コソコソするのって楽しいかも…
次の日。眠りが浅かったわたしはサーニャさんよりも早く目が覚めた。というか、寝れたかどうかすら怪しい。神龍としては必要のない行為だからね。
とまぁそれは置いといて。せっかく早く起きたのだから、これ幸いと未だ眠ったままのサーニャさんの寝顔を至近距離で拝む。
(……可愛い)
まだあどけなさが残るその寝顔は穏やかな寝息を立てていて、とても愛らしい。
……一応わたしよりもかなりの歳上なんだけどね。
《ふわぁぁ…おはよぉー…》
「おはよ」
もぞもぞとサーニャさんとわたしの間から出てきたプレナ。ぐいぃーっと枕元で伸びをした後、サーニャさんへ目線を向ける。
《まだ寝てる?》
わたしは答えずに指を立てて口に当てる。それだけで理解したのかゆっくりと音を立てずにポーチの中へ……え?
《寝る》
あ、そう…。
「んん……」
それから少しして、サーニャさんが微睡みから目覚める。
薄らと開かれた綺麗な翠色の瞳が私を捉え……固まった。
「え゛…」
「おはようございます、サーニャさん。……サーニャさん?」
固まって動かないサーニャさん。
一応添い寝をするのは今回で2度目なんだけれど……前はサーニャさんが起きた時にはわたしはもう隣にいなかったからね。無理もないか。
「動かないなら…イタズラしちゃいますよ?」
「え、遠慮しますぅぅっ!」
ガバッと勢いよく飛び起きたサーニャさんがわたしから離れるように後退り、まさかのそのままゴンッと壁にいい音を立てて激突する。
「あぅ…」
「だ、大丈夫ですか? 見せてください」
「へ、平気ですからっ!」
ホントかなぁ……まぁサーニャさんをいじめるのはこのくらいにしとこうかな。これ以上したら口を聞いてくれなくなりそうだし。
「すいません、そこまで驚かれるとは思っていなくて…」
「…からは」
「え?」
「…次からは、ちゃんと寝る前に言ってください」
えっとぉ…つまり、事前に言えば潜り込んでもいいってこと!?
『話が進まないので邪な思考はそれくらいで放棄して下さい』
は、はーい…。
ーーーーーー
「サーニャさんは今日予定などはありますか?」
貰ってきた朝食を部屋で食べながら尋ねる。
「えぇっと、実は昨日レジーナさんと魔法の特訓をする約束をしたので、お昼くらいに会う予定があります」
「特訓、ですか」
どうやら昨日だけでかなり親しくなったようだ。にしても特訓、ねぇ…。
「マリーナ様もご一緒にどうでしょうか?」
「うーん…いきなり行ってはレジーナさんに迷惑ではないかと…」
わたしがいるだけでレジーナさん緊張しちゃうだろうし。
特訓に支障をきたす恐れがあるのなら、行かないほうがいいよね。
……というか、この特訓でサーニャさんが魔法をしっかりと使いこなせるようになったら、わたしが今用意している魔道具が無駄になるのでは?
(まぁ、それはそれでいっか!)
結局のところ魔道具はあくまで補助するだけ。有っても無くてもサーニャさんの努力が必要なのは変わらないしね。
「あっ。でも万が一に備えて、プレナを同行させたいです」
「プレナ様を、ですか?」
「はい。プレナはある程度魔法が使えるので、万が一魔法が暴走しても結界を張って被害を最小限に抑えることができるはずです」
「それは心強いです!」
「ということで、お願いできる? プレナ」
《……もう頷く以外の選択肢無くない? まぁいいけどさ。あんまり期待しないでよ? 主様ほどのものは張れないんだから》
まぁ、うん。そうね。
「サーニャさんが本気で魔法を使ったら流石に厳しいだろうけど、練習だから大丈夫だよ。ですよね?」
「も、もちろんです! 本気でなんて使うつもりありません!」
《本気でなくても、なんか怖い》
「だ、大丈夫です! ……多分」
……心配になってきた。そもそもわたし、サーニャさんがどれだけの威力の魔法を使えるか把握してないや。
「(やっぱり、行ったほうがいいのかな……)」
小声で思わずそう呟くと、その声をしっかりと聞いていたプレナが何度も頷いた。
《怖い》
いやそんな直球で言わないでよ。サーニャさん傷付くから。
「……やっぱりわたしも付いて行くことにします。ただし、レジーナさんには内緒で」
わたしは影から見守るのが最適解かな。
ーーーーーー
「あっ、レジーナさん!」
待ち合わせの場所にて、サーニャさんが手を振る。その先には人混みを何とかかき分けて進むレジーナさんの姿があった。
「すいません。遅れてしまいました…」
「いえ、わたしも今来たところですからお気になさらず」
軽く10分待ったけどね。まぁ、思ったよりも通りに人が多かったから仕方ないかな。
「今日は朝から仕事の説明をしていただいたのですが、わたしの理解力の無さから、予定よりも時間がかかってしまいまして…」
「そうだったんですね。しかし大丈夫ですか? 誘った側ではありますがお疲れでは…」
「大丈夫です、元々体力には自信がありますから。では行きましょうか」
その言葉を最後にふたりが連れ立って歩きはじめ、わたしはその後ろをこっそりと付いて行く。もちろん気配は消してるよ。
……なんというか、これちょっと楽しいかも。
『余計な扉は閉じたままでお願いします』
はーい……。