尋ね人発見
薄暗い路地をひたすら地図の通りに進んでいく。本当に迷路のような場所だ。
「お。あれかな」
しばらく進むと、路地に面した看板をぶら下げた扉を見つけた。
看板には開店とだけ書かれており、店名のようなものは見当たらない。だが、普通は人がほとんど通らないような家と家の間の路地に店の入口を設置したり、看板をぶら下げることはないので、ここで間違いないだろう。
扉を開ければ、カラランと軽い鈴の音が響く。
中は仄かな明かりが灯っており、壁に設置された棚には、用途がまるで分からない道具が所狭しと並んでいた。
「おや、いらっしゃい」
しばらく商品を眺めていると、店の奥からおじいさんが現れた。
「ここはヘンスさんのお店で合っていますか?」
「ああ、私がヘンスだよ。しかし君みたいな小さな子が来るなんて、何がご入用だい?」
「えっと、魔力を抑える魔道具はありますか? 無ければ作ってもらうことはできますか?」
「魔力を抑える魔道具かい? あるにはあるが……ちょっと待っていてくれ」
おじいさんが店の奥へと消える。その間ちょっと店の品を見てみようかな。
《なんか変なのー》
「こら。真面目に作ってる物なんだからそんなこと言わないの」
わたしが手に取ったのは、少し歪な形をした人形。まるで子供の裁縫の練習で作ったかのような出来だが、魔力を感じるので魔道具で間違いないだろう。でも効果が分からない。
「それが気になるのかい?」
「わっ!?」
いきなり声をかけられたから、ビックリしてしまった。
「驚かせてしまってすまないね。その魔道具は、【身代わりの人形】というものだよ」
「身代わり……?」
「そう。それを肌身離さず持っていると、何か悪い事が起こった時、一度だけ身代わりになってくれるんだ。流石に確実な死からは逃れられないけれどね」
なるほど……一瞬、見た目から呪いの人形かと思ったのは内緒にしておこう。
「それよりも…ほら、これらがお探しの魔力を抑える魔道具だよ」
ヘンスさんがカウンターに並べたのは、ネックレスや腕輪、イヤリングなどの多種多様な魔道具たち。
「魔力を抑えるといっても、様々な手法があってね。強制的に魔力を放出させて体内で暴走するのを防ぐものや、1回に出せる魔力量を制限するものなどがあるよ。どのようなものをお探しかな」
「えっと……魔力量を制限するもの、ですかね」
サーニャさんは別に魔力が制御出来ていない訳じゃないけれど、小さな調整ができない。例えるなら0か100かしか調整できないのだ。なら、放出する魔力量を制限するものが適しているだろう。
「ふむ……となると、腕輪型がいいね。魔力を放出し魔法を放つ場合、腕を伝って魔力を放出することが多いから、制限しやすい……でも、普通のものをお探しではないんだね?」
「…よく分かりましたね」
「この店に来る以上、普通の魔道具を求めている訳でないことは分かるよ。それで、どの程度の魔道具が必要なんだい?」
……全部見透かされてる。
「エルフが使っても、十分に制限できるものを」
「エルフか……いいね。久しぶりに腕が鳴る」
ヘンスさんがそう言って静かに笑う。その瞳には、確かな熱が篭っていた。
「材料が必要だと聞きました。何が必要ですか?」
「そう大層なものは必要ない。強いて言うなら、魔道具の核となる魔石が欲しいね。店にも在庫はあるけど、それじゃあエルフが使える程のものを作るのは少し難しい」
魔石かぁ……そこまで魔物を倒している訳では無いから、魔石はそう多くは持っていない。
『マリーナ様。この世界に来た当初に出会った魔物の魔石ならば無限収納庫にございます』
来た当初……あっ、ウサギ?
『はい。正式な種族名はバレットラビット。危険度はAランクですが、深淵の森に生息する個体の為Aランクオーバーとされています』
……なんか、地味にヤバいやつだったのね。
「あの、これでどうですか?」
プレナが入っているポーチから出した様に見せかけ、無限収納庫からバレットラビットの魔石を取り出し、ヘンスさんに手渡す。
初めてバレットラビットの魔石を見たけれど、大きさは10センチほどあり、透き通った濃い緑色をしていてとても綺麗だ。
「これは……」
ヘンスさんが魔石を光にかざしながらじっと見つめる。
「……うん、十分だ。これなら理想のものが完璧に創れる」
「よかったぁ…どれくらいでできますか?」
「そうだなぁ……2日後くらいに来てくれるかい。それまでに仕上げておくよ」
「分かりました。料金は?」
「その時でいいよ。要件に合う魔道具かどうか確認してからのほうがいいだろう?」
その言葉に頷いて返す。しっかりと自分の仕事に責任と自信を持つ人…いや、職人だね。
「では2日後に来ますね」
ヘンスさんに一礼してから店を出る。しかし思ったよりも早く終わってしまったせいで、まだ時間はありそう。
「サーニャさんが買い物を終えるまで、ちょっとブラブラしよっか」
《賛成っ! 主様、何か食べたい!》
「じゃあ屋台あたりを回ってみよっか」
ちょうどお昼時くらいだし、何かあるでしょ。