なところで思い切りがよくて、容赦がないです。)


「えぇぇ…嘘ぉ……」


 思わず声が零れる。

 遠くで聞こえる何かの鳴き声。

 風によるものなのか生き物なのか分からず揺れる草。

 いつも隣りにいた頼れる強者は影もなく。不安で心が押し潰されていくのをひしひしと感じた。


 カサリと葉が擦れる音が響けば、思わず短く悲鳴をあげて肩が跳ねる。


「だ、大丈夫。大丈夫ですから」


 誰かに聞かせる訳でも無く、声を発した。

 次第に周りの音に共鳴するかのように震え始める身体を抱き締め、呼吸を整える。目を閉じると脳裏に浮かぶのは、いままでレジーナと行ってきた鍛錬の様子。それが不思議と自分に自信を持たせてくれる。


「大丈夫です。ちゃんとやってきました。それはわたしが1番分かっています」


 声に出していけばいつの間にか震えは治まり、サーニャは小さく手を握る。するとチャリンと金属が擦れる音が耳に届いた。

 手首を見れば返事をするかのようにキラリとした光が反射し、自然と笑みがこぼれる。


「マリーナ様も、おられるのですから」


 サーニャに贈られた魔道具を起動する為に使われたのは、マリーナの魔力だった。魔道具から感じられる大切な存在の魔力が、サーニャの安心へと繋がっていく。


 一度深呼吸をして気持ちを整え、目の前を見据える。すると、ふわりと心地よい魔力がサーニャの周りを通り過ぎた。


「結界を張っていただいていたのですね」


 転移したその場所には、マリーナが元々魔物が入って来れないよう結界を展開していたのだろうと思い至る。おそらく、自分が落ち着くまで護る為に。

 それが今無くなったことをサーニャは肌で感じた。


「集中、です」


 目を閉じ内側に秘められた自らの魔力を、しっかりと見定め、動かす。

 まずは基本の結界を展開していく。身体に添わせるように、ゆっくり、確実に。


(マリーナ様のお身体に、傷一つ付けるものですか…!)


 盟約の効果は、サーニャ自身本能的に感じていた。自らに降り掛かる全ての火の粉を代わりに受け止める為のものだと。

 ならば自分は、その()に受け止めるべきだとも。

 自分が傷付かなければ、マリーナが肩代わりすることもない。だからこそ、傷付かない為に。傷()()()()為に。完璧な結界を展開する。


「…凄いね、これは」


 その様子を上空から見守っていたマリーナが、そう呟く。

 マリーナが思わず身構える程の魔力が、明確な意志を伴って魔法を、結界を形作っていく。


「…上手く、できたでしょうか」


 瞼を開けて身体をぐるりと見回してみても、特に変化は見られない。だが、神眼を通してサーニャを見つめるマリーナの瞳には、煌々と紅く輝く姿が映っていた。


 《でも魔力ダダ漏れ〜。これじゃあそもそも魔物が来ないよ》


 ポーチから聞こえる辛辣なプレナの意見に、マリーナが苦笑いを浮かべる。

 サーニャが展開した結界は思わず舌を巻くほどの完成度ではあったが、膨大な魔力を伴って形作られたソレは魔力を感知することが出来る魔物にとっては爆弾のようなものだった。

 結界の防御力、そして強度は込められた魔力量に比例する。しかしいくら魔力を込めて頑丈な結界を展開し守りを固めても、攻撃してくる対象がいなければ意味が無い。


「まぁそこは要検討事項ということで」


 マリーナの場合は魔力そのものを隠蔽することができるので、本気で隠蔽すればどれだけ膨大な魔力を注ぎ込もうが、結界がそこにあると認識することすら出来ない。

 今回は特例処置ということで、マリーナが指を振る。するとふわりと()()()魔力が舞い、サーニャを結界ごと包み込んだ。


「わっ!?」


 サーニャがその魔力に気付き、短く声を上げた。

 マリーナの強い魔力は、サーニャの結界に込められた表層の魔力と優しく混じり合いその性質を変化させる。


「これで良し」


 《本当に? そんなに手を出して良かったの?》


 プレナが、ポーチからじとりとした眼差しをマリーナへと向けた。確かに良くは無いね、とマリーナは目を向け応える。


「でもそもそもわたしがサーニャさんをここに飛ばしたのは、魔物と戦ってもらう為だからね。お膳立てくらいはするよ」


 本来の目的を果たす為ならば、多少手を出すことは厭わない。


 視線をプレナから戻し神眼で見やれば、紅い光はゆっくりと金の光と混じり合い、そして光そのものが消えていくのが分かった。


「凄い…」


 マリーナが何をしたのかに気付いたサーニャが、身体を見ながらその場でくるりくるりと回る。

 マリーナが行ったのはあくまで結界を隠蔽すること。故に認識することが叶わなくとも、展開している本人は感覚で結界の存在を感じ取れる。


「これなら、魔物にも気付かれませんね」


 だがいきなり森の中に現れた爆弾のような魔力の塊が、またいきなり前兆もなく消え去ったことで森の魔物はその場から動けない程混乱していた。

 ──そして、それは()()同様に。


「今のは…まさか!?」


 マリーナ主導のサーニャの荒療治は、まだ始まったばかりだ。




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